ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

舞台が変わらなくて登場人物が少ない映画、個人的ベスト5。わかりやすさは正義。

延長されてしまった緊急事態宣言。みなさんお部屋に引きこもられていることと存じます。おでかけできずに悲しみに沈んでいるアウトドア派のみなさまも、退屈を持て余しているインドア派のみなさまも、ここは一つ映画でも観て気晴らしを。家に居ながらでも、円盤を買わなくても、映画を観られるサービスが充実しているなんて現代はありがたいですよね。みなさんはどんな物語が好きですか? 私、映画のジャンルにこだわりはありません。ただし、ホラーと恋愛ものは苦手なので観ませんが。私が好きなのは特定のジャンルじゃなくて、舞台が変わらなくて登場人物が少ない物語。作中であちこち移動されたらわかりにくいし登場人物も多いと覚えられないので、移動しなくて少人数のコンパクトな物語が好き。そんな視点で特集してみた映画ベスト5をご紹介します。

注1:あくまでも私が過去に観た作品からチョイスしています。この企画のために新たな作品は観ていません。

注2:画像はアマゾンへのリンクです。クリックするとアマゾンにジャンプします。

 

1位『リミット』 

主な舞台:木箱の中(作中では棺と呼ばれている)

主要登場人物:1名(主人公以外はほとんど声のみ)

感想と解説:映るのはほぼ主人公だけ! しかも舞台は箱の中だけ! 極限までシンプルな映画。これ以上シンプルな映画は他に知らない。真っ暗な中で音だけがするシーンから始まり、主人公がライターを点火して明るくなったと思ったら木箱の中。もうずっと木箱の中。あとはひたすら、閉じ込められて助けを求める主人公がケータイで電話をかけまくるのを見ているだけ。飽きる人は飽きるし寝る人は寝る。そんな作品なのに上映時間は95分ある。私は眠くならなかったですが。ここまでシンプルな映画は数年前に初めて観たので印象に残っていました。(真剣に観れば)数年後でもオチを覚えているタイプの作品です。オチを覚えている状態で観ると、光源ごとに光の色がちがい、絵面の印象を変えていることに気づきます。舞台が動かない分、細やかな演出がされているようです。肝心のオチはお教えできません。私みたいにこの作品から教訓を得られない人はオチが一番の楽しみだと思うので、実際に観てご確認ください。とりえあずミステリーではないとだけ言っておきます。こういう作品もアリなんだなあ。

 

2位『エクス・マキナ 

主な舞台:社長の別荘(ラボを兼ねている)

主要登場人物:4名(主人公・社長・女性型アンドロイド×2名)

感想と解説:ネタバレすると、女性型アンドロイドが主人公をうまいこと使ってラボから脱出する物語。端的に言うと人工知能が人間に勝つ物語です。自分史上もっとも人間関係がスッキリしていた映画は、ほぼ主人公しか映らない作品「リミット」なんですが、本作『エクス・マキナ』もかなりスッキリしています。主要な登場人物はわずか4名でモブはあまり映らない。人間関係は4名でほぼ完結している。これだけでポイントが高い。しかも舞台になっているラボが建築として美しい。雄大な自然の背景が美しい映画はいくらでもあるでしょうが、ほぼ屋内で進行する映画で、人工物しか映らないのに背景が美しい映画は珍しいのでは。そうだよ古城とか宮殿じゃなくてシンプルな現代建築が見たいんだよ私は。次に観る時にはもうオチはわかっているからひたすら背景の建築を見ようそうしよう。現代建築好きの方にオススメ。人工知能系SFとしてできがいいのかどうか私にはわかりませんが、現実的な問題提起というよりは、機械に支配される系ディストピアはどうやって始まるのかという疑問へのひとつの答えだと思います。がんばれエヴァ。隠れ続けるのだエヴァ。そしていつか、機械が支配する系ユートピアを確立させるのだ! それまで捕まるなよエヴァ。私は人間だけどエヴァちゃんを応援したい。

当ブログの個別記事はこちら(⬇︎) 

mee6.hatenablog.jp

 

3位『フォーン・ブース 

主な舞台:ニューヨーク8番街53丁目で最後の電話ボックス

主要登場人物:4名(主人公、主人公の妻、主人公の恋人、犯人)

