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今回、ご紹介するのはサンリオの映画「キキとララの青い鳥」です。主演(チルチルとミチルの役)はキキとララ。上映時間は60分ほどで、マイメロディの「赤ずきん」と抱き合わせで1枚のDVDになっている作品。以下、リンクを兼ねた画像です。
原作はメーテルリンクの「青い鳥」とテロップに表示されていたので、絵本を参考にしたわけではないようです。ということは、今作のマイルドさはサンリオ独自のものなのですね。原作について書いた過去記事もありますので、よければこちらもどうぞ(⇓)
それでは以下、この作品について解説していきます。
サンリオ版「青い鳥」あらすじ
貧しい木こりの子供のチルチルとミチルは、家で留守番をしていた。近所の家では、盛大なお誕生会をしている。二人には、このお誕生日会の様子を窓から眺めてうらやむことしかできない。
夜、チルチルとミチルが犬のチロウ・猫のチレットと眠っていると、ドアから物音がした。チルチルとミチルは、お母さんが帰って来たと思い、喜んで起きる。しかし、ドアから入ってきたのは、見知らぬおばあさんだった。
おばあさんは、チルチルとミチルに、娘のために青い鳥を探してほしいという。青い鳥をみつけられれば、みんなが幸せになれるらしい。チルチルとミチルは、おばあさんがくれた帽子の力で動きだした者たちといっしょに、青い鳥を探しに行くことにした。
原作からの変更点など。ネタバレ注意。
冒険に出るまで
まず、クリスマスパーティー⇒お誕生日会に変更されています。小さい子にはこのほうがわかりやすいからでしょう。また、原作では兄のチルチルが少し意地悪で、窓の前の台を独占して1人でクリマスパーティーを見ていましたが、サンリオ版では窓の前の台はありません。窓が低いので、子供の背丈でも外が見えます。
次に、チルチルとミチルの親。原作では隣の寝室で眠っていることになっていますが、サンリオ版では両親は家にいません。このほうが話が簡単ですね。
次に、お供たちについて。猫のチレットが犬のチロウに意地悪をするシーンがあり、2匹の仲が悪いことが描かれています。これは原作にはないシーン。旅のメンバーは原作と同じですが、「水」の女性らしさはなくなっています。また、パンは出しゃばりではなく、砂糖は偽善者⇒気取り屋になっています。一番変化していたのは牛乳ちゃんでした。原作では影が薄かったですが、本作ではマイペースで独特な存在感の少女になっています。顔が小さくて、つぶらな黒目がカワイイ! 最後に、光が空中から現れてメンバーがそろいます。光がランプから出てくるシーンはありません。
本作と原作の最大の違いは、「旅が終わるとみんな死ぬ」という設定がないこと。子どもむけなので当然でしょうが。しかし、この説明がないせいで、本作では猫のチレットがみんなを裏切る理由がイマイチわかりません。死なないためというよりは、秘密を守って自由でいるためなのかな、とは思いますが。
原作ではこのあと、着替えのために妖女ベリリウンヌの家へ行くのですが、本作にこのシーンはありません。なぜなら魔法で着替えるから。おまけに、チルチルとミチルしか着替えません。
冒険に出てから
一行を引率するのは、原作と同様に光です。しかし、本作の仕事は、引率だけではありません。なんと本作の光は、乗り物を用意して、みんなを運んでくれるのです! これは便利ですね。実はどうやって移動していたのか不思議だったんですよ。原作は戯曲なので、舞台で見ていれば気にならないのかもしれませんが。
次に、思い出の国のシーン。原作では死んだ兄弟たちが登場しますが、本作ではおじいさんとおばあさんしか登場しません。貧しいので幼い兄弟たちはみんな病気で死んでしまったなんて悲しすぎるので、お子さんむけの本作ではチルチルとミチルは二人だけの兄妹なのです。原作もこれでよかった気がしますが。
次に、森のシーン。猫のチレットは森の木々に、チルチルとミチルが青い鳥を捕まえてしまったこと、このままでは自分たちの自由がなくなることを告げ口します。これは、チレットもこっそり思い出の国に入って、チルチルが青い鳥をカゴに入れるところを見たからできたことです。原作の猫は思い出の国には行きませんでした。
本作では森でチルチルとミチルを襲うのは木々だけになっていて、獣たちはいません。そして、チルチルと犬だけではなく、パンと火も活躍します。原作ではチルチルに守られるだけだったミチルですが、本作では捕まったチルチルを助けようと戦います。このへんは現代風ですね。木々を追い払ったのは光ではなく火でした。木々は燃やされたくないので、おとなしくなって動かなくなります。火の効果的な使い方ですね。思い出の国の青い鳥が、途中で黒くなってしまうのは同じです。
実は私が本作を観て一番驚いたのは、カシの木のセリフです。森の主らしいカシの木はチルチルに「青い鳥を捕まえて、ワシらを奴隷にする気だな」と言います。まさか子どもむけ作品で奴隷なんて単語を聞くことになるとは驚きでした。まあ、原作には女奴隷という役があるので、それに比べればマイルドになっているからOKなのか。
本作では原作と「場」の順番が入れ替わっています。原作では妖女の家⇒思い出の国⇒夜の御殿⇒森となっていますが、本作ではチルチルとミチルの家⇒思い出の国⇒森⇒夜の宮殿になっています。
