ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

ホットミルクの完成形はハチミツによって変わることを知った日。

今週のお題「眠れないときにすること」

 

学生時代、一人暮らしをしていた頃は冬になるとハチミツ入りホットミルクをつくって飲んでいました。寝る前にホットミルクを飲むというオシャレな習慣に憧れていたのです。ただのホットミルクではつまらないからハチミツ入りにしよう。せっかくだからビン入りの高級ハチミツがいいな、と思ってデパ地下を物色していた時、驚くべき看板が目に入りました。「はちみつ専門店 L'ABEILLE」という看板が。

「はちみつ専門店? 世の中にはニッチな商売があるもんやな」

世間知らずの私はハチミツの専門店があることを知らず、その存在自体に感動しながらその店に立ち寄りました。店名の読み方がわからなかったので店員さんに「ラベイユ」と読むのだと教わった後、私は無邪気に質問しました。

「ホットミルクつくりたいんですけど、牛乳に入れるオススメはありますか?」

と。パンフレットをよく読めばホットミルクに入れるオススメ商品が書いてあることは後で知りました。無知な私は何も考えず、目の前の店員さんに全幅の信頼を置いたと言えば聞こえはいいけどつまりは商品選びを丸投げしたのです。

「そうですね…」

あまりに丸投げの質問に店員さんが戸惑ったのか、キレのないお返事。今思えば無知と思考停止のコンボが発動して他人様に迷惑をかけていたような気がするのですが、当時の私は店員さんの戸惑いに気づきもせず、商品が提案されるのをただ待っていました。だって相手は専門店で働いている店員さんなのだから、私よりははるかにハチミツに詳しいはずなのです。素人の私がこれ以上なにを言えるというのか。「正解」を教えてもらえるのを待つのは「生徒」たる客の正しい態度だと、私は信じていました。

私からはこれ以上なんの要望も聞き出せないことを悟った優秀な店員さんは数十秒後、

「でしたら、こちらはいかがでしょうか」

と、色が濃くて不透明なハチミツのひとつを提案してくれました。

「こちらをミルクに溶かしますと、ハーゲ〇ダッツのバニラ味みたいになっておいしいですよ」

完成形を身近なアイスで例えてくれたのはさすが。味が想像しやすくてわかりやすい。

「あ、それじゃあ、それをお会計お願いします!」

「かしこまりました。ありがとうございます」

私はウッキウキでそのハチミツを持って帰り、スーパーで買った牛乳と電子レンジで無造作にホットミルクをつくり、溶かして飲みました。そして感激しました。

「ほんまや。くどくてハーゲ〇ダッツに似とるww」

ビンが空になるまで何日かかったのかは忘れましたが、おいしかったです。京都の底冷えしてクソ寒い(失礼)冬には、このくどさがピッタリでした。明確にバニラ風味がするわけではないので、例えるならスイートポテトのほうが近かった気がしますが、いかにも無知な学生っぽい客に味を伝えるには適切な例えでした。パンフレットにあるホットミルク定番商品をおすすめすれば楽な接客だったでしょうに、真剣に考えて、あえて独自の提案をしてくれた店員さんには今でも感謝しています。あの店員さんのおかげで私は高級ハチミツのおいしさに目覚め、冬のホットミルクに良い思い出を持っているのですから。ありがとう京都大丸。ありがとうラベイユ。ありがとう店員さん。今はもうホットミルクなしでも眠れるけど、寒くなったらまたハチミツ入りホットミルクつくろうかな。