ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

登場人物のほとんどが迷子の小説『ダブ(エ)ストン街道』 道に迷うのも悪くない。

お題「読書日和」

  

 

 

第8回メフィスト賞受賞作、満を持して当ブログに登場(古い)!

ということで霧が出た日の読書におすすめの小説、浅暮三文作『ダブ(エ)ストン街道』をご紹介します。今回はこの作品を紹介したさにこのお題を選びました。私はこの作品がかなり好きでして。本作は、何度本を断捨離しても手元に残しておいた名作なのですが。内容的にすげえ紹介しにくかったんで今までスルーしてまして。しかしこの作品を胸に秘めておくことはもはや不可能。この作品を紹介せずして死ねるものかと奮起しました、というのは言い訳です。そろそろブログ更新しなきゃいけないのにもう紹介できるものがない、ここは奥の手を出すしかないというのが実情。内容的に紹介しにくい作品なのは確かなんですが語ります。もう語るしかないっ。

 

あらすじ

タニヤを見かけませんか。僕の彼女でモデルなんですけど、ひどい夢遊病で。ダブエストンだかダブストンだかに探しにきたんです。迷い込むと一生出られない土地なんで心配で。王様? 幽霊船? 見ないなあ。じゃ急いでるんでお先に。

以上、講談社文庫版カバーより

 

このあらすじを読んだ時点で面白そうだと思った方はリンクを経由してアマゾンでお買い求めください。もうこの記事の先は読まなくてかまいません。少ない文字数で読者の興味を引くべく考え抜かれたあらすじを考えられた方には頭が下がります。この時点ですでに読んでみたい(既読だけど)

 

主な登場人物

吉田健二:主人公の考古学者。通称ケン。幼少期から人に道をきかれやすい。夢遊病の恋人タニヤを探してダブ(エ)トン島にたどり着く。多言語を話せるのでダブ(エ)ストンでの会話には不自由していない。

タニヤ:夢遊病でプロモデルの女性。主人公ケンの恋人。眠るたびにちがう場所で目を覚ます困った体質で、いつのまにかダブ(エ)ストンにいた。

アップル:ダブ(エ)ストン島で生まれ育った郵便配達人。「アップル」はあだ名で、本人も自分の本名を知らない。ポストから落ちて足を折ったので、主人公ケンとともにドサイの都を目指すことになった。

ポール・カーライル卿:英国の男爵で探検家。ある人物からソリを強奪して一度はダブ(エ)ストン島から脱出するも、ダブ(エ)ストン島に魅せられて舞い戻った人物。

 

この記事をまだ読んでくださっている方のために主な登場人物も書いてみました。他にも王様とか海賊の幽霊とか魚人とか駅伝ランナーとかマーチングバンドとかしゃべる熊などが登場します。ダブ(エ)ストン島の野生動物は道をたずねるために人語を話すそうです。それにしても登場人物に脈絡がない。今気がついたんですが一見すると脈絡のない登場人物を列挙すると面白そうになるんですね。勉強になるなあ。

 

感想。道に迷うのも悪くない(希望が持てれば)

この作品の何がすばらしいって、まずは物語の簡潔さ。主人公が恋人との再会を求めて案内人とともに霧深い島をひたすらにさまよう。それだけの物語。ところどころ幽霊や魚人の視点になりますが、物語は基本的に一本道。舞台は変わらずにずっとダブ(エ)ストン島。主人公以外の人物の物語は枝葉末節。世界観を深めるためのにぎやかしです。本作では世界観の深さ=迷子のバリエーションの多さだから。迷子の多様性こそダブ(エ)ストン島の豊かさなのです。これからもダブ(エ)ストン島の迷子は種族・人数ともに増え続けることでしょう。誰かに「迷子を増やせ! ダブ(エ)ストン島」ってシミュレーションゲーム作ってほしいです。創造主の視点で霧の中を迷子がうろつくのを眺めていたい。無限に時間が潰せそう。

霧の中で出会う河やツバメや蟻なんかもすばらしいのですが詳しく書いてしまうとネタバレなのでここでは割愛するとして。あとは読後感の良さも魅力ですね。死人が出ることは出るので悲しいといえば悲しいのですが。誰かとの再会や、生まれ故郷に帰ることなど。ダブ(エ)ストン島ではみんながみんな、目的はちがえどもそれぞれ道に迷っています。でも誰もあきらめていません。どんなに道に迷っていても絶望しないのです。ダブ(エ)ストン島では道に迷うのがあたりまえというか大前提なので、自分が道に迷っても悲観しないし、他人が道に迷っていてもバカにしません。この島の住民が完全にあきらめている唯一のことは、道に迷わないことなのでしょう。道に迷わないように生活しようとすると、放射線状につくった畑の中心に家を建てて、一生畑から出ないようにするぐらいしか方法がありません。そうするとひとつの土地から動けなくなってしまい、見える景色も会う人もほぼ固定されてしまいます。それでは面白みに欠ける。だから、あえてさまよい続ける。そんな人生を選択する住民もいます。この作品は道に迷う系ファンタジーですが、人生の物語でもあります。霧深きダブ(エ)ストン島は人生の象徴なのでしょう。このまま己の人生に迷い続けていいのかどうかを迷っている人におすすめ。一直線に目的地に着かなくてもいい。迷いこそ人生である。道に迷うのも(希望が持てれば)悪くない。むしろ一生道に迷っていたい。本作『ダブ(エ)ストン街道』を読むとそんな気持ちになれるんですが。そんな気持ちになっちゃダメか? いや、それも人の自由のはず…だよな?