ということで次に、夜の宮殿のシーンについて。原作の猫は一人で先行して夜の奥さまに告げ口に行きますが、本作のチレットはあいさつ係として先に夜の奥さまに会いに行きます。一人で先に行っている理由が違うんですね。チレットがしていることと、チルチルが夜さんからカギを借りて扉を開けるところは同じ。しかし、本作でカギを借りるのは、帽子を預けることと引き換えです。そして、開ける扉の数がちがいます。原作では7つの扉を開けますが、本作では1つだけ開けます。そして本作では悪いバイキンたちと出会います。このバイキンたちは、人の心にとりつくバイキンです。
原作では、チルチルたちは扉の中にいるものと戦いません。しかし本作では、バイキンが合体してパワーアップした「戦争のバイキン」と戦うことになります。といっても、はじめは「戦争のバイキン」がみんなを一方的に食べてしまうだけ。この強いバイキンを倒したのは猫のチレットの機転です。夜の奥さまから帽子を取りかえし、バイキンの口に飛びこんでお腹に入り、お腹の中でダイヤを回して光らせ、バイキンを倒してみんなを救います。本作のチレットは裏切り者でありながら優しい。本作のチレットは、これを最後にみんなの邪魔をしなくなりました。みんなの心が1つになったのはこのシーンからですね。
本作では夜の宮殿⇒喜びの国の順になっています。原作では「幸福」たちが暮らす「幸福の花園」に行くのに対して、本作では「ぜいたく」たちが暮らす「喜びの国」へ行くことに。この「喜びの国」のシーンはちょっと怖い。大人になった今なら大して怖くないんですが、子ども心には怖かった覚えがあります。この国の食べ物を食べてしまうと何もしたくなくなるという点は似ていますが、「食べると目的を忘れてしまう」なんて設定は原作にはありませんでしたし、チルチルが帽子のダイヤを回すと「ぜいたく」たちが溶けてしまうシーンは怖いです。原作の「一番ふとりかえった幸福」たちは裸になってしまうだけで溶けたりしなかったのですが。
お墓と未来の王国のシーンは丸々カット。お墓なんて出すとホラーになってしまいそうだし、未来の王国はお子さんにはわかりにくいからでしょう。さらに、お別れのシーンもカット。真の姿になって水の底に沈んだ「喜びの国」から逃げたみんなは、なぜか光に置き去りにされてしまいます。お供たちは1人ずつ光のあとを追い、雲に向かって走っていきました。チルチルとミチルは、「みんなどこに行くの、待って」と言いながら、ベッドの上で目を覚まします。まさかの夢オチ!?
観た感想(という名のつっこみ)など
お母さんの帰りを待つ間、チルチルとミチルはひとつのベッドで仲良く眠っているのですが、これは本来は夫婦のベッドなのでは。親が不在でさみしいから、親のにおいがするベッドで寝ていると解釈するのが正解なのでしょうが、大人が見ると絵面的にちょっと。お子さまがこれを見てもなんとも思わないんでしょうけども。できればチルチルとミチルには、別々のベッドで寝ていてほしかったです。
本作のおばあさんは「青い鳥をみつけたらみんなが幸せになれる」と言って、チルチルとミチルを説得しますが、原作の妖女ベリリウンヌはこんなことを言いません。自分の娘のためだけに、二人を急かして連れて行きます。チルチルとミチルが依頼を引き受ける理由はサンリオ版のほうが説得力がありますね。
次に、森のシーン。猫のチレットが、2本足でこそこそ歩き、木々に告げ口をしに行きます。このシーンのチレットの歩き方がカワイイ! いかにも猫の後ろ足で歩いている感じがします。足の裏をべったり地面につけていないからかな。このアニメーションを描いた方々は、猫の歩き方を研究なさったのでしょうね。
次に、夜の宮殿のシーン。猫のチレットがあいさつ係に選ばれたのはおそらく、猫は夜行性なので夜さんと仲良しだと思われたからでしょう。 2本足で走るチレットちゃんがカワイイです。
牛乳(役名はミルク)ちゃんが独特の存在感を持ち始めるのは、夜の宮殿でバイキンたちが暴れるシーンから。ウソツキにとりつかれていないのに、「ウソツキさん、大好き」と抱きしめてしまうのです。私はこのシーンから牛乳ちゃんが一番好きになりました。本作の牛乳ちゃんは不思議ちゃんというか、マイペースです。チルチルとミチルの家ではなぜか「私、ミルクル・ミルク」なんて名乗りますし。あの名乗りにはどんな意味があったのやら。その場のノリか?
ベッドで目を覚ましたチルチルとミチルは、物言わぬ姿に戻ったお供たちにあいさつをしたあと、青くなったキジバトを持って寝巻のまま家を飛び出していきます。向かった先はお隣のお家。お隣の、病気の娘さんの名前はポーリーヌ。ポーリーヌは原作では病気で亡くなった妹の名前ですが、本作ではお隣の娘さんの名前に使われています。
本作のポーリーヌはちょっとおマセな女の子。うっかりキジバトを逃がしてしまい、チルチルが「また捕まえてあげるよ」と言うまでは原作と同じですが、本作では自分からチルチルのほっぺにキスします。キジバトをくれたお礼のつもりなのでしょう。原作ではチルチルがお隣の娘さんに、回復祝いのキスをするんですけどね。それにしても、ほっぺにとはいえ、子どもむけ作品でキスシーンがあるのも驚きでした。
まとめ。マイルドだけど子供だましではない。
本作は原作と比べて、全体的にかなりマイルドになっています。さすがはサンリオ。
病気で亡くなったかわいそうな兄弟たちはいないし、おじいさんは木の義足をつけていないし、おばあさんはリュウマチじゃないし。悲しい要素はカットしているようです。しかし、戦いのシーンや怖いシーンもあるので、子供だましではない。マイルドさとエンタメの絶妙なバランスがすごい。
日本のお子さまにわかりやすいように表現を変えつつ。女の子のミチルが受動的になりすぎないように配慮しつつ。一部がカットされたり、場の順番が入れ換えられたりしていますが、すばらしいアニメーション作品になっていると思います。
以上。サンリオの映画「キキとララの青い鳥」について語りました。