SF好きならとっくに読んでいて、興味ない人はたぶん一生読まない。そんな本を今さら紹介したところでどこにも需要はないのでは。などと考えるものの、やっぱり面白いので読んでほしい。ということで今回ご紹介するのは、くられ著『アリエナクナイ科学ノ教科書』です(⇩)
どんな本かといいますと、フィクション(特にSF)に登場するものについて、現代科学の知識・技術面から「ありえない」のか「ありえる」のか解説してくれる本です。現代の技術では完全に再現はできないけれど、こうすればできるかも…と、夢のある解説もしてくれます。ここらへんが、ただ単に「科学的にありえないw」「この作者は科学知識なさすぎw」とあざ笑う言説とは異なるところ。科学知識があればフィクションに野暮なつっこみを入れることは可能ですが、作者の夢や読者のワクワク感を損なうことなく「今は無理だけど、こうすればできるかもしれないよ」と、フィクションに寄り添ってくれる解説書はそうないでしょう。文章から著者の人柄の良さが伝わってきます。この人はあれだ、先人の描いたSFをワクワクしながら読んで育って、好きが高じて科学者になったタイプの人…つまり、著者はオタクに優しい科学者だ! すげえ! 「オタクに優しいギャル」はたぶん実在しない*1けど、オタクに優しい科学者ならここに実在する! こんな態度の科学者がいるということを知れただけでも読む価値がありましたが、そろそろ内容の解説に移りましょう。この本は全31項目あるのですが、中でも興味深いのは「幽霊」「神」という項目ですね。宗教界の管轄と思われることにもズバッと切り込んでいます。著者は怖いもの知らずですね。ちなみに死後の世界については「神」の項目内でついでに解説されています。といっても「死後の世界」そのものではなく臨死体験について述べられているのですが。本書によれば人間の脳には幽体離脱のような感覚が発生するツボがあるのだそうです。つまり、臨死体験はあくまでも主観的な感覚なのであって、客観的には何も起きていないわけですね。この点はちょっと夢がありませんが、地獄が実在するよりは良いでしょう。変わりダネには「ヴァンパイア」「刀剣」という、ちょっとファンタジーな項目も。まあ漫画『銃夢』にはヴァンパイア的な人々*2やダマスカス鋼のブレードが登場したりするので、SF畑の人でも割と考察している項目なのでしょう。この他に印象的な項目はずばり「ネコミミ娘」ですね! 本書のネコミミ娘は頭部に猫の耳がついているだけではなく、お尻に猫の尾もついているバージョンです。尾といっても充電式のデバイスですが。外科手術によって仙骨にボルトを埋め込み、しっぽを接続するのだとか。このように、しっぽ付きネコミミ娘の外見をつくれるだけではありません。ウィルスを使えば筋肉をヒト➡ネコに置き換えることも可能かもしれない、というのです。これは夢がある。私は運動オンチだし体が固いので、柔軟と瞬発力に優れた猫の筋肉がうらやましい。移植手術なしで猫筋になれたら最高。この技術はぜひ実用化してほしいところですが、猫筋だと持久力はなさそう。電車通勤にはむいていないかもしれません。降りる駅まで立ってられないかも。これは困りますね。しかし夢があることには変わりなし。本書で提案されているネコミミ娘のつくり方では、人間の耳を切除して猫の耳をつけるという倫理的に少々問題のある過程を経ますが、筋肉置き換え技術だけはちょっと試してみたい気がする。
内容の解説はこんなところ。私の印象に残った項目だけピックアップしたので偏りはありますが、なんとなく本書のテイストはわかっていただけたかと。本書を読んで、科学技術というのは、夢を現実にすることを目指すものなんだと思いました。それこそ不老不死とか。現にドラえもんのひみつ道具を現実にしようとしている人たちもいるようですから、科学者は現実主義者ではなく、むしろ世界一の夢追い人なのかもしれません。先人が描いたフィクションを嗤うことなく現実にしていくことも、技術開発の醍醐味なんでしょうね。
以上、フィクションのネタを科学的に解説する名著『アリエナクナイ科学ノ教科書』読んでみた件でした。SFあるあるネタがお好きな人はぜひ、ご一読を。Amazonへのリンクはこちら(⇩)