ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

【ネタバレ注意】星新一が描くディストピア「ピーターパンの島」を読んで

 

 最近は電車を待つ間に星新一ショートショート集を読んでいる。今読んでいるのは『悪魔のいる天国』だ。この中の一篇に「ピーターパンの島」がある。タイトルに反してピーターパンは登場しないのだがウェンディという名の少女は登場するし、子供たちが想像した海賊船長はフックらしき姿をしていたので、やはりあの『ピーターパン』をモチーフにしているのだろう。そもそも星新一が他人の作品を下敷きにすること自体が珍しいのだが、これがまさかのディストピアものなのだ。星新一作品にはバッドエンドものも少なくないとはいえ、ここまであからさまにディストピアものなのは珍しいだろう。あまりにも衝撃的だったので今回、ブログのネタにさせていただくことにした。

 いかに文明が進んだ社会でも、予防できず治せない病は存在する。作中の世界で問題になっている病、子供だけがかかる病に名前はついていないが、症状は描写されている。例えば、誰にも教えられていないのに「花の中に小さな子供がいる」と言い出したりするのだ。この社会の教育界からは、おとぎ話のような非科学的コンテンツは一掃されているのにも関わらず。こんな症状をみせた子供たちの行きつく先は? 悲しいことに殺処分である。子供たちは家族から引き離され、特殊学校という体になっている古城のある島に集められ、一定期間観察されたあとに処分される。他の子や先生が語るおとぎ話に科学的な観点から疑問を抱く様子がない子供は残らず同じ運命をたどる。なんとも残酷な話だ。お子さんがいる星新一がこんな世界を描いていたことに驚いたが、お子さんがいる星新一だからこそ、子供が殺される世界がいかに間違っているかを描きたかったのかもしれない。

 子供が殺される世界の他に驚いたことは、非科学的な内容のコンテンツが一掃されていることだ。先述したように、この世界にはもう(表向きは)おとぎ話の類は流通していない。ということはおそらく、この世界にはテーマパークもファンタジー映画も幻想小説も存在しないのだろう。我々の世界、この現実の世界でこんなことが可能か。百歩ゆずって役立たずの人間が殺処分される社会が実現したとして、非科学的なコンテンツを、巨大なフィクション産業を根絶することはできるだろうか。ディ〇ニーランド、ユニバーサ〇スタジオ、ムーミ〇バレー、ハリウッド、ジブ〇を叩き潰し*1異世界転生系ライトノベル小松左京夢枕獏の小説を発禁にすることは・・・不可能だろう。これがもし実現してしまったらそれこそ、不適合な子供が殺処分される世界が到来してしまう。

 フィクション産業を根絶した世界は実現させにくいだろう。より現実的な変化として考えられるのは、支配体制を維持するために、支配者がフィクション産業を利用するようになることだ。

 「ピーターパンの島」では、左手がフックになっている船長が率いる海賊たちが、新エネルギー実験の標的になる島に子供たちを置き去り*2にして、間接的に殺処分する。このように、夢の国が消えてなくなることよりも、夢の国が悪魔の手先になってしまうことのほうがよほど実現可能性があると思う。

「ピーターパンの島」で星新一が考えたディストピア像をまとめると、

・おとぎ話が子供の殺処分に利用され、現代社会に適合する子供だけが育てられる社会

になる。こんな社会は考えるだけで怖ろしいので、フィクション産業に従事する方々は支配体制に抵抗し、支配者に利用されることなく、子供たちの夢を守ってほしいと思う。おとぎ話の類が流通しなくなる社会は、夢見る子供たちが殺される社会だから。

 以上が「ピーターパンの島」のまじめな考察だ。最後に「ピーターパンの島」初読時の率直な感想(小並感)をお送りしよう。

 

「ピーターパンの島」感想:ウォルト・ディ〇ニー社を廃業させるとか、この世界線の政治家強すぎ。いったいどんな手を使ったんだ。本社に爆撃でもしたのか?

 

 上記の感想はディストピアものを鑑賞するたびに抱いている。この現実の延長線上に、同じ地球の上で実現した未来社会という設定の作品だとどうしても「ディ〇ニー社を廃業させるなんて不可能に決まってんだろバカ」と思ってしまうのだ。ディストピア系作品は一種の思考実験なのだから、ディ〇ニー社*3が廃業させられた世界を素直に思い描けばいいのだがどうしてもできない。我ながら大人気ない。

 

 

追記:この記事の公開後に読者登録が反映されたらしく、読者数が46名様になりました。登録ありがとうございます。通知が来ていなくても、記憶より増えていたらお礼を述べることにしております。テーマがあいまいなブログですが、末永くお付き合いいただければ幸いです。

 

※本記事は、2021年9月23日に追記しました。

*1:真の悪夢とは全ての人間が同じ服を着て生活するようになることではなく、全てのテーマパークと遊園地がディズマランドにされることではないだろうか。

*2:海賊船で島に行くことは、子供たちが希望したことだ。子供たちはサンタクロースに、クリスマス・イブに島へ航海させてほしいとお願いした。この航海の問題点は、帰れないことだ。

*3:みなさんご存じの超有名エンタメ企業。自社のオリジナルコンテンツだけでも十分に強かったのに、いつの間にかピ〇サーを傘下におさめ、マーベ〇系やス〇ーウォーズ系コンテンツの権利まで保有するようになった。強すぎ。ここまで強いと、平和的な手段で穏便に廃業させることは不可能だと思われる。