ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

マンガ『伝説のお母さん』 異世界の子育て事情なのに既視感があるのはなぜ?

目次

 

今回、ご紹介するのは、子育てしながら魔王と戦うことを決意した魔法使いのお母さんの活躍を描くマンガ『伝説のお母さん』。作者はかねもとさんで、出版社は(株)KADOKAWA。全ページ色つきにも関わらず994円という1000円でお釣りが出る価格です。これはすごいのでは。以下、リンクを兼ねた表紙の画像。電子書籍版とは表紙絵がちがうようです。

 

 

それでは以下、この異世界子育てマンガについて解説していきます。

 

『伝説のお母さん』あらすじ

なんやかんやあって数年前に封印した魔王が復活した

国王は勇者一行に再び旅に出て魔王を倒すよう命令を下す

しかしその中のひとりである伝説の魔法使いは―

待機児童を抱えていた―

同書 P3 まおうのふっかつ より

 

「このままでは順番待ちで世界が滅びますよ」

「子育ての優先順位を後回しにした人類の負けです 滅びましょう」

 同書 P36より

 

はい。上記の引用だけでもいい気がしますが、もうちょっと説明を。

要するに、一児の母になった魔法使いさんが子供を預けることができず魔王討伐の旅に出られないので、戦力不足で世界が滅ぶかもしれないって話です。

(後に伝説のお母さんと呼ばれる)魔法使いのお母さんは、かつて共に旅をした伝説の一行と飲み会をして、旅に出るかどうかを話し合います。

前回の冒険から時は過ぎ、今ではメンバーの5人中3人が既婚者で子持ち。気軽に長旅はできません。9時に家を出て17時に帰ってくるのが限界です。

一行は魔法使いの赤ちゃん(娘)を連れて旅ができないか試しますが、とても無理だという結論に。魔法使いのお母さんはこのあと、娘を夫にまかせて時短勤務をしてみたりしますが、そうこうしているうちに後輩の若い魔法使いちゃんが魔王討伐の命を受けて出発。しかし、後輩ちゃんがリーダーを務めるパーティは魔王に負けて全滅してしまいました。長期的には世界がヤバイし、短期的には魔法使い親子が住む城下町がヤバイ。

魔法具で子供を産む前の時間に戻してやろうと言う魔王の誘惑をはねのけた魔法使いのお母さんは城下町で、復活した魔王と対峙します。

魔法使いのお母さんは、どう魔王と戦うのか。城下町は、世界はどうなる? 

 

読んだ感想(ネタバレ注意)

子育て事情の歪みは古い男女観と悪い待遇のせい。

この作品はあくまでも異世界を舞台にしているのですが、待機児童・保育所・育休なんて言葉が使われているし、剣と魔法の世界のはずなのにスマホがあります。こんな世界でファンタジーな格好をした伝説の一行が酒場で何を話しているのかと言えば、「育児は女の仕事」だの、「男性で初めて育休を取ったら白い目で見られるようになった」だの。今この瞬間に日本のどこかで誰か(の親御さん)が言っていてもおかしくない話。聞いてる分にはおもしろいです。

飲み会のシーンでは、独身でお金持ちで男女観が古い(伝説の)神官と、既婚者で子育てに参加している(伝説の)勇者さんの対比が描かれています。「そんなことばかり言っているからおまえは結婚できないんだ」という(伝説の)女拳闘士さんから神官へのツッコミがいい。私が結婚するなら勇者さんみたいな男性がいいです。

飲み会で話し合われたことは笑えるんですが、この飲み会のあとに笑えない事が起こります。勇者さんが、魔王側のあまりの待遇の良さに寝返ったのです。これは無理もないことでした。なにせ魔王側の待遇が良すぎる。例をあげると、

完全週休二日制、残業ゼロ、有給消化率100%など。

こんな待遇を実現できる人間の組織があるのか? どんだけホワイトやねん。こんなん、よっぽどの大企業じゃないんと無理ちゃうん? 

思わず舞台が異世界であることを忘れてツッコミを入れてしまいました。本作の勇者の寝返りはたぶん作者さんの「このままだと日本から優秀な人材が海外に流出してしまう」という危機感を表しているのでしょう。「育った文化は同じだけど自分の事情に無理解な人々」と「育った文化はちがうけど自分の事情に理解ある人々」と、どちらに囲まれて働きたいかという話ですね。後者を選ぶ人がいても仕方ないと思います。勇者さんは後者を選び、自分の子を魔族が運営している保育所に預け、魔族たちの中で生きると決断したのです。

 

優しいお母さんが(ある意味)カッコイイ!

