ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

PHP新書より『ロボットは涙を流すか』。人間とロボットのちがいを考える。

目次

 

今回、ご紹介するのは、PHP新書の『ロボットは涙を流すか』。

PHP研究所から、2010年に出ています。

著者は「ジェミノイド」で有名な工学博士、石黒 浩氏。

以下、リンクを兼ねた画像です。

 

 

本書の目次

本書は、

第1章 ロボットは予言する

第2章 アンドロイドになりたい

第3章 「不気味の谷」を越えて

第4章 ロボットの森へ

第5章 人とアンドロイドの間

第6章 ロボットの生きる道

第7章 人とロボットが出会う街角

以上、全7章からなっています。

 

章の数が多いですが、本文は189ページとコンパクト。

さすがは新書! 意外と薄くて、これといった専門用語もなく

素人むけで、読みやすい文章で助かる。

ひとつの章につき一作ぐらい、SF作品*1が登場します。

 

著者が目指しているロボット像

ここに書く解説は、本書の目次とは順不同なのでご注意ください。

 

本書では、「人間とは何か」を考えながら、

それを元に著者が目指すロボット像が書かれています。

 

著者が目指していることの一つは、自分がつくったロボットが

フィクションに登場するような「ロボットの墓場」に

捨てられないようにすること。なんの儀式もなく捨てることに

抵抗感を持たれるようなロボットをつくることです。

 

そのためにはどうしたらいいのか。まずは「不気味の谷」を越える

人間らしい外見を持つこと。次に、ロボットに対面した人間に

このロボットには「こころ」がある、と感じてもらえること。

 

では、どうしたらロボットにも「こころ」があると思ってもらえるのか。

著者は以下のように考えています。

 

社会性のループに入る

    ⇓

社会の一員として認められる

    ⇓

メンバーならば「こころ」を持っているとみなされる

 

「こころ」があると認められるかどうかは、社会の一員になれるかどうかだ。

こう考えてしまえば、あとはそのための手段を考えるだけです。

著者はそのためにロボットが「社会性のループ」に入ることを目指しています。

 

本書によれば「社会性のループ」とは、

話の内容が伴わない、人々の間をゆるくつないでいるコミュニケーションの輪

のようなもの、だそうです。

 

これに参加するのに必要なのは、長くて複雑な話ができることではなく、

うなずいたり、微笑んだりできることなのではないでしょうか。

本書では看護師さんアンドロイドの例があげられています。

診察室にいて、患者さんの話に同調できるタイミングでうんうんと

うなずいたり、ぱっと微笑んだりしてくれるのだとか。

 

著者はメンバーになってしまうのが先で、

メンバーだと認められれば「こころ」を持っていることになると結論しました。

 

もし「人間とは何か?」をこのような社会的な面から定義するならば、ロボットが人間社会の一員になる日も決して遠くはないだろう。

以上、同書 P137 第五章 人とアンドロイドのあいだ より。

 

人間とは何でないか

著者は「人間とは何か」を考えながらも、同時に

「人間とは何でないか」という問いの答えを探っています。

様々な行動を機械に置き換えていって、この問いを突きつめ、

最後に残ったものが人間らしさの正体、なのかも。

 

私たちが「これこそが人間だ」と考えるもの、「人間らしい」ものとして行っていることのうち、新たに実現できる振る舞いをロボットに実装していく。これを人々が実際にどう認知するのか実証実験で追いかけていく。

 以上、同書 P29 第一章 ロボットは予言する より

 

つまり、技術者の目線で「人間らしさとは何か」を考えている。

人間らしさを定義するのは難しいから、外堀から埋めていって

最後に残ったのが人間らしさなのではないか、と考えられているのでしょう。

 

読んだ感想

本文は189ページとコンパクトな新書のはずなのに、

いざ解説してみたら長文気味になりました。

 

技術者の目線で考えられた「人間とは何か」論は、わかりやすい。

哲学的な「人間とは何か」論にうんざりしていたり、

そもそも理解できない、と思っている方にオススメの本です。

 

人間らしさに確かな核などなく、消去法で残ったものが、

真の人間らしさなのではないか。人間がしていることリストを

塗りつぶしていき、最後に残るのが人間の正体なのだろうという発想は、

怖いけどおもしろいです。

 

以上。PHP新書より『ロボットは涙を流すか』をご紹介しました。