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今回、ご紹介するのは、絵本『ちいさなちいさな王様』です。アクセル・ハッケ作、ミヒャエル・ゾーヴァ絵で、講談社から出ています。絵本といえど判型は縦長で、内容は深くて大人向け。その表紙絵&同じ柄のマグネットをお見せしましょう。以下、画像です。
© 2009 Michael Sowa
右のマグネットは、JR京都駅の美術館「えき」で開かれていたゾーヴァ氏の展覧会で買ってきたもの。本とマグネットを同時に買ったのかどうかは忘れましたが、この絵を含めて気に入っている絵本です。表紙の絵は、マグカップと同じぐらいの大きさの王様が、新聞の上にちょこんと立っているところ。シュールでおもしろい。
それでは以下、本作を解説していきます。
あらすじ。僕には見えていないものが多いらしい。
ある日、ふらりと僕の部屋にあらわれた、
僕の人差し指サイズの気まぐれな小さな王様。
以上、カバー袖より。
これが物語のはじまり。この王様の名前は「十二月王二世」で、好物はグミベアー*1。この小さな王様は僕の生活に興味津々で、質問と説教が多い。
この王様の説明によると、王様の国の人は、生まれた時に体が大きくて、歳をとるごとに体が小さくなっていくのだという。王様の国の人は、生まれつき大きいのだから、当然ながら女の腹からは生まれない。
それではどうやって生まれるのかというと、夫婦が空から星をとってきてベッドに入れておくらしい。そうしておくと、翌日に我が子がベッドで目覚め、その日から働きはじめるのだそうだ。
この説明を聞く限りだと、王様の国の人たちは自分たちと逆のようだが、王様に指摘されて僕は気づく。見方によっては自分たちもまた、生まれつき大きくて、歳をとるごとに小さくなっているのだ。幼いころには想像力と可能性を持っているのに、歳をとるごとに知識が増えて想像力は衰え、いつのまにか大人になって職業を持ち、他の何かになる可能性を失う。
ある休日、王様は僕に「おまえの職場へのルートを案内しろ」と言ってきた。毎日通っているから退屈だし、今日は職場へ行かなくてもいいのに。僕がしぶしぶ王様を胸ポケットへ入れ、通りにある店を説明しながら案内していると、見慣れぬ者たちがいた。交通を鎮静しようとする白い服の詩人や、出勤している人々を攻撃する竜など。
どうやら、僕には見えていないものが多いらしい。小さな王様がそばにいてくれることが、せめてもの慰めだ。
読んだ感想など(ネタバレ注意)
いやあ、この王様の指摘は鋭いですね! 言われてみれば同意することですが、指摘されるまで気づきませんでした。さて、この物語のオチなんですが、なんと、王様がどうなったのか、最後まで読んでもわかりません。王様がどうやってグミベアーを入手しているのかは書かれています。王様は直筆の絵と引き換えに、グミベアーを得ているのです。王様の絵を引き取ってグミベアーをくれるのは「絵持ち」という人物。たくさんの部屋がある家で一人で暮らしていて、日がな一日、無数の絵を観てまわっているそうです。「僕」がソファで目を閉じて(眠って?)、王様の小さなトラックに便乗し、絵持ちの家を訪ねた日までが描写されています。このあとどうなったのか書かれていないところも、お気に入りの理由かもしれません。もしかしたら描写されていないだけで、この物語の世界は今も続いているのかも、なんて想像すると楽しい。
以上、アクセル・ハッケ作、ミヒャエル・ゾーヴァ絵、絵本『ちいさなちいさな王様』の紹介でした。
※この記事は2024/1/13に修正しました。
*1:クマの形をしたグミのキャンディー。ドイツでポピュラーなお菓子のひとつ。