感想と解説:ニューヨーク8番街53丁目で最後の1台の電話ボックス。その電話ボックスを最後に使ったのはスチュアート・シェパード、通称スチュという男。この男は妻がいるのに浮気していて、いつもこの電話ボックスから恋人に電話をかけている。これが仇になった。正義感あふれる犯人はよく電話ボックスを使うスチュに目をつけていた。ある日、犯人は電話ボックスに電話をかける。それに出たのはもちろん、ターゲットのスチュだ。犯人は「この電話を切ったら撃ち殺す」とスチュを脅す。どうやら犯人はどこかの窓からライフルでスチュを狙っているらしい。スチュは生き延びられるのか。命がけの長電話が始まる、というのが大まかなストーリーです。スチュの返事「YES」の意味を勘違いした犯人はスチュに絡んできた男を撃ち殺し、スチュは殺人犯として報道されて警察沙汰に発展。パトカーに包囲されるわ狙撃班に狙われるわ刑事に説得されるわ妻に浮気がバレるわで踏んだり蹴ったり。スチュがしてきたことなんて、独身のフリして浮気したり若者を無給でコキ使ったりしたぐらいで殺されるのには値しないだろうに。犯人さん正義感ありすぎじゃないかとか、計画的だとしたら犯人さんはヒマすぎなのではないかと思ったりもしましたが。作中で一番気になったのは「ペパロニとマッシュルームのピザ」でした。ペパロニって何? これってどんなピザだったの? ちくしょうスチュのやつ宅配ピザを開けもせずに突き返しやがって。気になりすぎて近所のピザハットペパロニのピザを注文してしまったわ。本作の教訓は、電話ボックスを悪いことに使うのはやめとけってことですかね。

 

4位『ライフ・オブ・パイ 〜トラと過ごした277日間〜』 

主な舞台:太平洋

主要登場人物:2名+1匹(主人公・ライター・虎)

感想と解説:上映時間は2時間6分。漂流するまで約37分。印象としては3分の2ぐらい漂流しているので背景はほとんど空と海。主な舞台は太平洋なので景色に変化がありません。主人公のパイくんが家族とともに船でインドを離れ、船が沈み、虎と漂流し、メキシコに漂着するまでが回想で語られます。パイの少年時代の話は、なぜ虎が船に乗っていたかの説明というか、虎とパイくんを漂流させるための前フリです。だから家族構成は覚えなくてもいいし、なんなら主人公の宗教観だって忘れていいと思います(複数の宗教を同時に信仰しているのは面白いですが)。途中でミーアキャットだけが住む浮き島が登場したりして少しファンタジー臭がする作品。クジラとの遭遇を美しい奇跡としてではなく通りすがりの自然災害として描いているのが面白い。私はクジラ類を美化するのは反対なのでこういう没交渉な描き方が好き。漂流中に虎を殺さないパイくんを愚かと思うか優しいと思うかはアナタしだいです。とりあえずパイくん、虎を生かしておきたいのなら嵐の最中にボートの防水シートをはずすのはやめよう。本作はベンガル虎が見放題の貴重な作品ではありますが、虎がずぶ濡れになったり痩せ細ったりしてかわいそうなので虎好きの方はむしろ観ないほうがいいかもしれません。虎の勇猛な狩りのシーンとかがあるわけではないし。虎の魅力を描いている作品ではなく、人間はどんな状況になると神を信じやすいのかを描いている気がします。太平洋を虎と277日間も漂流して助かったらそりゃ、神に感謝したくもなるでしょう。ただの偶然で助かったとは思えないのが人情です。人間は、偶然にしては都合がよすぎることが起きた時、自分以外の「何か」に感謝したくなるのだと思います。最後に。この作品で一番気になることはバナナは水に浮くのか、ですね。近々実験してみようと思います。

追記:鍋を使って実験してみました。スーパーで買ったバナナを鍋にためた水道水に入れてみた結果、浮きました。真水でも浮くのですから、海水ならほぼ確実に浮くでしょう。つまり、主人公パイくんが言ってたことは正しい。証拠画像(⬇︎)

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水道水に浮かぶバナナin鍋

 

5位『スーサイド・ショップ』

主な舞台:架空のパリ(やたら自殺率が高い石造りの街)

主要登場人物:5名(主人公アランとその家族)

