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今回、ご紹介するのは、『コンテナ物語ー世界を変えたのは「箱」の発明だった』。
マルク・レビンソン著、村井章子訳で、日経BP社から2017年に出ています。
以下、リンクを兼ねた表紙の画像です。
本書の概要
物流業界で使われている金属製の巨大な「箱」。その名はコンテナ。今でこそ当たり前に使われているコンテナだが、この「箱」がアメリカから海を超え、世界を行き交うようになるまで紆余曲折があった。埠頭の改造、専用クレーンの導入、労働組合の反発、全社共通規格の決定などなど。
アメリカの物流業界(主に海運業)はこうした問題をクリアして、物流のコンテナリゼーション(コンテナ化)を進めた。アメリカの海運業界がコンテナ化によって大成功をおさめたのを見て、各国の同業者たちがその後を追い、世界各地の港がコンテナ専用港へと変貌していく。
コンテナが物流の表舞台に現れたのは1960年代である。この時代、陸運業で身を起こし、海運業で大成功した1人の青年がいた。その青年の名はマルコム・パーセル・マクリーン。
古き良き港の光景はなぜ失われたのか。マクリーンはいかにして、コンテナ輸送の父になったのか。本書は、戦後アメリカから始まったコンテナ輸送の歴史と、20世紀の物流業界を駆け抜けたマクリーン青年の成功物語である。
読んでほしいところ。2章・6章・7章はドキュメンタリーみたいで面白い。
著者によると、9.11テロで貿易センタービルに保管されていた資料が失われましたが、たくさんの協力者たちのおかげで本書を書くことができたそうです。
著者は、コンテナについて書かれた本はなかったとも述べています。類書がなかったから自分で書くことにしたようです。ここまでが序章。この後、古き良き港の様子を描く1・2章と、労働組合と海運会社の戦いを描く6章、コンテナの規格が決まるまでの紆余曲折が描かれる7章に続いていきます。
5章から10章までは、シーランドの名が出てもマクリーン氏が登場しませんが、それでも十分に面白い。2章・6章・7章は登場人物が多いですが、退屈ではありません。著者の語り口に臨場感があり、まるでドキュメンタリーでも観ている気になります。私が本書で一番、読んでほしいのはこの3つの章です。
マルコム・マクリーン氏の軌跡
本書の半分はマルコム・マクリーン氏の伝記と言っていいでしょう。では、マクリーン氏とはどんな人物だったんでしょうか。人となりの記述は少ないですが、マクリーン氏の動きをざっとまとめるとこんな感じ(⬇︎)
・1934年3月、マクリーン運送の誕生。
・1935年、マクリーン22歳。マクリーン運送はドライバー9名を抱える会社に。
・1940年、創業6年目にしてマクリーン運送の年商は23万ドルに。保有するトラックは30台。
・1946年、マクリーン34歳。マクリーン運送の年商は220万ドルに。
・1946〜54年にかけて、トラックの輸送ルートを持つ会社を買収するなどして10ルートを確保する。
・1954年、マクリーン運送は全米のトラック運送業で税引後利益が業界3位になる。
・1955年、マクリーン・インダストリーズを設立し、パンアトランティック海運を買収。マクリーンはマクリーン運送の役員を辞める。さらに、ウォーターマン海運を買収。
・1956年、初のコンテナ船アイデアルX号を就航させる。
・1957年、アイデアルX号の4倍にあたる容量の船、ゲートウェイ号を就航させる。パンアトランティック海運は「シーランド」というサービス名でコンテナ輸送業を始める。
・1962年、パンアトランティック海運改めシーランドが、プエルトリコ航路を独占。
・1963年、シーランドが西海岸ー日本航路を始めると発表。
・1964年、シーランドがアラスカ海運を買収。
・1966年、シーランドがアメリカ軍と契約し、ベトナムへの物資輸送を請け負う。
・1969年、シーランドが全米一のタバコ会社R・J・レイノルズに身売りする。
・1977年、マクリーンは持ち株を売却し、R・J・レイノルズの取締役会を去る。マクリーンは再び「マクリーン・インダストリーズ」という会社を新設し、10月にユナイテッドステーツ海運を買う。
・1986年、新マクリーン・インダストリーズは12億ドルの負債を抱えて倒産。この倒産によって数千人が失業し、マクリーンと、当時副社長を務めていたマクリーンの息子は更迭される。
・1991年、マクリーン77歳。小さな海運会社を始める。
・2001年、マクリーン死去。葬儀は5月30日。
こうして見るとマクリーン氏の人生は、20世紀アメリカの物流業とともにあったことがわかります。21世紀最初の年に亡くなったマクリーン氏にとって、20世紀=人生だったんですね。
最後に。本書は意外と厚くないんですよ。
アマゾンによると本書は488ページあります。しかし皆さま、ご安心ください。実は本文は357ページしかなく、残りは索引と参考文献と原注なんです。だから、本文は意外と少ないんですよ。グラフとか表を読むのが面倒な方はとばしてOK。あまり構えずに気軽にお読みください。読み始めたら厚さも重さ(物理)も気にならなくなること請け合いです!
以上。厚いけど面白い本『コンテナ物語』をご紹介しました。