 復活して後輩ちゃんのパーティを返り討ちにした魔王は城下町で、伝説の一行(勇者を除く)に再会します。しかし魔王は、戦う力が尽きた一行に攻撃してきません。そのかわりに魔王が放ったものは魔法よりも怖ろしいもの、言霊でした。細身の神官に「もっと男らしくしないとダメ」、独身の女拳闘士に「その年齢で結婚してないなんて」、三十路を過ぎた女シーフに「女は二十代まで」と言い放つのです! さすがは魔王、なんて怖ろしい攻撃なんでしょう!

続いて魔王は、魔法使いのお母さんにある魔法具を見せ、遠まわしに、魔法使いのおまえが弱くなったのは、子供を産んで母親になってしまったせいだと言います。そして「おまえが子供を産む前まで、世界の時間を戻そう」と提案してくるのです。

これを断る魔法使いのお母さんのセリフがカッコイイ!

「もし子供がいなかったら今の私はいません 今の私にしかできないことがあります!」

同書 P167 きゃんせる より

ここから、魔法使いのお母さんによる怒涛の反撃(反論)が始まります。歌える子守歌が増えた、ご飯の最中にう○ちオムツを替えられる。これが今の私なんです、と。これを聞いた女拳闘士は「頼むもっとかっこいいやつで反撃してくれ」と言いますが、私は魔法使いのお母さんはすでにカッコイイと思います。なんてステキなお母さんなんだ!これはぜひ、お父さんにも言えるようになってほしいセリフです。

 

魔王が義賊と化してて笑える。

「金品を払い労働条件をよいものにし自らこちらへ赴くように仕向けておる」

「なんと‥‥! 戦わずして敵を引き入れるとは‥‥」

「まあその金は人間の街から奪ったものだがなぁ」

 同書 P197 まっちぽんぷ より

 

魔王は人間の街を占領して、無駄に建てられた公共施設を奪い、魔界・人間界共用の保育所を大量につくります。 そして人間から奪ったお金で人間の保育士に賃金を払っているのです! 何をしているんだ魔王。やってることがもはや義賊だぞ(笑) ある意味優しいこの魔王、実は子持ちです。

 

「魔族と人間では成長の速度が違う この子は我が封印されるはるか前に生まれた 人間でいえばすでに60年は生きている」

「60‥‥!?」

「ああ だからイヤイヤ期も20年くらい続いている」

「きっつ‥‥」

 同書 P203 じかんのかんかく より

 

「勇者よ ともに作り上げようぞ 大量の保育所と 子供たちの高笑いが響く世界を―」

「あれ‥‥? めっちゃいいじゃん‥‥」

 同書 P205 せかいせいふく より

 

魔王のお子さんがかわいい顔をしている。魔王もこの子のためにがんばってるんだと思うとつい応援したくなります。ダメなんだけど。寝返った勇者の気持ちがわかるというものです。

 

よく考えたら何も解決していない!

結局、魔法使いのお母さんが就労し、討伐の旅に出ることになりました。そして、国王の工作によって無職になったお父さんが、魔法使いさんのかわりに専業主夫になり、赤ちゃんのお世話をすることに。ここまではいいでしょう。作中では保育所などの制度的な問題はまだ解決していませんが、魔法使いのお母さんが家に縛られることはなくなり、無事に魔王討伐パーティが結成されました。

魔法使い親子の家庭環境がよくなったところで。この作品をファンタジー系として真面目に考察すると真の問題は、この旅の結末でしょう。

今の魔王は人間に効く言霊を操れるほど、人間の心を理解しています。さらに、世界征服の目的が人類の根絶やし⇒支配に変わっているので、もしかしたら講和条約を結んで和平ができるかもしれません。魔王討伐パーティを、人間の国から来た使者だと解釈すれば、これは可能なことです。

しかし、魔王と、魔王討伐パーティの両者はこの建設的な選択肢に気がつかないかもしれません。どちらかが気づくまではガチで戦闘でしょうし、魔王側についた勇者さんとの一戦は避けられないでしょう。勇者さんとの一戦がシリアスな戦闘になるか、コミカルな説得になるかはわかりませんが。本編の雰囲気からすると、コミカル路線になりそうですね。

どちらにせよ、人間キャラと魔王のお子さんは無事でありますように。

 

おわりに

本作は、今まさに子育て中のご夫婦と、これから子供をつくろうとしている方と、あとは子育て関係の行政に携わる人に読んでほしいです。上の人々が庶民の子育てに無関心で、フォローせずに放置した場合、デキる庶民は外国に移住して、並の庶民は子供をつくらず国民が減ってしまいます。日本を存続させたいのならば、日本中の父母にこの書を配って読ませ、本書を行政の教科書にするべきです!

 

以上。マンガ『伝説のお母さん』をご紹介しました。

 

 

※本記事は、2018年9月18日に改題しました。