ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

漫画『ヘテロゲニア リンギスティコ』 若き言語学者が魔界でモンスターの文化を学ぶ。ワーウルフのススキちゃんが可愛い。

目次

 

今回、ご紹介するのは、瀬野反人さんの漫画「ヘテロゲニア リンギスティコ ー異種族言語学入門ー」です。若き言語学者が魔界に1年間滞在し、現地語を学ぶというお話。ファンタジー好き・考察好きな方にはぜひ読んでほしい作品です。以下、アマゾンへのリンクを兼ねた表紙の画像。

右にいる緑の服を来た青年が、主人公の言語学者ハカバくん。

左にいる獣人少女がススキちゃん

それでは以下、この作品を解説しながら推していきます。

 

主な登場人物(登場種)

ハカバ:主人公。職業は言語学者。腰を痛めた教授にかわって、気球で魔界にやってきた。目的は現地語(モンスター語)を調べて記録すること。日々、現地の文化(魔界の文化)にふれ、異種族の言語をマスターするべく奮闘している。先入観はあるが偏見はない。

ススキ:人間とワーウルフの混血児である少女。母親とともにワーウルフの村で暮らしている。父親はハカバの恩師である老教授。ワーウルフ語と人間語の両方を話せるバイリンガル。手先が器用。今回の旅の現地ガイドで、ハカバの旅に同行し、ハカバに現地の言語と文化を教える。

教授:ハカバが持っている覚え書きを書いた言語学者。主人公ハカバの恩師で、ススキの父親。気球から落ちて腰を痛めたので魔界に来れなかった。若き日にワーウルフの村を訪れ、ワーウルフの尻まで嗅いだ*1という、やる時はやりきる人。

ワーウルフ:2足でも4足でも歩ける狼。音声と臭いで会話し、相手の顔をなめて挨拶する。毛皮があるので服は来ていないが、混血児のススキは例外的に服を着ている。伝説のようにむやみと人を襲うことはない。死者の毛皮を剥いで利用する習慣を持つ。

リザードマン:ワーウルフからは「大きなあご」と呼ばれている種。2足でも4足でも歩ける大トカゲ。寒さに弱いのかして毛皮をはおっているが、両性ともに服装は同じ。色覚が発達しており、顔料を使って「色文字」を書く。

クラーケン:海辺の集落でリザードマンやワーウルフと交流している巨大なタコ。相手によってコミュニケーションの方法を変えてくれる親切な種。体色を変化させて岩に擬態することができる。

ハーピー:伝説のように半人半鳥の姿をしているわけではなく、ワシのような姿をしている種。当然ながら空を飛べる。同種間では音声で会話しているが、異種族とは身振りで会話する。動きが早くて複雑なため、異種族が長くハーピーと話すと非常に疲れる。

人間:村に現れたワーウルフを見てモンスターだと言い、交流を試みなかった野蛮な種。戦時には、敵対した種を「文化・文明を持たない」「野卑で残虐」「善性なき獣」だと断じた。自分たちと姿形が異なる種を極端に恐がり差別しがち。自分たち以外の種にも高い知性があることを認めるような、リベラルな個体は少数派。

 

あらすじ

よく考えたら登場人物ハカバの項にほとんど書いているので割愛。

 

こんな人にオススメ

・ファンタジー系が好きな人

・フィクションの考察が好きな人

・獣人少女が好きな人

・動物全般が好きな人

・人間の偏見の源が何なのか知りたい人

以下、それぞれについて解説。

 

ファンタジー系・フィクションの考察が好きな人について:ファンタジー好きと考察好きがこの作品の主なターゲットなのは言わずもがな。異世界言語学系の作品は他にもあることですし、意外と需要がある分野みたいですね。種族がちがうと発声器官の構造もちがうので、発音できない音は発音できる音で代用するとか。そもそも発声できる音域がちがう場合は、音声ではなく身振りで会話するとか。種族を超えた共通語がないので、代用の発音・語を使った混合言語で話しているとか。ワーウルフは笛を吹く時に口を使わず、フイゴを笛に繋ぎ、足で踏んで演奏するとか。よく考えられている設定だと思います。身体構造がちがうんだから、当然そうなるよねっていう。

獣人少女が好きな人について:獣人少女についてもまあ、あまり言うことはないですね。割とメジャーな性癖かと思います。ケモノの擬人化度はどれぐらいが好きか(許せるか)は人によりますが、私はパーツ萌え(いわゆるケモミミスト)なので、耳とシッポはあるけど顔は少女で服を着ているススキちゃんの造形が大好きです。大きくてクリッとした目。黒い体毛。拙い喋り方。かわいいぞススキちゃん

