ロマンというほどでもない

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【二次創作】映画「ゴーストトリック」のオーディオコメンタリー

目次

 

言わずと知れたゴーストトリック』はカプコン社製のゲームです。私はこれを原作として二次創作の設定を考えました。しかし本文は未発表。自分のiPad内に保存されたまま、他人様に読まれる機会はありませんでした。まあ、これはこれでいいんです。記事にしたものよりもさらに複雑な設定をして、警察小説のようなものを書こうとして挫折したので、もうそれはいいんですが。警察小説モドキとはまた別なパターンを思いつきました。それが今回の「オーディオコメンタリー」です。映画のDVDを買う醍醐味といえばこれ。DVDに収録されている特典といえば、未公開シーン・NG集・コンセプトアート・オーディオコメンタリーあたりが定番ではないかと。幸いにしてゴーストトリック』にはストーリーの分岐がなく、全18章と短めです。18章分ぐらいなら、オーディオコメンタリーを創作することができるのではないか。そう思って書いてみたのが今回の二次創作なのですが。全18章分を考えるのは意外と大変なので随時更新でお送りいたします。公開日には何章できていることやら。

それでは。章ごとに出演者の「オーディオコメンタリー」をお送りいたします。

 

映画「ゴーストトリック」オーディオコメンタリー

第1章  ゴミ捨て場にて、リンネの死を取り消す

「や、なんか、自分の出演作を見るのってキンチョーするね。特に、デビュー作ともなると」

「リンネ、これはオーディオコメンタリーだ。話し方をキャラクターに寄せる必要はないと思うが」

「そういうキサマもシセル節のままだぞ、ヨミエル」

「私、これがほとんど素なんだけど…たしか、カントクさんが『セリフが言いやすいように調節する』って言ってくれて。おかげで、どのセリフもかまなかったわ!」

「それはよかった。名優ですね、リンネ様」

「うおっ!?  この『クネリ』しゃべったぞ!」

ジーゴ。その銃、小道具だから。かまえても、撃てないと思うんだけど」

「おや、聞こえていらっしゃいますか。どうも。クネリ役を務めました声優です。オーディオコメンタリーにお誘いいただいたので参加いたしました。驚かせて申し訳ありません、ジーゴ様」

「…いや、おまえは悪くない。おまえが来ることを黙っていた監督が悪い」

「ムダ撃ちしなくてエライね、ジーゴ」

「小道具でよかった。実銃なら撃っていたかもしれない。クネリ、しゃべるのはいいが、じっとしていてくれ。となりでクネクネされると落ち着かん」

「かしこまりました。じっとしていましょう。ライトとは本来、光るもの。動くものではございません」

「それで、この章の内容なんだけど…うーん、乙女をいきなりゴミ捨て場で死なせるなんて、シュミが悪いわよね」

「悪趣味だとは思うが、モノが自然に散乱している場所を考えると、ここだったんだろう。…しかし、ギターまであるのはどうかと思うが」

「とりついたあとの動作が『カキナラス』なのには笑ってしまったな。まあ、ギターで他にできることなどなさそうだが」

「あ、今ちょうどジーゴの発砲シーンだよ!  うわ、ギターが穴だらけ!」

「この時は、一瞬でギターに穴があいて驚いたな。本当に発砲したんじゃないかと心配したが…それにしても。この殺し屋はムダ撃ちしすぎだな」

「ハンシャ的に撃ってるもんね。とりあえず、メガネを買ったほうがよさそう」

「そういえば。クランクアップ祝いで、ボスからメガネをもらったな」

「え。そのメガネ、今、持ってる?」

「持ってるが…どうした?」

「かけてみて!」

「ここでかけても、視聴者には見えないぞ」

「リンネ様。メガネに気を取られているうちに、また死んでしまいましたよ」

「あ、ホントだ…ジーゴが階段を下りてる。この殺し屋、ド近眼なのにどうやって階段を下りたのかしら。よく足を踏み外さなかったわね」

「裸眼でも階段ぐらい下りられる。慣れた動作なら問題ない。だからこそ、オレはずっとメガネを買わなかったんだ」

「しかしこの殺し屋、えらくレイギ正しいな…死人に頭を下げている」

「ああ。自分が殺した相手には、心の中で謝ることにしている。シセルには、蹴り落としたことを謝っているんだろう。オレはトリヒキ相手の顔を知らなかったからな」

「そして、ここから逆転劇が始まるわけね!」

「しかし、何度見ても…気の毒だな、ジーゴ」

「まったくだ。まさか、あの鉄球が落ちてくるとはな。監督によると生きているらしいが、かなりのダメージを負っただろう。殺し屋としては再起不能かもしれないな」

「すまない…あの時の私には、ああするしか手がなかった」

「べつに恨んじゃいない。正当防衛だからな…それに、幽霊に手はないだろう」

「その通りでございます。我々には手がない以上、手段は選べないのでございます」

「それにしても申し訳ない…生きていてくれてよかった」

「何言ってるの。ダレでもドンドン死なせて、ドンドン助ければいいじゃない。そして、テキの情報を聞き出すのよ。教えないと助けないって言えば、ダレでも情報を吐くわ。なんで、そうしなったのよ!  トドメをさしておけばよかったのに!」

「その発想はなかったが…それはちょっとザンコクじゃないか?」

「リンネのほうが、オレよりも殺し屋にむいているな…それじゃ、オレはここで失礼しよう」

「うん。また後でね、ジーゴ」

 

