V・S・ラマチャンドラン著『脳のなかの幽霊』 ヒトの脳っておもしろい!

目次

 

今回、ご紹介するのは、V.S.ラマチャンドラン著『脳のなかの幽霊』。

私が買ったのは角川文庫版。

本書は神経学者のV.S.ラマチャンドラン氏が、仮説+実験によって

人間の脳(意識)の働きを解き明かしていく本です。

一般向けに書かれた本ですし、専門用語は本文中で説明されるので

かなり読みやすいです。この分野では有名なので興味のある方は一度、

読んでみては。以下、リンクを兼ねた画像です。

 

 

それでは、この本の内容をご紹介しましょう。

 

『脳のなかの幽霊』概要

各章は、著者が臨床で遭遇した神経疾患の患者の奇妙な症状を紹介し、その症状を手がかりに、人間の脳の仕組みや働きを論考していく構成になっている。たとえば、とうに切断された手足がまだあると感じる幻肢、自分の体の一部を人のものだと主張する自己身体否認、近親者を本人と認めず偽物だと主張するカプグラ・シンドロームなどなど。

 以上 同書 P406 訳者あとがき より

 

 訳者は上記に加えて、ラマチャンドラン氏が患者を対象にした実験がユニークだと書いています。ラマチャンドラン氏が使ったのは研究者にしか使えない大がかりな装置ではなく、鏡や綿棒といった身近なものなのです。

 患者の顔を綿棒でなでて幻肢(実際にはない幻の腕)に綿棒でなでられている感覚を生じさせたり、鏡を入れたボックスに手を入れさせて幻肢を動かしている感覚を与えたりするのです!

 

読んだ感想など

 はっきり言ってめちゃくちゃ面白い。下手なミステリ小説よりワクワクします。まず目次にある「第九章 神と大脳辺縁系」と「第十章 笑い死にをした女性」なんて本文を読む前からおもしろそうです。

 本書を読み進むと、なぜ幻肢・笑い死に・エイリアンシドローム(片手が勝手に動く)などが起こるのか、筆者の仮説が述べられます。人間の脳の働きは完全に解明されているわけではないので、あくまでも筆者が立てた仮説が書かれているだけですが、それでも十分おもしろい。それこそ、名探偵の推理でも読んでいる気分です。

  エイリアンシドロームの女性の場合は、ゴールドスタインという博士が診断しました。博士はこの女性の脳梁に損傷があり、右脳と左脳の連絡が取れなくなった結果、右脳が左脳の支配を受けなくなり左手が暴走しているのだろうと予想。女性が卒中で亡くなったあとに解剖してみると、やはり脳梁に損傷がありました。

 筆者は幻肢について、脳の地図の再配置が問題だとしています。実は脳は成人後も変化することがあり、腕を失った場合も脳が変化するらしい。腕の場合は顔面に地図ができあがり、表情を変えるたびに脳中の「手」の領域を刺激し、幻の手の感覚を生みだすのだという仮説を立てています。このため、患者のトムの顔に綿棒でふれた時、幻の手にも同じ感覚があったのです。

 第2章で患者のトムは実験後、「幻の手が時々猛烈にかゆくなって困っていたが、どこをかけばいいのかわかった」と言ってウィンクします。このやりとりが小説っぽくておもしろい。 

 笑い死にした女性の場合、ある朝急に笑いだして1時間半が経ち、昏睡状態になって24時間後に亡くなりました。解剖してみたところ、脳のまんなかの空洞に血液がたまっていました。どうやら、辺縁系の一部に「笑いの回路」があるようです。

 次に、筆者は、なぜ「笑い」というものが人間にあるのかを考えます。

私の意見では、笑いは主として、個人が社会集団の他のメンバー(通常は近縁者)に、検出された異常はささいなことなので心配いらないと合図するためにあるのではないかというものだ。

以上 同書 P324 第十章 笑い死にをした女性 より

 筆者はこの自説を「まちがい警報説」と呼んでいます。たとえば太った男性がバナナの皮ですべって転んだ場合、痛そうにしていたら助けるべきですが、平気そうに起きあがったら笑いが起きると。それは、この男性は助けなくも大丈夫だとまわりに知らせるためだというのです。言われてみればそうかもしれない。

 一番おもしろかったのは「第三章 幻を追う」でした。

私たちは、アイリーンのような患者が、存在しない腕の実際の動きを知覚できるように、「バーチャルリアリティ・ボックス」をつくった。ふたを除去した段ボール箱のなかに鏡を縦に置いたものだ。

 以上 同書 P89 第三章 幻を追う より

 これによって患者たちは幻の腕が動いているかのように見えるので、幻肢をコントロールすることができ、幻肢の痛みをとることができるのではないか。こう考えた筆者は実際に患者に試してもらいます。そうしたら効果があったのです! 患者は幻の腕を動かすことができ、幻の拳を開いて幻の痛みを取ることに成功しました! これはすごい! こんなことに成功したのは著者が初めてでしょう。あまりに単純なので、今まで誰も試さなかったことが不思議です。

 最後に。第三章の結びが印象的でした。

あなたの身体イメージは、持続性があるように思えるにもかかわらず、まったくはかない内部の構造であり、簡単なトリックで根底から変化してしまう。身体イメージは、あなたが自分の遺伝子を子どもに伝えるために一時的につくりだしている外形にすぎないのだ。

 以上 同書 P112 第三章 幻を追う より

 作中の、家でできる実験もおもしろい。ちょっと怖いから試してないけど。

 

以上。V・S・ラマチャンドラン著『脳のなかの幽霊』をご紹介しました。