今週のお題「試験の思い出」
資格試験の内容よりも、帰りに寄り道した地下街のほうがよく記憶に残っている。数年前に心斎橋付近で試験を受けた私は御堂筋線で帰ろうと地下に降り、そこに地下街「長堀クリスタ」があるのを発見した。
「へえ、こんなとこに地下街なんてあったんだ」
大阪の地下街といえば梅田と難波と天王寺の付近しか知らなかった私が初めて来た地下街を興味深々で歩いていると案内板をみつけた。
「ふんふん。ここの名前は長堀クリスタね。枝道は無しか。シンプルで良いな」
方向音痴の私は道に迷いやすいので枝道がないのはありがたい。私が商店街よりもショッピングモールを好むのは冷暖房の問題もあるが、何より通路がシンプルだからだ。たいていのショッピングモールは通路が円形につながっているので、迷うのにも限度がある。いつか必ずエスカレーターがみつかるし、何周かしていれば目当ての店がみつけられる。たとえ反対方向に歩いていても、目的地から無限に遠ざかることはない。だから私は商店街よりショッピングモールが好きなのだ。
ショッピングモール好きな私は長堀クリスタのまっすぐで迷いようがない通路が気に入った。
「せっかく来たんだし、改札がみつかるまで歩いてみよう」
体力と時間には余裕があったので、心斎橋駅の改札口をみつけるか、疲れるまでは歩いてみることにした。
「滝みたいな噴水がある。オシャレ!」
噴水は、吹き上げるタイプよりも流れ落ちるタイプが好きだ。吹き上げるタイプは近寄ると水しぶきで濡れるかもしれないし、水音がうるさい。その点、流れ落ちるタイプは静かなので安心して近づける。通路がシンプルなうえに静かなタイプの噴水を採用している長堀クリスタがますます気に入った。
「何か買って帰りたいな。なんか、おもろい店はないかいな?」
正直なところ、ブティックとドラッグストアと雑貨屋は見飽きている。何か、それ以外の店をみつけたかった。
「なかなかないもんですね…おや?」
店先に量り売りの固形ソープを積み上げ、良い香りを漂わせている店があった。見るからにおもろい店である。
「なんやこれ、石鹸か? 量り売りなんて初めて見たわ。おまけにめっちゃいい香りするやん。よし、ここでなんか買ったろ」
積み上げられた固形ソープの山脈はルームフレグランスが不要なほど香り高く、そのまま店の香りになっていた。店の内装は個体ソープの色やギフトボックスの柄に負けないぐらいカラフルだ。しかしBGMはうるさくない。内装がカラフルな店=BGMがうるさい店だと思って敬遠していたがこの店は居心地が良い。
「ええ店やん。モノはちょっと高いけど」
いくらワクワクしているとはいえ得体のしれないものは買いたくないので、おそらくはボディソープであろう固形ソープを100gほど…と考えながらキョロキョロしていると
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか」
すかさず店員さんに話しかけられた。見るからに不慣れな客だったからか。親切なのはいいけど目ざといな、接客は丁寧そうやけどつきまとわれるのはちょっと…と戸惑いながらも一応は確認する。
「あの、これ、ボディソープですよね?」
「はい。当店では量り売りで販売しております」
「じゃあ、季節のオススメとかあります?」
「そうですね、この時期ですと…」
いくつか、寒い時期にオススメなソープを教えてもらった。店員さんはさらに
「お客様、何かお肌のお悩みはございませんか?」
と言う。そうきたか。しかし私はボディソープしか買う気がないのだ。顔に塗るスキンケア商品なんぞ買わされてたまるか。私は鋭く切り返した。
「そうですね…実は冷え性で」
必殺! 微妙にズレた答え! 肌質➡体質の相談へと強制シフトチェンジ!
「でしたら、こちらのソープがオススメですよ」
疑ってすいませんでした。この店員さんは、私の体質により合うソープを提案しようとしてくれていただけだった。
「あ、でしたらそれを100gいただきます」
「かしこまりました。ありがとうございます」
私が買った石鹸はたしか「ノリコ」とかいう商品名で、日本酒配合のボディソープだった。店員さんいわく、使っていると冷え性が改善されるとのこと。このボディソープは独特の香りだったが、その冬はこころもち、温かく過ごせた気がする。
以上、試験の思い出というより地下街の思い出をお送りいたしました。
※この商品は廃版で、この店は某チェーン店ですが、すでに長堀クリスタから撤退しています。地下街で香り高い店は難しかったか…。