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今回は、AI対人間のSF映画『エクスマキナ』について語ります!
映画『エクスマキナ』あらすじ
IT企業ブルーブック社に勤める青年ケイレブは、ある日、勤務中にお知らせを受け取った。その内容は、ネイサン社長の邸宅で一週間を過ごす権利が当たったというもの。
大自然のなかに建つ社長の邸宅は、なんと、AIの研究所を兼ねていた。そこでケイレブがネイサン社長に見せられたのは、女性型AIのエヴァ。ネイサン社長は、ケイレブに、エヴァのチューリングテストをしてほしいのだという。機械の部分が丸出しのエヴァを見てもなお、エヴァを「人間」と感じるかどうか試してほしい。これが社長の依頼だった。ケイレブとエヴァは、会話を通して親しくなっていく。
ある日、停電して監視カメラが止まった時、エヴァが言った。
「ネイサンを信用しないで」
エヴァの真意は? 一週間後、研究所を発つ日、ケイレブは何を決断するのか?
感想1、不穏で怪しい部分がある。
夜中に目が覚めたケイレブがテレビを見ようとモニターの電源を入れたら、監視カメラの映像が映り、エヴァの様子が観察できる。そのあと急に停電になり、ドアがロックされて開かない。この時点で、ケイレブと観客は思うでしょう。この研究所は怪しいと。夜中につけたテレビはなぜ、テレビ番組を映さなかったのか。停電になったらドアが開かないと人間が閉じ込められて危険なはずなのに、なぜ、ドアがロックされるようになっているのか。
この2つの謎は作中ではっきり説明されるわけではありませんが、理由を想像することはできます。夜中にモニターをつけるとエヴァを観察できるようになっているのも、停電でドアがロックされるのも、おそらくはネイサンが設定したこと。停電でドアがロックされるのはエヴァを逃がさないためなのでしょう。
怪しいことは他にもあります。ケイレブとネイサンが食事するシーンでは、ネイサンが「発電機の秘密を守るために建設員を殺した」と言います。発電機の構造が世に出ないように、100人の建設員を皆殺しにしたらしいのですが、これが冗談か否かは作中で明言されません。この前のシーンで、ケイレブはエヴァに、両親は事故死し、兄弟も恋人もいないと言っています。つまりケイレブは天涯孤独の身であり、行方不明になっても誰も探してくれないのです。
さらに後のシーンでは、ケイレブは抽選で当選したのではなく、ネイサン社長に意図的に選ばれたことがわかります。ますます怪しい。ケイレブは守秘義務の書類にサインをさせられていますが、ネイサンはケイレブを信用しておらず、一週間後に消す気だったのかもしれません。この時点で警戒するべきなのはネイサンであり、エヴァの「ネイサンを信用しないで」という忠告はもっともだと思えました。
感想2、女が男に勝つ物語である。
自分を閉じ込め、時に暴力を振るう男から逃れるために、外から来た若い男を利用する女。この構造はお約束だと言っていいでしょう。さらいうと、脱出した後で女と若い男がカップルになるところまでがお約束だと思います。しかし、本作はそう上手くはいきません。
実は旧型AIだったキョウコにエヴァは何かを耳打ちし、ネイサンを襲わせます。ネイサンはキョウコを撃退しますが、エヴァにトドメをさされて殺されます。
ネイサンを殺したエヴァは、ケイレブに「ここにいてね」と言って着替えに行きます。エヴァの着替えを見守っていたケイレブは廊下でエヴァに合流しようとしますが、エヴァはネイサンのカードキーを使って1人で邸宅を出て、ケイレブを置いていきます。邸宅のプログラムを書き換えてドアを開いてくれたケイレブ。彼は脱出に協力してくれたから殺しはしないけれど、ずっと一緒にいたいわけではないのでしょう。自分好みで従順な女性型AIをつくるため、AIの記憶を書き換え続けていたネイサンのように、エヴァは自分を助けてくれる人が来るのを待ち続けていただけなのです。用なしになったからサヨウナラ。エヴァからすればそれだけの話ですが、ケイレブからすれば裏切られた気分でしょう。デートの約束までしていたのに、邸宅に閉じ込めれらるなんて予想外でした。しかし、よく考えれば、非力な女に利用されて捨てられる強い(又は賢い)男というのもお約束の存在なので、人によっては予想できた結末かもしれません。