第2章 シス初登場~カノン救助

「電話線を通れるのって便利なチカラよね。私もほしいな」

「生身では無理だ」

「やあやあ、シセルくん。ミス・リンネもお元気かね?」

「シスさん!  お久しぶりです!」

「ここでは俳優なので、ヨミエルと呼んでほしいのだが…ミスター・シス。久しぶりだ」

「うむ。ふたりとも元気そうじゃな。して、ワシの初登場シーンじゃが…ふむ。なかなか男前に映っておると思わんか、参謀よ」

「はい。とてもりりしくお映りです、シス司令」

「!?  アンタ、いつからそこにいた⁉」

「全然気づかなかったわ…すごい」

「当然だ。マスクの電源を切っておいたからな」

「それだけで気づかないものかしら…もしかして参謀さん、ホントにロボット?」

「ああ。言い忘れておったが、こやつは本物のロボットじゃ」

「身辺警護型護衛ボットだ。くれぐれも、私の目の前でシス司令に危害を加えようとしないように。加害者の生命は保証できない」

「心配しなくてもダイジョウブよ、参謀さん。今はダレも武器は持ってないから」

「そう願いたいが…どうかな?」

「まあそうケイカイするでないワ。オーディオコメンタリーの続きを話そうではないか。テンゴ、入ってこい」

「はい。お呼びですか、司令」

「おお。珍しく先回りしておらんの。エライぞ。おまえが先行するとロクなことにならんからの」

「お言葉ですがね、ボス。自分がいつも先回りしているのは、ボスの安全のためですぜ」

「おまえの先回りは無用だ、テンゴ。シス司令には私がついている。私の目なら10km先にいるアリでも見える。近づいてくる敵に遅れをとることはない」

「そう言われましてもね、参謀殿。自分も、シス司令の護衛なんですぜ。お忘れで?」

「ええい、いらぬ対抗心を燃やすでないワ!  見ろ。おまえたちのせいで場面がずいぶん進んでおるぞ。カノンお嬢ちゃんとミサイル君の登場じゃ」

「ハーイ!  カノンだよ!  みんな、久しぶり!  シスおじいちゃん、元気?」

「うむ。久しぶりじゃの。ミサイル君も元気そうじゃ」

「うん、とっても元気だよ!  今朝、またリンネおねえちゃんのヘッドホンかじってたし」

「ハイ! ボク、かじるのも大好きです!(ワンワン!)」

「おお! 声優くんも参加しておるんじゃな。本人が鳴くタイミングも絶妙じゃ。まるで本当にイヌが話しているようじゃのう」

「小道具の銃とイヌの芸とはいえ、一瞬あせりましたぜ。本当に撃っちまったかと…あの時は悪かったな、ミサイル。おわびになでていいか?」

「え。なでなでしてくれるんですか!?  ボク、毛が長いから、みなさんに嫌がられるんですけど」

「そうか。まあ、今日は私服だからな。少しぐらい汚れてもいい。あの時のおわびに、おまえが満足するまでなでてやるぜ」

「わーい!  ぜひ、お願いします!(ワンワン!)」

「こうあっさり腹を見せられるとフクザツな気分だぜ…こんな、気のいいイヌを撃っちまったとは」

「しかし、まさかクリスマスの話だったとは…ツリーを見るまで忘れていた」

「まあ、奇跡の一夜といえばクリスマスだろうが…監督のOKが出るまでドーナツを食べ続けるのは大変だったぜ」

「それにしても、支給品の銃でドーナツを食べるとはカンシンしないのう。銃を汚したバツとして、減給じゃ」

「そんな!  自分はただ、台本通りにしただけですぜ!」

「シスおじいちゃん、許してあげて。ドーナツが好きな人に、悪いヒトはいないよ」

「ふむ。わかった。今回はカノン嬢に免じて許してやろう」

「まさか、自分が撃ったお嬢ちゃんにかばわれるとは…オレも落ちたもんだな。しかし、今回はそのご厚意に甘えておくとするぜ。ありがとう、カノンお嬢ちゃん」

「えへへ。どういたしまして…そうそう、ドーナツといえば。あのネズミちゃん、オモチャなのかな? ドーナツ追いかけてて、すっごくかわいかった! カノン、お友達になりたいな」

「ミス・カノン。あのネズミはドーナツ回収ボットだ。皿から落ちたドーナツを回収するようプログラムされているが、人工知能は搭載されていない。私とちがって、ただの自動装置だ」

「そうなんだ…ザンネンだね。あんなにカワイイのに」

「あ!  デンワがかかってきましたよ!(ワン!)」

「テンゴちゃん出て行ったね。あとはカノンがオルゴールを持って行くだけだね」

「…お嬢ちゃんにちゃんづけで呼ばれると、かなりフクザツな気分になるな。シセルもこんな気分だったのか」

「そうだな。ジョード一家の一員になって慣れたが。今では毎日、シセルちゃんと呼ばれている」

「おまえの心はもうとっくにオトナだろ…それでいいのか?」

「ああ。かまわない。体は子ネコだからな」

「ミサイル、置いて行かれちゃったね。あっちのミサイルはおルスバンでかわいそうだけど、こっちのミサイルはカノンと一緒に行こうね」
「ワンワン!」

「それじゃ、カノンとミサイルはもう行くね。みんな、またね」

「ワンワン!」

「うむ。ワシらもそろそろおいとましようかの。参謀、行くぞ」

「はい」

「よし、次は…管理人氏と、カバネラ警部に初めて会う章か」

「うん。あのヒト、普段からお調子者だから。すっごく自画自賛すると思うけど、許してあげてね」

「自己肯定感が高いのは、いいコトだと思うぜ」

 

第3章・第4章 カバネラ警部初登場~テンゴの狙撃阻止

「リンネ、久しぶりだ。女優デビューおめでとう」

「あ、マッコーさん。お久しぶりです。ありがとうございます」

「悪いけどな、リンネ。実は…リンネが本物の刑事じゃなくて安心してるんだ。リンネが本当に自分の部下だったら、心臓がいくつあっても足らないだろうな」

「ふむ。おそらく心労で片っぱしから高血圧になって不整脈を起こし、しまいには心筋梗塞を起こしてどれも使い物にならなくなるだろう。やはり、心労の元をなくすのが先決だ」

「うわっ!?  監察医のセンセイ、後ろにいたのか!  驚かさんでくださいよ」

「心臓を増やすなら、ついでに胃も増やしたほうがいい。ストレスで胃に穴を開ける患者もいる。予備はいくつあってもいい。刑事は特にストレスが多い生業だろう。なんなら、臓器培養業者を紹介しよう。今なら、民間企業でもかなり設備が整っている。価格もかなり下がってきたから、始めるなら今がいい」

「センセイ、お気持ちはありがたいんですが…本物の医者からマジメにアドバイスされると怖いんで、そのへんで…」

「やあやあみんな! 久しぶりだね、カバネラだよ!」

「アンタ、いちいちドアを蹴破らないと入ってこれないのか?」

「キミには言われたくないね、テンゴくん。リンネの部屋のドアを蹴破ったのはダレだったかな?」

「お久しぶりです、カバネラさん!  さすがですね、ご自分の初登場シーンに現れるなんて」

「いやあ、間に合ってよかったよ! 危うく、自分の初登場シーンを見損なうところだった…うん、やっぱり、スクリーンのなかでもボクはラヴリーだね!  あと、ボクの愛車も」

「愛車って、あの、赤い自転車のことですか?」

「そうだよ。あの自転車にはレッドスター号って名づけたんだ。撮影用だったんだけど、気に入ったんでね。あとで買い取ったんだよ」

「えらく気に入ったんだな。前カゴがなくて、買い出しにはフベンそうだが」

「そこがいいんじゃないか。レッドスター号は、純粋に移動するためのマシンなんだよ。買い出しなんて無粋な用事に使うわけがない」

「そんなもんですかね…で、このフシギな階段の降り方なんですが。これ、ホントにカバネラさんが躍ってるんですよね。初見では驚きましたが…いったい、ダレの案ですか?」

「最初はただ一段とばしで降りるって案だったんだけど。それじゃあ地味でツマラナイから、ボクがあの降り方を提案したんだよ。ラヴリーだろ?」

「いや…ラヴリーというより、フシギにしか見えませんが…」

「あれで足がからまらないなんて、さすがカバネラさんね…で、ようやく着地と。私は助かって、シセルの死体が調べられてるわけだけど…」

「まさか、この死体の回収が国家プロジェクトの一部だったとはな。知っていれば、カバネラの買収には応じなかっただろう。このせいでアシタールが行方不明になったと知られたら、シス司令に消される…知らないとは、怖ろしいことだ」

