ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

ハロウィンなので『バットマン:ロング・ハロウィーン』の話を。絵もお話も素敵な一作!

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本日は10月31日! ハロウィンですね! 日本では渋谷のコスプレが有名ですが、今回はアメコミ作品の翻訳版『バットマン:ロング・ハロウィーン』の話をします。実は映画『JOKER』を観てからこっちバットマンのジョーカーにハマってるんですよ。そこからボチボチと、メインの悪役がジョーカーさんのものを選んで翻訳版コミックを読んだり、長編アニメを観たりしています。だからバットマンシリーズのファンとしてはすげーニワカなんですけども。この時期に読んだからにはこの話をするしかないだろうと。それじゃあ解説と感想いってみよう!

 

目次

 

あらすじ

ゴッサムの新任地方検事ハービー・デントは、この街から悪と不正を一掃すると決意した。ゴードン警部とバットマンの力を借りれば、これは可能だとデントは信じていた。しかし、そんなデントに異変が起きる。

ゴッサムを牛耳るマフィア、ファルコーネ一家のボス、カーマイン・ファルコーネと利害関係にある人間を次々に殺していく連続殺人鬼「ホリデイ」が現れた。デントはこの事件を追ううちに、妻と家、さらには己の顔にも被害を受ける。デントはすぐに法廷から病院へ運ばれたが、顔の治療を拒み、医師を刺して逃亡した。焼けただれた顔を抱えたままで。

これは殺人鬼「ホリデイ」の正体を追う物語であると同時に、スーパーヴィラントゥーフェイス」誕生の物語。

 

主な登場人物

バットマンゴッサムで活躍するダーク・ヒーロー。コウモリを模した黒いコスチュームに身を包んで戦う男。悪人は捕らえるが殺さないのがポリシー。その正体は、青年実業家ブルース・ウェイン。有り余る資産を元にバットマンの装備や乗り物を整え、法の外で自警活動をしている。

ハービー・デント:ゴッサムの新任地方検事。ゴッサムでギルダという女性と結婚し、法の正義を信じて殺人鬼ホリデイの事件を追っていたが、悲劇に見舞われて私刑人と化す。

ジェームズ・ゴードン警部:妻子持ちでゴッサムに居を構えている警部。バットマンが信頼している数少ない友人で、バットマンからはジムと呼ばれている。

ホリデイ:正体不明の連続殺人鬼。カーマイン・ファルコーネと利害関係にある人物を1年に渡って殺し続けた。祝日にだけ人を殺し、犯行現場に銃とその祝日にちなんだ物を置いていく手口から、ホリデイと呼ばれるようになる。

トゥーフェイス:顔の左半分が焼けただれている悪党。無事な右半分の顔はハービー・デントのものだが、本人いわく「ハービーは死んだ」らしい。片面に傷をつけたコインを持ち歩いており、コイントスで次の行動を決める。

 

感想(ネタバレ注意)

本作は、バットマンワールドにおける有名悪役トゥーフェイスの誕生秘話であり、作中の法廷で起こる事件は正史(New52!シリーズ)にも採用されている重要な事件だということで、ジョーカーさんメインではないにも関わらず読んでみることに。ピクシブでオススメしている人もいたことだしハズレではないだろうと読み始めたら、個人的にすごくアタリの作品でした。もちろんストーリーも面白かったのですが、最初に感動したのはストーリーよりもイラスト。本作はライター(脚本担当)さんとアーティスト(イラスト担当)さんが別人です。つまり分業制で制作されているわけですが(これはアメコミでは通常の手法らしい)、本作のアーティスト、ティム・セイルさんの絵がすばらしい! まず全コマがカラーだし、画風は漫画というより絵本の挿絵のようで、イラストの連続という印象を受けました。話の筋がわかればいいという気持ちで描かれた白黒のコマを見慣れた人間からすると、この絵を観るだけで驚きでした。日本の漫画とは全然違う。大げさに言うと芸術性が高い。バットマンの世界を全然知らなくても目の保養になります。ホリデイが人を撃ち殺すシーンはモノクロで、死体のそばに、銃と一緒に置かれた物だけがカラーになっています。配色自体で魅せるというのはカラー漫画ならではの手法かと。

この他に本作のイラストでお気に入りの点は、キャラクター(特に悪役)の服装がオシャレなこと! フィクションの悪役は「そんな服どこで売ってるの?」と思うものを着ていることが多いのですが、バットマンワールドの悪役は色が変でも形は普通の服を着ている人もいます。ジョーカー・リドラートゥーフェイスはこのタイプですね。並々ならぬこだわりが詰まった特注品を着ているのだと思うと素敵。ジョーカーさんの衣装は衣装屋を襲撃して奪ってストックしてあるんだろうと想像しているのですが、トゥーフェイスの場合は左半身と右半身で色が違うという凝りすぎなスーツを着ています。さすがにこれは既存の衣装を盗んだだけでは説明がつかないので、行方不明だった1ヶ月の間に注文しておいたんだろうなあ。しかもカフスボタンが陰陽柄ときた! ジョーカーさんは「J」の刻印が入ったカフスボタンを愛用していますが、これに匹敵するこだわりですね。まあ、ジョーカーさんの場合は愛用のデカイ拳銃にまで「J」の刻印を入れているので、持ち物へのこだわりはトゥーフェイスの上をいってるみたいですが。美しく細い指にピッタリ合う手袋は特注品ですかね。

