どうやら、私が発しているのは幸福な空気ではなく、確信の空気であるらしい。
私が繫華街やショッピングモールで発しているのは幸福な空気*1なのだと思っていた。私が、いかにも幸せそうな様子でお買い物やお茶をしているから、後から人が入ってくるのだと思っていた。けれども、実際はちがうのかもしれない。ルンルンとした気分で選んだ店ではなくても、しかたなしに食事しているだけでも後から人が来るのだ、ということを発見した。「ここで正解」だと確信した様子でランチしているから、後から人が来るのだろう。
私がこのことを発見するに至った経緯を話そう。舞台は大阪駅付近。ルクアの9階で開催される展示会*2へ行く前に昼食を摂ろうと地階へ向かい、スープストック東京の店舗まで行って空席率を確認した。通路から見る限りでは満席である。しかたなしに通路をUターンした私は、先ほど通り過ぎたベーグルショップへ向かった。その店は手軽にベーグルサンドが食べられるものの、ファストフード店に比べると値段が高く、スープストック東京とタメをはる程の価格帯である。おまけにカウンター席しかなく、通路に背を向けて座ることになる。通行人に背中を見せながら食事するのはあまりに無防備なので落ち着かない。以上のような条件の店なので普段なら選ばないが、今回ばかりはしかたない。近隣のカフェはどこも満席近いし、メニューもよくわからない。よくわからないカフェに入るよりは、このベーグルショップのスタンド席に座るほうがいい。こう考えた私は鞄を席に置いた。席数の少ない店なので、まず自分の席を確保してからでないと、おちおち注文もできないのだ。席を確保した私はレジでエビ&アボカドのサンドとハーブティーを注文した。番号札をもらい、着席して待つこと3分ほど。プレーンベーグルにエビとアボカドとレタス少々がはさまれたサンドと、アイスハーブティーが運ばれてきた。たった2品で1000円以上することに少々の不満を抱きながらも、手軽に昼食を済ませたかったので「まあ、今日のところはこれでいいか」と思いながら食べ始めた。幸いながらベーグルはトーストされていたのでベーグルサンドは思いがけず温かったし、よく考えればハーブティーをアイスで飲める店は珍しい。食べ進めるうちに「これで正解だった」と確信した。他人に選んでもらったものならともかく、自分で選んだものが口に合わないわけがないのだ。
少々の不満から始まったランチは、ささやかな確信に至って終わった。私がベーグルサンドを食べ終える頃には、珍しくレジ前に行列ができていた。行列といっても3人ほどの短い列だが、行列にはちがいない。失礼ながら、このベーグルショップでは珍しい光景だ。私がアイスハーブティーを飲み終えて席を立つ頃には、女性の2人組が席についていた。テイクアウトの客かと思ったら、イートインの客だった。これまた珍しい。これはやはり私の、確信に満ちた空気の効果だろう。どうやら人は、確信をもって食事している先客がいると釣られて入店するらしい。先客が食べているものがおいしそうに見えるのかもしれない。私は「ここで食べてあげてよかったな」などと恩着せがましい気持ちを抱きながら、ルクア9階のホールへ向かった。
こんな経緯で、私は発見したのだ。私が発しているのは幸福な空気ではなく、確信の空気なのだと。
以上。