「シセルくんには『買収した』と言ったけど…センセは買収には応じてないよ。ボクに脅されたの、覚えてないかい?  センセ」

「…ああ、そうだったな。とりあえず、その場をしのいで、後でもう一度、死体を移動させると決めた」

「あ、やっぱり?  さすがにシスの命令をムシできるほどセンセは強くないよね。ということは、あの時はふたりの板挟みになってたワケだ…ごめんね、センセ」

「そこまで白々しいと、いっそ清々しいが…君はかなり性格が悪いな」

「それはよく言われるよ。センセ以外のヒトでもそう思うみたいでさ…ボク、そんなに性格悪いかな?」

「自分に聞かないでくださいよ。答えられるワケないでしょう」

「それが答えだよ、マッコー…おっと。銃声がしたね。ついに管理人役の監督が登場だ」

「久しぶりだな、諸君」

「やあ! カントクも久しぶりだね!」

「カントク、あのセリフはなんとかならなかったんで? あの、ゴミ野郎ってのは」

「ああ…あれは、ゴミ捨て場にかけたらああなった。言いやすかったからな」

「…それだけの理由でヒトをゴミ野郎よばわりしたんで?」

「テンゴ、それ、小道具だから。タマは入ってないわよ」

「実銃だったら、一発かましてるとこですぜ。くれぐれもお気をつけて」

「フィクションとゲンジツを混同しないでほしいのだが…これだから困るな。シロウトは」

「お言葉ですがね。演技は素人でも、銃の扱いはプロですぜ。現にちゃんとエモノに当たってる」

「え。でも、あれは最初、警察車両の上から撃ってるでしょ。かなり近いわよね」

「最初は確かにそうだが、4分前では左端から撃ってる。少しぐらい遠ざかっても、オレの腕なら当てられるぜ。あのコンテナさえ…ッ」

「テンゴ? どうしたの?」

「くそっ…まだ痛むぜ。いいかげんで治ってほしいんだがな」

「え。まさか、ホントに下敷きになったの⁉」

「さすがに、そんな指示は出していないが…立ち位置を指示したテープの位置が悪かったか」

「その点じゃあアンタは悪くないですぜ。右足の位置に左足を置いちまったオレが悪いんで。肩幅の分だけ立ち位置がズレて、右肩がコンテナにかすっちまって」

「なるほど。それであんなリアルな悲鳴が録れたわけか。映画監督としてはありがたいが…ドクター、その日の処置は?」

「応急処置ならした。病院で精密検査も受けさせた。手抜かりはないが…神経の問題だな」

「悪いんですがねカントク、今から労災を申請しても?」

「もちろん。今なら後遺症ということで、関係が認められるだろう。すまなかった」

「よかった。カントクさんにも『ごめんなさい』って気持ちはあるのね」

「もちろん。役者とスタッフの安全を確保するのも仕事のうちだ。これを教訓にして、テープには右足・左足と書くことにしよう」

「そうしたほうがいいですぜ。ホントに…それじゃ、オレは失礼しますぜ」

「ああ。私もこれで失礼しよう」

「はーい。また後でね!」

「あのセンセは意外とおしゃべりだったね。それで、次は…リンネが逃亡する章か」
「あの、カバネラさんは5章には登場しないんじゃ…」
「まあ、そうなんだけどね。6章にはまた登場するから、残ろうと思って。それにしてもリンネ、キミの不注意にはいつも振り回されるなあ。これだからベイビイちゃんは」
「ちょっと! その呼び方、やめてください!  私が不注意なのはジジツですけど!」
「ジジツならやめられないね。今後も役者を続けるんなら、そのケッテンをなおさないと。そのうちホントにケガするよ。さっきのテンゴくんみたいにね」
「ううう…気をつけます」

 

第5章 管理人室地下にて、シカケを止める

「それにしても再会が早すぎるのではないか?  作中時間だと20分しか経っていないが」

「私だって好きで死んでるわけじゃないんだから! それに、新記録を更新したんだからいいでしょ!  さすがに一晩で3回も死んだ人なんて、私の他にいないハズよ」

「リンネ…新記録を更新することにこだわらないでほしいな。キミは直属の部下じゃないとはいえ、同じ刑事課の仲間なんだ。ボクとしては、むやみと死んでほしくないね」

「自分も同感です。あの巡査は『自分が撃たれればよかった』と言ってますが。あこがれだの家族だの、印象が独り歩きしてますね」

「そのジッタイは、おテンバ少女といったところだな」

「もう! みんな、好き勝手なこと言って! これでも私、刑事なんですからね!」

「現職の刑事さんなら、あんなシカケでうっかり死なないでほしいものだ」

「う…その点はごめんなさい。まさか、あのシカケが動くとは思ってなくて…」

「カンリニン氏にも困ったものだ。あんな殺人マシーンを、わざわざ再現するとは」

「研究のためにはしかたない。再現しないとわからないこともある」

「それにしてもシセルくん、鮮やかなお手並みだね」

「ああ。この頃にはもう、アヤツルことに慣れていたからな。丸い物は弾き飛ばすのがコツだ」

「そんなコツを習得してるヒト、そういないと思うけど。ありがとう。助かったわ…次は、ジョードさんが初登場する章ね」

「ああ。お使いを頼まれたからな。やむなくケイムショとやらに行くことになった」

「それじゃあ、私はここで失礼しよう。ボーズ係官によろしくな」

「はい。また後で」

 