動物全般が好きな人について:このマンガの何がすばらしいって、登場する種があまり擬人化されておらず、動物の特徴というか造形がかなり残っていて動物らしい体つきをしていることですね! ワーウルフリザードマンは2足でも歩けるけど4足でも歩けるし。4足の時は獣らしくてステキ。クラーケンは変に禍々しいこともなく普通の大タコですし、ハーピーはまんまワシ(または鷹)みたいな姿をしていて神秘的ではありません。これはすばらしい。私は、なんでも無闇と擬人化することには反対派です。まあ、本作の異種族の擬人化度が低いのには作者が動物好きだという以外の理由もあるのでしょうが。本作の異種族が、例えば「モンスター娘がいる日常」みたいに半人半獣の姿をしていたら、発声器官と耳の構造が人間と同じになってしまい、他の言語を使う必要がなくなってしまいます。人間が魔界の言語を学ぶ必要がありません。そうなると、この作品の基本コンセプトが成り立たなくなってしまいます。だから本作の異種族は動物らしい姿をしている、というのが漫画的な真相でしょう。

ここまで考えて気がついたのは、「モンスター娘」を半人半獣の姿で描く人は文化摩擦を描きたくないというか、萌えを描きたい人なんじゃないかということ。あまりにも身体構造がちがうと、交流するにはまず言語のすり合わせから始めないといけません。しかし、相手が半人なら人間の音声言語がそのまま使えるので言葉の壁がなく、文化摩擦の描写をすっとばして交流を描けます。つまり、異種族を半人の姿で描くと、萌えを描くハードルが低くなるのではないでしょうか。我ながらこれは大発見のような気がする。この観点で見ると、本作の萌え度はかなり低いですね。半人キャラは今のところススキちゃんしかいないし。まあ、困惑する真面目な青年萌えに走るという手もあるけど。

偏見の源について:動物そのまんま! みたいな外見の異種族を見ていると、彼らを「モンスター」と一括りにしてしまったり、やれ好戦的だの、人を襲うだのというイメージを持つことが、この世界ではいかに愚かであるかがわかります。彼らも人間と同様に、ただ知能が高いだけの動物なのであり、無意味に「野卑で残虐」な化け物のわけではありません。というか、それはむしろ人間どものことだろ。人間は昔、魔界と戦争していたようですが、いかに敵対していたとはいえ、彼らを評して「善性なき獣」だと断じてしまうのはいかがなものか。そういう人間に善性はあったのか。無かっただろう。

異種族に対する数々の偏見はどうして生まれたのでしょうか。ススキちゃんのお母さんいわく、元々あの村にいた人間はワーウルフたちを見て「モンスターがあらわれた!」と剣を向けてきた*2そうです。うーん、実に野蛮な行動ですね。狼と似た外見をしているからといって狼のように襲ってくるだろうという短絡的な発想。おまえは子供か。村人よ少しは頭を使え!

では、どうして村人は狼みたいな彼らに剣を向けてしまったのか。それは「恐かったから」でしょう。作中の現代では魔界の住人にも理性があり、言語や文化を持つことがわかっています。しかし、学者のハカバくんでさえも魔界は「来る前は怖かった」そうです。「でも意思疎通できるワーウルフは恐ろしくはない」「怖さの源は意思疎通できない事だったのかもしれない」と、ハカバくんは日誌に書いて*3います。

少し飛躍しますが、私がここから考えたのは、偏見は恐怖の裏返しなのではないかということ。魔界の住人は攻撃的であるという偏見は、人間が彼らを怖がっているから生まれたのではないでしょうか。きっと現実の偏見、人種差別も似たようなもので、理解できない行動をする◯◯人への恐怖心が、「◯◯人って××だよね」みたいな偏見を生んでいるのでしょう。ただ相手のことをよく知らないから怖いだけなのであって、お互いの文化を知り無知を克服すれば、差別問題は自然に解消されるのではないかと。本作は、差別の源は偏見であり、偏見の源は無知ゆえの恐怖心なのだと気づかせてくれた一作でした。

気がついたらシリアスな話になってしまった。ここらへんでまとめます。とりあえず、かわいい獣人少女と異文化モノが好きな人は本作を買え。

 

以上。瀬野反人さんの漫画「ヘテロゲニア リンギスティコ ー異種族言語学入門ー」をご紹介しました。なかなか面白さを解説しにくい作品ですが、我ながらがんばった。

 

実はウェブで連載されている作品なので、一応リンク(⬇︎)を。 

web-ace.jp

 

こちらはアマゾンへのリンク(⬇︎)

 

※本記事は、2019年10月5日に修正しました。

 

*1:P14 5コマ目 ススキの母、枯れ草さんのセリフより

*2:P15 3コマ目 枯れ草さんのセリフより

*3:P17 1,2コマ目