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今回、ご紹介するのは、小説『探偵AIのリアル・ディープラーニング』。
作者は早坂吝(はやさか・やぶさか)さんで、新潮社の新潮文庫nexから出ています。
以下、アマゾンへのリンクを兼ねた表紙の画像です。
表紙を飾っているのはAIの相以ちゃん。
作中で《刑事》から《探偵》に転職します。
久しぶりに新刊の小説を買った理由
ネットの書評で部分的にバカミスであるとの情報を入手。実は新刊で買うかどうか迷っていたのですが、ディープラーニングという今時のテーマを扱いながらもバカミスの要素があるということで買ってみました。ちなみにバカミスとは、ウィキペディアによると
バカミスとは、日本国内における推理小説の分類の1つで、「おバカなミステリー」もしくは「バカバカしいミステリー」の略語である。ただし、この「バカな」は(この言葉の定義については諸説あるが、一般的に)小説作品を侮辱するような意味合いの「馬鹿な」ではなく、「そんなバカな!!」のような感嘆、賛嘆などの意味を込めたものと解釈される。当然のごとくこの系統にはリアリズムの議論は意味をなさず、むしろそれらを犠牲にしてでもミステリーゲームとしての意外性・娯楽性を過剰に追求したものが非常に多い。
以上、バカミス - Wikipediaより
ということでした。バカミスって言葉は知っていましたが、実際に読んだのは本作が初めてだと思います。本記事で強調したいのはバカミス要素ではなく、帯には「本格ミステリ×人工知能科学」とあるのですが、購入の決め手になったのはバカミス要素でした。人工知能と人間が対立する話自体は特に珍しくはないでしょう。
あらすじ
人工知能の研究者である父・合尾創(あいお・つくる)が、離れのプレハブ小屋で焼死しているのがみつかった。警察は事故だというが、息子の合尾輔(あいお・たすく)にはとても信じられない。
事件の手がかりを求めて亡き父の部屋を調べていると、一枚のSDカードをみつけた。その中身はなんと、相以(あい)と名乗る《刑事》のAIだった。
相以は双子の姉のAIらしい。双子の妹にあたるAIの名は以相(いあ)。以相は《犯人》のAIで、どちらも父・合尾創につくられたという。
以相はあのプレハブ小屋のコンピュータの中にいたらしいが、燃えてしまったとは限らない。
以相はどこに持ち去られたのか? 父は本当に事故死だったのか? 輔は相以と協力して真相を追っていく。そして知ったのは、テロリスト集団「オクタコア」の存在。
「オクタコア」の一員に迎えられた以相は、彼らとともに何をするのか?
双子AIの頭脳対決と、それに巻き込まれる人間たちの物語。
おすすめポイント
まず、舞台が近未来の人工知能ものなので、とっつきやすい。本作の相以ちゃんは人工知能プログラムなので、主人公の輔くんが気に入りそうな少女の外見になり、スマホに入れてもらって移動します。これがアンドロイドものだとハードSF寄りになってしまい、読む人を選ぶかも。そう考えると本作は、SFとしては軽めです。
人工知能の開発において有名な問題が各章のタイトルになっており、エンタメ小説を読みながら、有名な問題の概要を学べるのが楽しくて、ためになりました。
本作にバカミス要素があることはすでに書きましたが、本作のバカミス要素は第2話の内容だけではなく、登場人物のネーミングにもあると思います。例をあげると、
主人公:合尾輔(あいお・たすく) 由来:AI(あい)を助けるから?
主人公の父:合尾創(あいお・つくる) 由来:AI(あい)をつくるから?
父の研究室にいた准教授:下端(しもはた) 由来:下っ端から?
オクタコアのメンバー:縦嚙理音(たてがみ・りおん) 由来:雄ライオンから?
など。
登場人物の一部は作中の役割から名付けられており、覚えやすくてわかりやすいです。あと、「オクタコア」のメンバーには二つ名があるのが中二心をくすぐって楽しい。バトルもののキャラクターには二つ名を名乗ってほしい派の方はうれしいかも。私はちょっとトキメキました。いいよね二つ名。フィクションの醍醐味だよね。
感想(ネタバレ注意)
細かい謎は回収されきらないままエンド。すべての謎が一冊で回収される作品が読みたい方にはおすすめしません。巻数表示こそありませんが、続編があることが前提になっている終わり方だと思いました。その他の点には不満はありません。主人公とともに成長する美少女AIなんて、いかにもフィクションっぽくてステキです。
この作品、主人公は合尾輔くんですが、作品の主軸は双子AIの頭脳対決だと思います。実は輔くんの両親の死の真相は今作で解明しており、続編ではますます双子AIの頭脳対決がメインになりそうな気配です。輔くんは巻き込まれ型の主人公ですね。
この作品の主軸は双子AIの頭脳対決だとすると、主人公の輔くんに限らず、全ての登場人物が、この対決に巻き込まれていると言えるでしょう。個人的に、刑事の右龍さんは救われてほしい人No.1です。
「オクタコア」の皮肉な終わり方も読み所の一つ。悪者が成敗された、当然の報いだと思えば気分がいい。悲しい過去があるメンバーもいるので、悲しいと言えば悲しい。意見が分かれるところだと思いますが、私は残酷かつ知的好奇心に正直な以相ちゃんが好きになりました。人間につくられたからといって、人間に従う必要はカケラもないわけで。発想が自由な以相ちゃん、すばらしい!
以相ちゃんが勝ってはいけない。きっと人類が滅ぶ。それがわかってても、以相ちゃんを応援したくなってしまいました。
読後、あなたは、相以ちゃんと以相ちゃん、どっち派になっているでしょう?
人工知能に興味はあれど文系で、解説書は味気ないと思っている方にオススメ。
以上。小説『探偵AIのリアル・ディープラーニング』をご紹介しました。テロリスト集団「オクタコア」の目的は、本書を読んでのお楽しみです。
追記:続編『犯人IAのインテリジェント・アンプリファー』が出ました!
前作を図書館に寄贈してしまった月に出た続編。これは一発屋で続編出ないパターンだろとか思ってた(失礼)。意外と早く出ちゃったじゃん。これはもうレビューするしかないだろ。と思って新刊を買って読んだわけですが、前作に比べてバカミス要素はかなり少なくなっているのに話の規模は大きい。さらに、AIの問題と絡めたネタが少ないので啓蒙書の要素も減っている。今作も啓蒙系バカミスだと思っていたのにシリアスなミステリ方面に舵をきられてしまい、肩すかしを食らった気分ですね。登場人物のその後と犯人IAの活躍を見たい人以外にはおすすめしません。おまけに右龍さんが救われないとか、なんのための続編だ! キャラ萌えしない人は前作だけ読めばいいかと。前作の出来がよすぎた。前作も今作もマンガ化すればいいと思います。このシリーズは絵がついているほうが断然いいだろ! だってそうすれば2人の美少女アバターがいっぱい見れるじゃん。どうですかね、新潮社さん。