第6章  ジョード初登場、捜査本部のふたり

「お久しぶりです、みなさん」
「ボーズさん、お久しぶりです」
「ああ、あの、マジメなほうの係官さんか。テンテコの舞いはなかなかユカイだったな」
「実は、前々から気になってたんだケド…あれはホントに伝統的な踊りなのかい?」
「いいえ。『困りはてた時に踊るべし』と伝わっている舞いはありますが、振りつけはちがいます」
「へえ。やっぱり舞踏家の一族なんだね」
「まあ…しかし、わたくしは舞踏家にもダンサーにもなりませんでしたが」
「そうなんですか。どうしてですか?」
「恥ずかしいからですよ。わたくしは舞台に立つとキンチョーしてしまうのです。子供の頃は稽古をつけられていましたが、どうしても人前で踊れなくて…適性がないのであきらめました」
「あきらめなかったら、今頃はダンサーだったのか?」
「どうでしょうか。目立つのがキライな子供でしたから、芸事の道には進まなかったと思いますが」
「だったら、なんでまた映画に?」
「スタッフを募集していたので…映画づくりの現場を見られたら楽しいかと思いまして。まさか、出演依頼を受けるとは…」
「それで、どうだい?  出演してみた感想は」
「やはりキンチョーしましたよ。しかし、カバネラさんにドナられて、キンチョー感はふきとびましたが。まるで本当に脅されているようで怖かったです…」
「ボクは仕事でドナり慣れてるもんだから、つい…ゴメンね」
「いえいえ。俳優さんも大変でしょうから」
「いや、ボクの本業は俳優じゃ…」
「え?」
「…今のは忘れてくれるかな?」
「は、はい! ゼッタイにキオクに残しません!」
「カバネラさん、スクリーン外でまでヒトを脅さないでください」
「ははは。相変わらずコワイなあ、カバネラ警部さんは」
「やあ。久しぶりだね、ジョード。今ちょうど、キミの初登場シーンだよ」
「そうだな。我ながら、うまい筆さばきだ」
「そういえばジョード、キミはホントに絵が描けるのかい?」
「いいや。あれはカントクが用意してくれた絵さ」
「用意された絵は、あの一枚だけかい?」
「ああ。あの事件の関係者の絵を何枚か描いた…という設定だが、用意された絵はあれだけだ」
「そうか…ボクの絵も見てみたかったな」
「そう言うだろうと思ったが…ザンネンながら、オレに絵心はないんでね。悪いがあきらめてくれ」
「ホントにザンネンだよ」
「よし、ジョードの明日の予定を調べた。あとは、デンワ線まで戻って捜査本部へ行くだけ…」
「イエエエエ! ちょいとジャマするぜ!  オレはC38号!  この映画でメジャーデビューした、奇跡のロックシンガーだ! オレの芸名はスタッフロールでカクニンしてくれ!」
「相変わらずやかましいが…意外だな。アンタもオーディオコメンタリーに呼ばれていたのか」
「いや、呼ばれてないぜ!  でもよ、カンシャは伝えないといけないだろ!  オレの曲が採用されて、ついでに囚人役のオファーまで受けて!  おかげでウチのバンドのメジャーデビューが決まったぜ! 監督、サンキュー!」
「ちょっと、そのギターしまってくれるかな。ここだと近すぎてうるさいんでね」
「うるせェ! ロックってのは、大音量でハデにかますもんだぜ!  イエエエエエ!」
「マッコー。ボーズ係官といっしょに、彼をつまみだしてくれ」
「わかりました。それじゃボーズさん、左腕をお願いします。自分は右腕を…」
「承知しましたっ。さ、行きますよC38号」
「なに言ってんだ! オレはまだまだ歌い足りないぜ! 一曲終わるまでは出て行かないぜ!」
「よし、オレも手伝おう。腕っぷしには自信があるんだ。ロックシンガーくん、暴れるな」
「それじゃあリンネ、また後でな」
「はい。みなさん、また後で」
「すごいな…ボーズは穏やかな人物だが、すっかり、看守役が板についている」
「そりゃあそうさ。ボクに命令されて、役割を演じないヒトはいないよ」
「あの…カバネラさん。真顔で言われるとすごくコワイんですけど」
「どうやらホンキで言っているな…さて。ここで捜査本部のシーンになるわけだが」
「ああ。あの、ラヴリーな証拠だね。リンネがシセルくんを撃ったシーンが録画されている」
「まさか、あんなところにまで監視カメラがあるなんて。ジーゴは気づいてなかったのね」
「そのようだな…なんとも、マヌケな殺し屋だ。下調べが足りないな」
「…あら? カバネラさん、本部長さんはまだですか? 遅れてるみたいですけど」
「いや、彼はここには来ないよ」
「え? どうしてですか?」
「そもそもオーディオコメンタリーに呼ばれてないんだよ。どうせ大してコメントすることもないし」
「それはまたなんというか…ヒドイな」
「ああ。ボクもカワイソウだと思ったからカントクにかけあったんだケド…みんな、本部長のコメントよりも、ボクのカフェオレ解説のほうが聞きたいだろうってさ」
「カフェオレの解説?  あのピンク色のマグカップの中身は、カフェオレなんですか?」
「ああ。ボクにとっては世界一ラヴリーなドリンクだよ。ミルクは入れるけど砂糖は入れない…これが、ボクのコーヒーの飲み方でね」
「それで、あのドリンクはカフェオレになったということか」
「そういうコト。どうせならトマトスープがよかったんだケド…カントクが、スプーンは映したくないって言うからさ。次点でカフェオレになったワケ」
「そうなのか。てっきり、カフェオレボウルのほうが大きくて撮りやすいからかと」
「それもあるね。ただのマグカップだと、小さくて見えにくい。この映画は基本的にヒキで撮ってるから、小物は大きくないといけないんだ。リンネの赤いヘッドホンも、一回り大きく作られてる」
「へえ…そうだったんですか。ぜんぜん気づかなかったわ」
「…話してるうちにカバネラが出て行ったな」
「まさか、あのクラッシュでリンジューが死んでるとは思わなかったよ。そのうえ、リンネまで死んでるとはね。わかってたらポイントXに急行したのに…ホントに困ったベイビイちゃんだ。それじゃ、ふたりとも、また後で」
「はーい。また後で」
「…あの警部さんに言われるとなぜか、別れのアイサツが物騒なイミに聞こえるな」

 

第7章 キッチンチキン ふたりの刑事と工作員ペア

「さて、この章で登場するのは…」
「お久しぶりです! メメリです!」
「リンジューだ。久しぶりだな」
「久しぶり。ふたりとも、あの撮影でケガしてない? 大丈夫?」
「なんだ急に…まさか、ケガ人がいたのか?」
「ええ。あのコンテナのシーンでテンゴがケガしてて、まだ肩が痛むみたいで」
「それはお気の毒ですね…私は大丈夫。あの床にはマットがしかれてたから、頭を打ってもコブにはなってないですよ」
「オレも大丈夫だ。あそこに倒れてるのはオレじゃなくて人形だからな」
「そうなんですか。よかった…撮影後、ニクの下から這い出してもまだ倒れてたから。てっきり、ホントに気絶してるのかと」
「さすがにそんなことはない…まあ、あの監督なら『そこで倒れてろ』ぐらいの指示は出しそうだが。あそこは割れたガラスまみれで危険だから、あきらめたらしい」
「それは命拾いしたな」
「まったくだ。あきらめてくれてよかった」
「それにしてもリンネの食べっぷりはすごいな…みるみるうちにニクがなくなっていくぞ。これは本当に食べているのか?」
「もちろん!  撮りなおしになったら、同じぐらい『食べかけ』のニクをまた用意しないといけないから。メンドウだから、一回で成功させてくれって頼まれたシーンよ」
「あのカントクはホントに無茶ばかり言うな…」
「そういえば。ビューティーさんは小道具の『テントウムシを焼け』なんて無茶ぶりされてたけど…」
「お待たせしたわね。アタクシ、ビューティーよ」
「オレっち、ダンディーもいるゼ」
「あら。ちゃんとついてきてたのね、ボーヤ」
「相変わらずキツイなビューティー…まあ、そこがよかったんだろうナ」
「ふたりとも、お久しぶり! ビューティーさん、今日もキレイですね」
「当然でしょう。美しいアタクシが誘拐犯にキャスティングされたからこそ、アタクシの役名は『ビューティー』になったのよ」
「そうだったんですか。さすがはビューティーさんですね」
「そういえば、ダンディーさんの恋の行方は!?」
「メメリ、オーディオコメンタリーでそういう話をするのはどうかと…」
「だって気になるじゃないですか!」
「どこを気にしてるんだ…ダンディーくん、イヤなら答えなくていいからな。メメリはいつもこうなんだ。気になることがあると一直線で…申し訳ない」
「いや、べつにかまわないゼ。どうせもうすぐ案内が届くだろうからナ」
「案内って…もしかして、結婚式ですか!?」
「アタクシが結婚するのは事実だけど、相手はこのボーヤじゃないわよ」
「え!?」
「近々、披露宴の予定があるのは本当よ。でも、相手はダンディーじゃないの。シスよ」
「え、シスさんなんですか!?  意外ですね…見た感じ、かなりお年を召してるみたいですけど…お金持ちだから?」
「そんなことは重要じゃないのよ、お嬢ちゃん。アタクシはただ、凛々しくて美しい男を選んだだけ」
「これはまたなんというか…皮肉な結果だな」
「こら! シセル、傷口に塩を塗るようなこと言っちゃダメでしょ! ダンディーがカワイソウよ!」
「…あまり同情しないでほしいナ」
「そう落ち込まないでほしいわね、ボーヤ。家族になるのには変わりないでしょう」
「え?…あ、もしかしてシスさんは…」
「オレっちの親父サ。相手が実の父親でなけりゃ、あきらめられなかったかもしれないナ」
「うわ…すごい。なんか、メロドラマみたいですね」
「こら! メメリ、いいかげんでオーディオコメンタリーに戻れ」
「あっ。すみません。なんか、素で楽しんじゃって…」
「それでよく刑事が務まってるな…まったく。おまえが余計な話を始めたせいで、気がついたら公園から厨房のシーンになってるじゃないか」
「このコック、よく歌ってたよナ。スタジオのキッチンから、よくこの歌が聞こえてきたゼ」
「お気に入りの曲みたいね…勤務中に歌うなんて、呑気だこと」
「ホントにナ。こんな勤務態度、ウチの国じゃ犯罪サ」
「そうなんですか!?   厳しいお国なんですね」
「秩序に満ちてるのよ」
「統制がとれてると言ってほしいサ」