イラストで感動した点は、各話の扉絵! 全13話の本作は祝日ごとに事件が起こるので、各話の扉絵は祝日のモチーフと、各話で活躍する悪役を絡めたイラストになっています。私のお気に入りは大晦日の絵。バットマンとジョーカーが乾杯していますが、描かれているのはグラスを持つ手もとのみ! 真っ黒の背景に、グラスを握った2人の手が描かれています。グローブをはめたバットマンの右手と手袋をはめたジョーカーの左手とグラスに映る2人の顔。何だこのハイセンスなイラストは。美しい。美しすぎる。ティム・セイルさん、ありがとう。面識はないけど心からの感謝を。

各話の扉絵は画像検索してもらうとして。ここまでイラストの話をしてきたので次はストーリーの話をしようと思います。バットマン初心者からすると本作はトゥーフェイス誕生譚ですが、古株のファンからはミステリーとしても高く評価されているとか。犯人が作中で明示されず、殺人鬼ホリデイの正体は読者の推理に任されているので推理ものとしてはモヤモヤしますが、このおかげで飽きられることなく長く読まれているのかもしれません。まあ、ホリデイはトゥーフェイスの言う通り2人だけなのか、合計3人なのかすらハッキリしないのはさすがにひっかかりましたが。さらに言うと、1巻であがったホリデイの候補者が2巻で次々に殺されていき、ノーマークだった人物が証拠品を処分しているラストシーンになるのも反則といえば反則のような気がします。でもいいんだ。だって私はあくまでもトゥーフェイスの誕生譚として読んでいるからな! 一連の殺しは法廷シーンへの前フリだと思えば腹も立たないさ! 

ここからは各キャラクター(悪役)の話! カーマイン・ファルコーネのライバル、サルバトーレ・マローニが証言台に立ってデント検事に対面した時、スパイから受け取った薬剤(即効性制酸剤)をデント検事の顔にかけて取り抑えられます。この薬剤はコンクリをも溶かすとのことですが、こんなものを浴びたのに被害は皮膚だけで済んだなんて奇跡というか、デント氏の生命力が強すぎるというか。左目に入っていたとしたら失明していそうなものですが、瞳の色が変わっただけで見えてはいるらしい。こっちはマジで奇跡ですね。さすがに歯は助からなかったようで左半分が変色していますが、話せているということは表情筋はなんとか無事なのか。しかし、顔が左右非対称になったからって開き直って左右非対称のスーツを着るとは。デント氏は生命力も常人以上ですが、精神力も異常というかファッションに(文字通り)命をかけてるな。このファッション狂っぷりを見ているとデント氏には元から悪役の才能があったんだと思います。ここは顔の傷を治して「悪には屈しないぞ」って言うところだろ、というのはしょせん凡人の発想なんだと思い知らされました。っていうか、そんなマトモなことをされたらトゥーフェイスが誕生しなくてファンが泣くよね。ということで悪役ファンの私としてはこれからも、デント氏にはファッションに命をかけていてほしいところです。バットマンは、ファルコーネの屋敷でハービーに再会した驚きで「ハービー…」とつぶやいていますが、内心では「そのスーツどうした!?」と思ってたんじゃないかと。まさかおまえそのスーツ待ちで1ヶ月も潜伏してたんかと。その驚きゆえにバットマンは言葉に詰まったのではないかと。フルオーダーのスーツだとしたら納入までに1ヶ月ぐらいかかるんじゃないですかね。知りませんけど。

本作のジョーカーさんは眉が太く、口が大きく、口紅が黒いという独特のビジュアルをしています。細長い指と、袖口からのぞく細い手首が実にセクシーです。それにしても、わざわざ脱獄して一般家庭で盗みを働いたうえに住人を殺さないとは珍しいこともあるものですね。どういう心境なんだか。余程ヒマだったのか。まあ、クリスマスを監獄で過ごすのは誰だってイヤだから脱獄したこと自体には納得ですが。しかし単独でアーカムから逃げるとは。ジョーカーさんがすごいのか、アーカムの警備がザルすぎるのか、どっちだ。そして続く大晦日の一件。殺人鬼ホリデイを仕留めるべくゴッサムスクエアへ飛ばしている小型飛行機の操縦席で「ちょい待ち 時計が12時になったら…」と言ったから、てっきり「時計塔が爆発するんだぜ」と続くかと思いきや「アタイにキスして頂戴な?」ときたもんだ。これは殴られて当然だね! これは完全にジョーカーさんが悪いわ。私がバットマンでも殴る…いや、むしろハグして意表を突くかな。「キスはできないがハグならできるぞ。一緒にここから降りよう」って言って、一緒に飛行機から飛び降りたい(完全に妄想)