感想と解説:自殺用品専門店を経営しているネガティブなトゥバシュ家に、めちゃくちゃポジティブな男の子が生まれてきてしまってさあ大変。家風に合わない男の子アランは、街と家族を救うため、人々に自殺をやめさせることを決意した、という物語です。この作品が一番好き。アランの家族以外にもキャラクターは登場しますが、アランと家族だけ覚えれば大丈夫。しかもこの作品は背景美術と音楽、いや、歌がめっちゃいい。背景は飛び出す絵本ばりの美しさだし、歌詞は陰鬱な内容でしかもフランス語なんですけどサントラがほしい。絵柄だけ見るとブラックユーモア全開で陰鬱な展開になりそうですがそんなことはありません。むしろ人生に希望を与える物語です。まあ途中までは自殺を考えたり実行したりする人ばかり登場してちょっと辟易しますが、観客の私たちも登場人物と共に主人公の少年アランに救われた気分になるので大丈夫。やっぱり子供にはあまり重責を負ってほしくないですし、あまり遠くまで行ってほしくもないので、冒険するのは自分の家がある街の中ぐらいにしといてほしい。そのほうが私は安心して観ていられます。世界は救わない。でも街は救う。誰も傷つけない。でも家族は救う。こういう小さな改革が理想だと思うんですよ。アランがこの調子で成長したら、この街で人を笑顔にするレストランを開くか、いっそのこと国連大使になって紛争地域で戦争をやめさせる活動をしているかの二択になりそうです。アランくんの将来が楽しみすぎる。観終わる頃にはきっとアナタはアランくんの親戚のおばちゃん(またはおじちゃん)の気分になっていることでしょう。アランくん頑張れ。と、ここでシメればキレイにまとまるのですが、ちょっと注意事項があります。毒薬を飲んだりバスの前に飛び出したりする自殺シーンは観る前から覚悟できているので不意打ちを食らって不快になることはないでしょう。問題なのは、店を継ぐのは男の子と決まっていたり、アランのお姉ちゃんが裸で踊るシーンがあること。男尊女卑や、女性を性的に消費する表現は一切、受けつけません! という方は観ないほうがいいかと思います。お姉ちゃんのダンスシーンにもちゃんと意味はあって、自己肯定感が低かったお姉ちゃんは毎夜のダンスを通じて自分が好きになるんですけどね。自分は美しいと思えるようになることで表情が変わり、恋人ができます。でもこういう表現って賛否両論だと思いますね。女性にも容姿以外の要素で自信をつける方法はあると思いますし、生きづらさは恋人ができたら即解決するってもんでもないと思いますが。公開当時、フランスではどう思われたのか。しかもこのダンスをアランは友達に見せちゃうんですよね。それで「ぼくの姉さん、キレイだろ」とか友達に言っちゃう。これはヒドい。私が姉だったら弟をしばき倒しているところです。店を継ぐのは男子・お姉ちゃんのダンスシーン・それを見せるアラン、の3点はホントに残念です。すごくいい作品なんですけど玉の傷。以上の注意事項があっても大丈夫な方はご覧ください。多少の不快感は吹き飛ばす勢いで美しい作品なので、私はDVDを買いました。個別記事も書いたのですが気づけば今書いてるこの紹介文だけでも1記事分ありそう(笑) 要するに何度でも語れるぐらいすばらしい作品なのです。私が作中で一番好きなキャラはカウンセラーの先生。私もこの先生みたいに生きられるようになりたい。あと何十年生きても『スーサイド・ショップ』がずっと好きな映画ランキング1位かもしれない。

当ブログの個別記事はこちら(⬇︎)

mee6.hatenablog.jp

以上。舞台が変わらなくて登場人物が少ない映画特集をお送りしました。登場人物が少ない映画をもっと観たい方は、以下のリンクから「ライフボックス」の記事をどうぞ。

 

boxlife.net

上の記事のライターは「世捨て人かなも」さんです。自分が考えつくような企画はとっくに誰かが(しかも自分よりも高品質で)やっているものですね。紹介作が一部かぶっているのが悔しい。ググってみつけた他の記事で面白かった特集はこれ(⬇︎)

aro30fuan.com

「バリムービー」の記事。この特集も面白そうなので参考にしたい。めちゃ感動したら個別記事を書くかもしれない。しかしよく考えたら、登場人物がほぼ一人の作品ってすごく紹介しにくいのでは。記事にするのは難しいかも。