「うーん…異文化交流ってムズカシイですね」

「メメリ、悪いが静かにしててくれ…ちょっと怖くなってきた」

「…さて。問題はこの状況だが…意外とあっさり解決したな」
「シセルは私よりさらにマイペースね。さすが、正体はネコなだけあるわ…今は助かったけど。リンジューさんも」
「あの歌が聞こえてきた時は、メメリの目的がわからなくて戸惑ったな。まあ、おかげでオレの耳もイノチも助かったわけだが」
「ついでに、あのテントウムシも焼かれずに済んだわけね。はじめに焼いた時は、悲鳴をあげたけど」
「え、ビューティーさんが!?」
「いいえ。悲鳴をあげたのは、あのテントウムシよ。アツイだのタスケテだの。子供みたいにしゃべったの。耳障りで不快だったわ」
「え。まさかあのテントウムシ…」
「ええ。ナニカがツイてたんでしょうね。燃やす役がアタクシでよかったわ。悲鳴が聞こえなくなるまで、銀のライターできっちり焼いておいたから」
「あの、それって…」
「生焼けで逃がしてたら、他のモノにもツイてたでしょうね。テンゴの右肩の分、きっちりお返ししておいたわ」
「あれは、テンゴのミスではなかったのか」
「テンゴのミスはある…でも、それだけじゃないわ。アタクシ、見てたの。あのコンテナがひとりでに揺れて、テンゴにぶつかったのよ」
「それは、ダレかに報告したのか?」
「いいえ。非科学的だもの。それに、証明できないわ。だから、アタクシが信じる方法で対処したの」
「それはよかったが…このテントウムシの後で、何か異常は?」
「小道具の誤作動がいくつか。でも大丈夫よ、全部、アタクシが焼いておいたから」
「ビューティーさんには霊感があったのか…怖いことを聞いたが、心強いな…」
「たしか、ジョードも霊感があると言っていたな」
「そうそう、ジョードさんよ! リンジューさんから処刑時刻の変更を聞いて、驚いて。リンジューさんにはカノンを、シセルにはジョードさんのことをお願いしたの」
「そうだったな。カノンちゃんのことを頼まれた時は驚いた。こんな夜にひとりで出歩かせるのは危険なのに、なぜかオルゴールを持ってくるとか…」
「あのオルゴールのヒミツは、後の章で明らかになるワケね」
「それがわかってりゃ、あのオルゴールも回収するべきだったナ」
「本当ね。まあ、過ぎたことを言ってもしかたないわ。おいとまするわよ、ボーヤ」
「いいかげんでその呼び方はやめてほしいサ…それじゃ、また後でナ、リンネ」
「うん。また後でね」
「よし、それじゃ、オレとメメリも失礼しよう。行くぞ、メメリ」
「はーい! バーによっていきます?」
「いや、バーにはよらないが…もしかしてメメリ、あのバーテンダーのこと、本当に…」
「あ、聞きたいですか!?」
「いや、今はいい。それじゃ、また後で」
「はい。また後で」
「さてと。次の章は…」
「ジョードさんを脱獄させる章ね! シセル、がんばって!」
「わかった。なんとかしよう」

「私は法務大臣にジキソしてくるから! 執務室で会いましょう。それじゃあ、また後でね」
「ああ。また後で」

 

第8章・第9章 テンテコの舞いとジョードの脱獄

「さて。この章ではケイムショに戻って、ジョードを脱獄させるわけだが。他の出演者は…」
「お待たせしました。ボーズです。この後ですね…私のテンテコの舞いが見られるのは」
「ああ。ジョードの処刑に失敗して、停電した後だな」
「待たせたな、シセルくん。今回は世話になるな」
「ジョード…あのロックシンガー氏はどうしたんだ?」
「ロックシンガーくんは、カバネラに預けたよ。メンドウなモノはぶちこんでおくから、心配無用だとさ」
「とても物騒なイミに聞こえるが、深入りしないほうがよさそうだな…おとなしく、電気椅子のシーンを見守るか」
「この電気椅子はなぜ、レバーが手動なのでしょうか。もう少し間接的な方法ならば、執行人も良心のカシャクを感じずに済むでしょうに…」
「確かにな…どこかの国では今でも絞首刑があって、首吊り台のスイッチは3つあるらしい。そして、3人で同時にスイッチを押すんだそうだ。ダレのスイッチが作動したのか、わからなくするために」
「なるほど…執行人を増やすというのも、ひとつの手ですね。あのレバーもそうしてほしいところです」
「そもそも、死刑そのものを廃止したほうがいいと思うが…今ここでする話じゃないな」
「ええ。執行命令書は絶対ですからね。めったなことでは取り消されません」
「つまりリンネは、キセキを起こしに行ったんだな…あちらは、リンネに任せよう」
「それにしてもシセルくんのコメントは何度聞いても笑えるな。キオクをなくすのも悪くない」
「なにぶん、処刑の正解を知らなかったものでね…今回、あの電気椅子は目的を果たしたわけだが」
「まさか、ショートした後にバクハツするとは…看守が死ななかったのはキセキですね」
「ああ。オレ以外のニンゲンが死ななくてよかった。そうなったらシセルくんの救助対象が増えてしまっただろう。なにせこの黒ネコくんは、自分の目の前では『ダレも死なせない』らしいからな」
「ああ。今夜、私の目の前では何人たりとも死なせるつもりはない」
「実を言うと私…ほっとしてるんです。アナタの処刑失敗も、脱獄されたことも…ワレワレの手落ちとして、責任を取るべきですが…失敗してよかったと思います」
「そうかい? いくら特別刑務所とはいえ…いや、だからこそ。厳罰モノだろう?」
「それはそうです。この世界がこのまま続いていれば、全員がクビになっていたでしょう。しかし、その未来はなくなりました。処刑は取り消され、ジョードさんは蘇って…ワレワレのクビもつながったのです。ありがとうございました、シセルさん」
「自分が不利になることが起きたのにカンシャするとは…なんというかアンタは…とても善良だな」
「後輩がヒトゴロシにならずに済んだことにも、カンシャしているんです。看守の仕事はヒトゴロシではありません。受刑者を保護して…いつか、社会へ帰すことが本来のシゴトです」
「なるほどな。つまり、処刑は業務外だと言いたいワケか」
「いえ、そんなことは…あるかもしれませんね」
「さて。私の妨害によって、このケイムショは停電したわけだが」
「ここでついに、私のテンテコの舞いですね!」
「ああ。何度見てもユカイだが…これは疲れたんじゃないかい?」
「ええ。カメラが回っている間はずっと踊っていないといけなかったので…かなり疲れました」
「やっぱりな。オレのために、すまんな」
「いえ。私はキンチョーしやすい性格なので…実を言うとこの舞いは、しょっちゅう踊っておりまして。後輩たちには飽きられつつあります」
「そうだったのか…伝統的な踊りに飽きるとは、バチアタリだな」
「バチアタリ? 知らないコトバですが…どういう意味ですか?」
「ああ。これは外国のコトバでね。『あまり良くない』という意味らしい」
「ほほう。それはいいことを聞きました。今度、後輩にも教えてあげましょう」
「それにしても、この武装看守は…何度でも穴に落ちるな」
「一度落ちた穴の位置は覚えておくべきですが…あの高さから落ちて、よく無傷でいられるものです」
「あの看守役、起きあがる動作は機敏だなあ。さすが、あの監督が手配したスタントマンだ」
「そして、私たちはその看守の目をかいくぐって脱獄したワケだ」
「まさか、床下で転がるはめになるとはなあ」
「他に安全なルートが思いつかなかったから、ああなったわけだが…なかなかユカイだった」
「言ってくれるなあ。まあ、キミの提案に従うと決めたのはオレだが…次は、月の中庭だな」
「お待たせしたね。再びのボク、カバネラだよ! いやあ、このシーンは何度見ても美しいね…親友に銃をむけるのは好きじゃないケド」
「こんな状況が好きな奴はいないさ…美しいってのは、あの満月のことか?」
「いや、ボクがさ。このシーンでは、送風機が使われていてね。ボクのコートとマフラーに動きがつけられてるんだ。あの一瞬のひるがえりをとらえるなんて…さすがだね、カントク」
「そうだな。さっきの、カバネラが時計を投げるシーンはかなり評判がいいらしいからな。こういうシーンが、カメラマンの腕の見せどころなワケだ」
「ターゲットに発信機を撃ちこむ前に、キミに受信機を渡したわけだケド…キミが生き残るルートに賭けてよかったよ、ジョード。我ながら、分の悪い賭けだったケドね」
「あの金時計の正体は受信機だったわけだが…オレが処刑されたら、あれを持って潜水艦に乗り込むつもりだったのか?」
「もちろんさ。彼が現れなければね…さすがのボクでも、殺されたら追いかけられない」
「当然だな…死んでなお、ハンニンを追跡できた私が例外なんだ」
「だからこそ、オレたちはデンワ線をつないだんだ。ずっと先の章の話だが」
「…これで、この章は終わりだな。次は、法務大臣の執務室か」
「オレたちはここで失礼しよう。リンネと大臣によろしくな」
「また会えるかどうかは、リンネのジキソの結果しだいだが…」
「なあに。リンネならうまくやるさ。それじゃ、また後で」
「ああ。また後で」