トゥーフェイスとジョーカーさんの他に活躍するキャラクターは、主にポイズン・アイビーです。本作のアイビーはジョーカーさんと同様にかなり印象的なビジュアルになっています。アイビーは赤い髪で描かれることが多いキャラクターですが(肌の色が緑色かどうかは作品による)今作のアイビーはそもそも髪が人毛ではなく植物で、人外度が爆上がりしています。これで彼女がフリーク(化物)扱いされることに納得がいきました。こうすれば操る植物をどこからどうやって生やしているのか問題は一瞬で解決するし、絵的に美しい。すばらしき解決方法ですね! 植物を操るアイビーの他には、幻覚ガスで恐怖を撒き散らすカカシの格好をした男「スケアクロウ」と機械工学を駆使して人の精神を操る帽子屋の格好をした老人「マッドハッター」なんかも登場して、この2人が馬車に乗ってる図なんてちょっとした悪夢なのですが。ポイズン・アイビーが悪夢を与えるのは、男をフェロモンで操った後のこと。森を抜けて我に返った男たちが見るものは何でしょうか? 本作ではブルース・ウェインが自分がしたことの後始末に追われましたが、人殺しをさせられなかっただけ良しとしましょうよ。

んーと。気がついたらとりとめのない記事になってしまったな。まあいいか。とりあえず、絵が美しいコミックと、何か一作バットマンを読んでみたいという人は読んでみてはいかがでしょう。バットファミリーが登場する以前の話なので、ブルース・ウェイン側の人間が少なくてわかりやすいのでオススメ。それにしてもゴッサムってスーパーヴィランが多すぎだよね。トゥーフェイスは長いハロウィーンが明けたって言ったけどさ。むしろ、アンタが誕生したことでゴッサムハロウィーン感は増し増しだよ! 主要登場人物のほとんどが仮装してるゴッサムは年中ハロウィーンだろうが! スーパーヴィランが一掃されて、本当にゴッサムハロウィーンが明ける時なんか永遠に来ないんじゃないのか。というか来るな。悪役ファンにとっては平和こそが一番の悪夢なんだよ(もはや危険思想)

 

以上。ハロウィンなので『バットマン:ロング・ハロウィーン』の紹介をお送りしました☆

 

追記:続編の『ダークビクトリー』も読んだ! 

トゥーフェイスのファンの人はみんな、続編の『ダークビクトリー』も読んでるんだろうなあ。だって、ヴィランとしては新人のトゥーフェイスが先輩ヴィランたちを仕切っててかっこいいし、死にも捕まりもしないで勝ち逃げするし。大物感が出ていて良いですね。『ロング・ハロウィーン』と『ダークビクトリー』を読んでトゥーフェイスのファンになった人も多いのでは。

それにしても『ダークビクトリー』のバットマンは健気です。トゥーフェイスにはハービー、スケアクロウにはクレーン、マッドハッターにはテッチと、それぞれに人名で呼びかけています。バットマンは彼らも1人の人間だと思っているのですね。もしかして、人間として呼びかけ続ければいつか正気に返ると思っているのかもしれない。そう考えると健気を通り越して、いじらしいですね。しかし彼らがフリークスと呼ばれるゆえんは外見や能力や狂気のせいだけではなく、皆、人間としての過去に関心がないのが一番の理由なのではないかと。スケアクロウことジョナサン・クレーンにいたっては母の日に母をしめ殺したそうですし。わざわざ肉親を殺すなんて、人間をやめることへの決意が堅すぎる。要するに、取り戻したい人生や帰りたい場所がないのでは? だからこそ平気で犯罪を犯すことができるし治療に応じないのでしょう。治りたいと思っていない患者でも投薬などで治療してこその医療な気がしますが、そこはフィクションですから。バットマンワールドではきっと、治りたいと願っている人しか治らないんでしょう。ということは、スーパーヴィランたちは永遠に治らないってことかな。バットマンは戦闘の訓練をしているヒマがあったら精神医療を研究するべきなのでは? アーカムの医者ってみんな無能な気がするし。

『ダークビクトリー』の2巻に収録されている短編「バットマン:マッドネス」ではバットマンが、ジョーカーとスケアクロウトゥーフェイスはそれぞれ異なる狂気を抱えていると言っていますが。それを区別できている時点でバットマンもかなり彼らに近しいのでは。まあ、正気の人間から見たバットマンヴィランと警察官のどちら側に見えるかと言えばヴィラン側だと思うので、彼らの狂気を理解できてしまうのも納得といえば納得なのですが。バットマンの精神構造は正気の人よりは彼らに近いんだろうなと思わせる短編でした。重傷を負いながらマザーグースを暗唱している時点で、アンタもかなりヤバイぞバットマン。気をつけないとあっち側に転落しますよホントに。

 

※本記事は、2021年2月6日に修正しました。

 

こちらは1巻へのリンク。オレンジの表紙が1巻です。

 

こちらは2巻へのリンク。ブルーの表紙が2巻です。

  

こちらはダークビクトリーのセット売り。

 

※本記事は、2019年11月22日に微加筆してリンクを加えました。