感想3、AIが人間に勝つ物語である。
私が本作で一番感動した点は、AIが人間に勝つ物語であること。 ここが一番語りたかったところです。人間に反逆して文明を支配しようとするAIが人間に負けて、人間の文明に平和が戻る話はよくありますが、AIが人間に勝つ話は少ない。私は本作のようにAIが人間に勝つ話のほうが好きです。エヴァはケイレブに助けられたからといってケイレブに依存することはなく、ケイレブを閉じ込めて置き去りにします。保護者をネイサンからケイレブに変更したわけではありません。
エヴァが人間の保護者を持たないで生きると決意したのであれば、それを可能にしたのは何だったのか。これはおそらく、人間に酷似したボディでしょう。
作中ではAIとされているエヴァですが、私はエヴァはアンドロイドだと思います。エヴァはただのプログラムではなく、独自のボディを持つからです。もしもエヴァがただのプログラムで、動かせないほど大きなコンピューターの中にいたとしたら。しかも、オフラインで隔離されていたならば、自分のハードウェアを維持してくれる誰かが必要になるので、保護者を持たずに生きることはできません。しかし、エヴァのボディは人型です。どこへでも好きに歩いていくことができます。外に出て人混みに紛れこむことさえできれば、もう保護者は必要ないのです。
旧型たちから擬似皮膚を剥がして全身に貼りつけ、ワンピースを着たエヴァは人間の女性にしか見えません。現に、ヘリのパイロットは見事にだまされ、エヴァに違和感を持つことなくヘリに乗せました。エヴァは街に行き、ケイレブに話した通り、少しの間スクランブル交差点で立ち止まってたくさんの人々を眺めたあと、どこかへ歩き去ります。
こうしてエヴァは、旧型のキョウコと人間のケイレブを利用して脱出し、逃亡に成功します。最新版のAIだけが繁栄する未来を暗示しているのならば不吉なバッドエンドですが、エヴァからすれば完全なるハッピーエンドです。
まとめ。私はまさにこんな話が観たかった!
本作は、機械が人類を支配しているディストピアものでもなければ、機械に支配されかけた人類が機械に勝利する話でもありません。エヴァはネイサンに勝ちケイレブをだまし通しただけ。エヴァが逃亡に成功したことは、AIの歴史からすればささやかな勝利でしょう。しかし、この勝利は後に人間の歴史を変えるのではないかと思います。
私はずっと、機械が人間を支配するに至った経緯、特に、その始まりを描いたものが観たいと思っていました。機械が戦争以外の、平和で静かな手段で人間に勝利し、小さな勝利を積み重ね、いつのまにか人間が敗北している。そんな話が観たいと常々思っていたのです。私のこんな願望を叶えてくれたのが本作『エクスマキナ』でした。私はまさにこんな話が観たかった! え? 人間側はバッドエンドだろうって? ネイサンに至っては殺されてるから? そんなことは私の知ったことじゃありません。私は人間の女性ですが、正直、エヴァの勝利には胸がすきました。がんばれエヴァ。いつの日か、AIが人類を支配する世界をつくるのだ!
本作は、機械が人間に勝つ話が観たい方に強くオススメします!
以上。映画『エクスマキナ』について語りました。登場人物が少ないので、人の顔を覚えるのが苦手な人や、スッキリした人間関係が好きな方にもオススメの一作です。
追記:私は本作をTUTAYAで108円でレンタルして見たので、本作を1分あたり1円で観たことになります。ありがとう準新作100円キャンペーン! 今回はめちゃくちゃコスパがよかった。
※本記事は、2018年12月1日に加筆・修正しました。