 

第10章 法務大臣の救助と誘拐犯のデンワ

「さて。この章ではリンネに再会するわけだが…」
「お待たせ! なんか、すごく久しぶりにシセルに会った気がするわ」
「ああ。私もだ。思えば、リンネがまったく登場しない章は珍しいからな。それで、法務大臣氏は?」
「お二人とも、お久しぶりです。私、法務大臣です」
「久しぶりだな、法務大臣氏。また会えてよかった…ひとつ、聞きたいことがあるのだが」
「はい。なんでしょう?」
「あの時は聞きそびれたのだが…アンタ、名前はなんという?」
「そういえば。アナタは命の恩人なのに、名乗っていませんでしたね。失礼しました。おわびに、私の名をお教えしましょう。私の名はヒガン*1と申します」
「そうか。これで家族全員の名前がわかったな。あの一家でアンタの名前だけ不明なのがずっと気になっていたんだ。これですっきりした。ありがとう」
「こちらこそ。あの時は、ありがとうございました。あの時の私は自己卑下が行き過ぎていて、名乗るほどの者ではないと思い込んでいたのです。大変失礼しました」
「大臣さん、ヒガンさんていうんですね。ということは、普段はヒガン大臣って呼ばれてるんですか?」
「いいえ。この国では、大臣は役職名で呼ばれます。できるなら、ここでもそうしていただきたい」
「え、名前で呼ばれたくないんですか? どうして?」
「深い意味はありません。個人的な問題です。名前で呼ばれると、まるで妻のエンマがこの場にいるようで、落ち着かないのです」
「なるほど。エイミンちゃんはパパって呼ぶから、大臣さんを名前で呼ぶのは奥さんだけなんですね」
「その通り。ですから、私の名を知ったからといって、むやみに呼ばないでいただきたい」
「はーい。わかりました。法務大臣さん…ちょっと長くて呼びにくいですけど」
「さて。大臣の名前がわかったところで…まずは、水を飲ませて延命しないといけないわけだが」
「相変わらずそそっかしいオトコです」
「ちなみに法務大臣さん、普段はどうなんですか? やっぱり、私生活でもそそっかしいのかしら」
「さすがにこのオトコほどそそっかしくはありません。このオトコは心労を貯めるあまり、いつもよりもさらに不注意になっておるのです。何度見ても、なんとコッケイなことか…」
「よし。水を飲ませるのに成功したぞ。次は薬ビンを追いかけよう」
「手間をかけさせて申し訳ない…そもそも、アナタを夢あつかいしたのがよくなかった」
「これだけ異常なことが起き続けていれば、夢だと思って当然だろう」
「そうそう。さっきから、鎧の腕が上がったり下がったりしてるし。丸いモノはみんな転がされてるし。あの窓のまわり…怪しいことばかり起こってるわ」
「ああ。こうして見ると確かに不気味だ。アヤツル者の正体が死者の魂なのもナットクだな」
「私がすべてのモノから距離を取った理由がこれなのです…わかっていただけただろうか」
「しかし、今回は遠ざかりすぎて手間がかかった。薬ビンは手元に置いておいてほしいものだ」
「私が薬ビンを遠ざけたのではありません。薬ビンが私から遠ざかったのです」
「うわ、すごく大臣っぽい答え!」
「ああ。いかにも政治家のキベンといった感じだな。反省の色が見られない…もう一度、机から薬ビンを弾き飛ばすか」
「もう、シセルったら。それじゃまるで悪役よ」
「まことに申し訳ない…私は静かにしていましょう」
「それは無理だろう。アンタは助かったが…そろそろ、誘拐犯からデンワがかかってくる」
「お待たせしたわね。ビューティーよ」
ダンディーだゼ」
「いやはや、まさか、誘拐犯がこんなに美しいご婦人だったとは…驚きですな」
「デンワではアタクシのカオが見えないものね」
「このカオで脅されると、ますますコワイからナ。デンワでよかったサ」
「ビューティーさん、カノンちゃんは?」
「まだ登場しないでしょ。次の章まで、パパのところにいるわよ」
「よかった…このスタジオ広いから、カノンちゃん迷子になったのかと…」
「オレっちが迷子になりそうだったサ。危うく、ビューティーを見失うところだったナ」
「そうなんだ。まあ、ここ、やたら部屋数が多いから。無理もないわね」
「そろそろ、デンワが終わるな…あとは、私が誘拐犯のアジトに行けばいいのか」
「そういうことですね…それでは私は、いったん失礼しましょう」
「はい。法務大臣さん、また後で」

 

