みなさん、今月発売の新刊は何かお読みになりましたか? 私はちくまプリマ―新書467の『東大ファッション論集中講義』を読みました(⇩)
著者の平芳裕子(ひらよしひろこ)氏は神戸大学の専任教員で「ファッション文化論」という講義をなさっているとのこと。しかし本書の舞台は書名の通り東大です。平芳氏は東大の専任教員にお知り合いがいて、その方からお声がかかり、4日間の集中講義をすることになったとのこと。なるほど。東大生といえど若者にはちがいないのですから、当然ながらファッションに関心を持つ学生さんも多いでしょう。しかしながらファッション論というのはどうも学問的に軽視されがちなようです。おそらく東大では本格的な講義を受けることができないのでしょう。そこで開催された集中講義の内容があまりにもすばらしかったので書籍化されたようです。こんな経緯で出版された本が退屈なわけがない。むしろ面白いにちがいないという直感が働き、Amazonで珍しく予約してまで買った1冊です。案の定、とても面白い内容でした。ファッション論といっても少しは西洋服飾史が含まれているわけですが。事実としての西洋服飾史に、平芳氏の主観が合わさったファッション論はとても読み応えがありました。税込990円という価格に見合うページ数。あとがき含め254ページで、厚みは約1.5cmあります。見た瞬間に思わず「ぶ厚っ」と言ってしまうほどの厚み。図版がモノクロなのは惜しいですが、モノクロ印刷のおかげでこの価格を実現しているのならばしかたなし。ファッション論は文学論と異なり図版がないとどうしようもないので、図版があるだけ感謝するべきでしょう。ついでに言うと本書のカバーになっている画像は、1856年に発行された女性誌の付録になっていたパターン(型紙)の図だそうです。誌面の面積に限りがあるため、複数のパーツをひとつの画面に収めた結果、数学みたいな図形になったのですね。道理で服飾関連書の表紙に見えなかったわけだ。この不思議な表紙も含めて印象的な1冊でした。本文を読んでいるうちに表紙の謎が解けるのは良書の条件ではありますが、本書の魅力はそれだけではありません。あくまでも学生さんむけの講義なので専門用語が少なく、ド素人にも読みやすいのも良いところ。割と根本的なところから説明してくれます。たとえば「ファッション」という語が流行という意味を持ったのは近代であること。芸術には、鑑賞だけが目的の「純粋芸術」と、実用性を伴う「応用芸術」があること。衣服は応用芸術に分類されているが、服としての色や形ではなく生地(織物)の価値で判断されていたことが書かれています。そうそう。こんな本が読みたかったんです。まさに期待通りの内容。こういう、根本的なことから説明してほしいのよ。最先端の研究内容が知りたいんじゃなくて、そもそも、どういう学問なのかを説明してほしかったのです。だって、素人でも思うじゃないですか。服飾史ならともかく、ファッションそのものが学問になりうるのか? と。その答えがここにあります。平芳氏の答えは当然ながら、ファッションは学問になりうるというものです。本書によると70年代生まれの方々が、ファッション学における若手研究者とのこと。この方々が発信しはじめたのが2000年代とのことですから、日本のファッション学はこれから盛り上がっていくのだと思うとワクワクしますね。
以上、『東大ファッション論集中講義』読んでみた件でした。Amazonへのリンクはこちら(⇩)
蛇足:4日間の集中講義とのことなので、4日かけて読みました。読み終えるのがもったいなかった。4日かけて読んだ方が臨場感があって楽しめるのでオススメ。