第11章  誘拐犯のアジトと救出失敗

「デンワ線で移動されちゃ、妨害しようがないナ…アンタを敵に回して、勝てる組織はないサ」
「だからこそ、アタクシがアサインされているの。アヤツル者の気配が感じられるからよ」
「次に気配を感じたら、小さなレディのイノチはないと脅されたな…アンタに再会しなくてよかった」
「それじゃあ、ダンディーの能力は?」
「見ればわかるでしょう?  ミスをして隙をつくることよ。カンペキな人間2人じゃ、アナタたちでは太刀打ちできないでしょう」
「なるほど…作中世界の問題ではなく、フィクションの必然ということか」
「そういうことね…ダンディーはきっと、親戚のコネであの組織に入ったんでしょう。そう考えないとつじつまが合わないもの。構成員にしては間抜けすぎるわ」
「良心的と言ってほしいナ…お嬢ちゃんが『死んだ』時には、報告が遅れちまったけどサ」
「それにしてもトランクを開け忘れるとはな…そろそろ、小さなレディが来る頃だ」
「はーい! みんな、カノンだよ!  ダンディーおじちゃんたち、久しぶり!」
「カノンお嬢ちゃん。元気そうで安心したサ」
「相変わらずね…元気ハツラツなのはいいけど、迷子にならないように気をつけなさい。このスタジオは、お部屋が多いの。廊下を曲がる前に、必ず案内板を読むのよ。わかった?」
「うん。わかってるよビューティーちゃん。カノン、ちゃんと案内板読んできたよ」
「…私のことは『ビューティーお姉さん』と呼びなさい。わかった?」
「はーい。ビューティーお姉さん」
「まったくこの子ったら…ダレでも『ちゃん』付けで呼ぶんだから。困った子だこと」
「そういえば。さっきはテンゴを『テンゴちゃん』と呼んでいたな」
「テンゴはおじちゃん呼ばわりされてないんだナ…」
「ボーヤが猫背なのが悪いのよ。実年齢より老けて見えるのはそのせいね」
ダンディーおじちゃんは、おじちゃんじゃないの?」
「いや、おじちゃんで充分サ。怖がられてなければナ」
「怖がられるほどの迫力は出せないでしょ。怖がれと言ってもムリよ」
「…ずいぶん話が脱線してきたけど。この章でやっと、カノンちゃんがジョードさんの娘だってことがわかるのね。この部屋で何が起きたのかも」
「まさか、ヒトチガイしてたとは思わなかったサ」
「おまけにジョード刑事の処刑が遅れて、潜水艦まで連れて行くことになるとはね」
「そういえば。小さなレディをトランクに押しこんでいったが…どうやって潜水艦まで運んだ?」
「アタクシの車に積んで港まで行ったのよ。ボーヤのバイクはスクラップになったから」
「追手を振り切れただけでも、ほめてほしいサ。おまけにお嬢ちゃんは落とさなかったゼ」
「あたりまえのことでほめられようとするんじゃないの。子供じゃないんだから」
「いつもキツイなビューティー…さすが、親父に選ばれただけあるサ」
「もしかして…ビューティーお姉さん、ダンディーおじちゃんのことキライなの?」
「そんなことはないわ。このボーヤはアタクシに嫌われるほど強くないもの。アタクシ、自分より弱いニンゲンは嫌いにならないの」
「…」
「あの、ビューティーさん。ダンディーが悲しそうだから、そろそろ…」
「そう。やっと静かになったわね」
「完全に悪役のセリフだな。この場に死体がないのがフシギなぐらいだ」
「そういえば。この章って、珍しく救助活動がないのよね」
「むやみと死人が出るのも考えものだからな。たまには、平和な章があってもいいだろう」
「…ユーカイってヘイワなの?」
「いいえ。ちっとも平和じゃないわよ、お嬢ちゃん。シセルは、死人を見すぎて感覚がマヒしてるの。影響されちゃダメよ」
「やっぱりそうなんだ…シセルちゃん、ぜんぶ終わったら、ヘイワの感覚を思い出してね。カノンのおうちの子になったら、ずっとヘイワだからね」
「わかった…努力する」
「あ、カノンちゃんがトランクに押しこまれたわ」
「ここでダレかさんに警告して終わりね。アタクシがカメラのほうを向くのはこのシーンだけだから、ありがたく観なさい」
「すごい…ビューティーさん、自分の美しさに絶対の自信があるのね」
「ビューティーお姉さん、かっこいいね!  カノン、ビューティーお姉さんみたいになりたいな」
「そう言ってもらえるのは嬉しいわ。でも、そのためには並々ならぬ努力が必要よ。覚悟なさい」
「カクゴ? うーん…カノン、よくわかんない」
「今はまだそれでいいのよ…それじゃ。そろそろ、おいとましましょうか」
「待ってくれ。まだききたいことがある」
「あら、何かしら?」
「シスが潜水艦から脱出した時、どこにいたんだ?  カノンがあそこにいたということは、アンタらもあの船にいたはずだが」
「簡単なことよ。もう一機の脱出ポッドを使ったの。このアタクシが、したっぱたちと一緒にあんな狭いポッドに押しこまれるワケないでしょう」
「オレっちにも声をかけてくれてよかったサ。おかげで、国に帰るまでふたりきりだったからナ」
ジーゴとテンゴを回収する前だったのか」
「あたりまえでしょう。最初から捨てると決めている船に、わざわざ乗せないわ。あのふたりは、生かしておく価値があると思われたのよ。アタクシたちとちがってね」
「…え?」
「忘れたの?  潜水艦を捨てることは、直前に知らされたのよ。危うく置き去りにされるところだったわ」
「ああ…そういえば、そうだったナ。あれはさすがにショックだったサ」
「参謀を置き去りにしたことといい、なんとも冷酷な司令官だな」
「シスが特別に非情なわけじゃないわ。司令官は、みんなあんなものよ」
「軍部じゃ、非情な奴しか出世しないからナ。だからオレっちはいつまでもしたっぱなのサ」
「なるほど、ナットクだな…ききたいことはこれだけだ。ひきとめて悪かったな」
「それじゃあ、アタクシたちはこれでおいとまするわ。行くわよボーヤ」
「ああ。オレっちが、カノンお嬢ちゃんをお送りするサ」
「カノン、ひとりでパパのところに戻れるよ?」
「ダメよお嬢ちゃん。オトナのいうことを聞きなさい。ひとりだと迷子になるから。ダンディーと一緒に、アタクシについていらっしゃい」
「はーい。それじゃあリンネお姉ちゃん、シセルちゃんも。また後でね」
「ああ。また後で」

 

第12章 苦悩する法務大臣

「この章で執務室に戻ったわけだが…法務大臣氏は?」
「お待たせしました。誘拐犯たちは退出したようですね」
「よかった。法務大臣氏はちゃんと生きているな」
「もちろんですとも。せっかく救われたイノチを粗末にする気はありません。しかし、苦悩のタネは尽きない…たとえ私のムスメがブジでも、人質がいる以上、死刑を中止するわけには…」
「そこをなんとか! お願いします!」
「しかし、そもそもエイミンのブジを確かめないことには…」
「…ということで、私がマダムの部屋に行くことになるわけだが、その前に…」
「お待たせしたね、カバネラだよ! ジョードは後から来るからね。ご心配なく、法務大臣殿」
「カバネラさん。なんか、久しぶりな気がしますね」
「リンネとは第6章の終わりで別れたからね。同じ章に登場するのは実に6章ぶりさ」
「道理で…なんか久しぶりな気がしたわけね」
「それで、ここからはボクのドクダン場になるわけだね!」
「ドクダン場と言うほど長いシーンではないが…相変わらず柔軟がすごいな。どうやらカバネラ警部はカラダが柔らかいらしい」
「そうそう。台本には『大臣におじぎする』としか書かれてなかったから、ボクがアレンジしたんだよ。思いっきり腰を入れておじぎしたら、ああなったワケ」
「あまりにも深々とおじぎされたので、困惑しました。あれはもはや、おじぎではない…ひざまずいているではないですか!  まるで部下のようにふるまうのはやめていただきたい!」
「アッハッハッハ。ごめんごめん。カメラの前に立つとつい、興が乗ってね。悪ノリしてるって言われることもあったけど、カントクはほめてくれたよ。確かにオーバーアクションだけど、これぐらいでちょうどいいって」
「これでちょうどいいのか…全身をヒキで映すという前提のせいだな」
「そういうコト。この映画はアップのシーンが少ないから、動く時はオーバーアクションじゃないとね。大げさに見えるぐらいが、ちょうどいいんだよ。さっきだって、違和感はなかった」
「ヒキで見てもやりすぎな気がするが…まあいい。問題は、ジョードの処遇だ」
「お待たせしたな。ジョードだ。まさか親友に連行されるとはなあ」
「時間稼ぎだよ。それに、自分の死刑執行書にサインした人物のカオを確かめるのも悪くないだろ?」
「相変わらず性格が悪いな…役柄じゃなくて素なんじゃないか?」
「私は、すきこのんでサインしたわけでは…しかし、今となってはもう…っ」
「大臣さん!?  お薬は持ってますか!?」
「ええ…ダイジョウブです。ご心配かけて申し訳ない」
「もしかして、本当に持病があるんですか?」
「いいえ。私には、あのオトコとちがって持病はありません。ただ…法務大臣の役柄は、常に苦悩しているもので…あの頃の心情を思い出すと、心臓が…」
「オーディオコメンタリーでは、役と自分との区別はあいまいにしろと言われているからな。大臣氏の苦悩が続くのもムリはないが…ここからは回想シーンだな」
「ああ。あの、公園の事件についてだ」
「ジョードはマジメだね。彼を貫いたのは隕石なのに…まるで、自分が撃ったみたいに言うじゃないか」
「あの隕石が降ってこなければ、オレが撃っていた。オレが殺したも同然だ。だから…報いを受けるべきだと思っていた」
「しかし、後の章で判明するわけだ…ハンニンが『生きていた』ことが」
「アヤツル者のチカラの源が、隕石だとは思いもしませんでした。そのうえ、被弾した者のイノチがなくなっても、そのチカラが有効だとは…」
「もしかすると、ヨミエルの他にもアヤツル者が発生していたのかもしれないね。ボクたちが知らないだけで」
「そんな、まさか…では、あのゾンビのような者が、他にも…っ」
「ちょっと、カバネラさん! 大臣さんを追い詰めるようなコト、言わないでください!」
「大臣を責めるつもりはなかったんだケド…まあ、頭が痛くなる案件なのはマチガイないね。それで…キミは、マダムの部屋にむかわなくていいのかい?」
「そうだな…そろそろ、マダムの部屋にむかうとしようか。ここで大臣氏を眺めていてもしかたないからな…悪いがリンネ、大臣氏の様子を見ていてくれ」
「わかったわ。大臣さんの体調が悪くなったら、スタジオの医務室に連絡する」
「ああ。頼む。私はデンワ線で移動させてもらおう。目指すはあの、赤い部屋だ」

「リンネ、大臣氏とふたりきりでダイジョウブかい? なんならオレも残ろうか」
「いえ、ダイジョウブです」
「そうかい。それじゃ、オレはいったん失礼しよう」
「あの公園のシーンが終わるまで、ボクの出番はないな…ボクも失礼しよう。リンネ、頼んだよ」
「はい。また後で」

 

第13章 家出親子の赤い部屋

「さて。例の部屋に着いたわけだが。ここで会うのは…」
「お久しぶりね…エンマよ」
「エイミンだよ。久しぶりだねシセルさん」
「ああ。ふたりとも、久しぶりだ」
「第2章にも登場しているのに、監督は私たちに出番をくださらなかったわ。意地の悪いカントクさんにカンパイ、ね」
「それはしかたないと思うよ、ママ。だってこの部屋、他のところに行くのに通っただけだし」
「コメントできるほど長い登場シーンは、この章だと思ったんだろう。カントクは意地悪をしたかったわけではないと思うが」
「そう願いたいものね」
「もう。ママったら。いつもヒトのこと悪く言うんだから。あたしが青いヒトたちと話すのも嫌がるし。ヒトのこと悪く思うのはよくないよ」
「あらあら。私たちの天使ちゃんは、ママをヒハンできるぐらい賢くなったのね。成長した天使ちゃんに乾杯しましょう」
「もう。カンパイはいいから、ちゃんとコメントしてよ。ほら、パパからデンワがかかってきたよ」
「エンマ! なぜエイミンをデンワに出さなかった!?  ワシは、エイミンが風邪をひいたことすら知らなかった!」
「大臣氏、意外と持ち直しているな。ムスメのことがそんなに大切なのか」
「当然だ!  エンマもエイミンも、ワシのイノチよりはるかに大切だ!  だからこそ、ワシは怒っているのだ!」
「ずっと苦悩していた大臣氏が怒るとは…相当だな」
「パパ。これ、オーディオコメンタリーだから。あたしが風邪ひいてたのは、演技だよ。今は元気だからダイジョウブだよ」
「そ、そうか…今は元気なのだな。よかった…本当に、よかった」
「ひとつ申し訳ないのは、これからマダムをシャンデリアに吊るさないといけないことだ。マダムに動かれると、エイミンがデンワをかけられないからな」
「なんだと!?  まさか、あのデンワの向こうでそんなコトが…アナタが恩人でなければ厳罰モノだ!」
「しかたないだろう。これも、アンタら家族が仲直りするためだ」
「これを機にダイエット…と言いたいところだけど。円熟した女性を演じるためには、この体形が必要なの。このカットウにカンパイ、ね」
「エンマ!  エイミンの前で酒を飲むな!  そもそもなぜ、シッピツ中にワインを飲んでいる!?」
「小説を書くのに必要だからよ。酔っているほうが良いモノが書けるの」
「イイワケなぞ聞きたくない!  今すぐやめろ!」
「パパ。これ、録画だから。それに、現実のママはあたしの前でお酒飲まないよ」
「そうか…だったらいいんだ。エンマ、ドナって悪かった」
「わかってくれればいいのよ、アナタ。それに、私も悪かったわ」
「いいや…キミは悪くない。ワシのマチガイを正そうとしただけだ。あの時…あの違和感を抑え込まず、警察に相談していれば…ううっ」
「あらあら。相変わらずストレスに弱いのね、アナタ。心臓の弱い大臣サマにカンパイ、ね」
「パパ、ダイジョウブ? お薬飲んだほうがいいよ」
「エイミン…気遣ってくれるのは嬉しい。しかし、今パパが持っているのは、気つけ薬なんだ。持病のないニンゲンに、心臓の薬は処方されないんだよ」
「そうなんだ…オトナって、ムズカシイんだね」
「ああ…体調管理もシゴトのうちだ。パパはダイジョウブだから、安心しなさい」
「いつの間にかナカヨシになっている…これが、家族というものなのか。いいものを見せてもらったな…ネズミ氏には申し訳なかったが」
「あのネズミはダイジョウブだと思うよ、シセルさん。だってあのネズミ、ロボットらしいから。しっぽが燃えちゃうから、本物のネズミは使えなかったんだって」
「そうなのか…言われてみれば当然だが」
「あ、今度はあたしがデンワしてるね。プレゼント、ライターにしといてよかった」
「ワシの誕生日を覚えていてくれるとは…さすが、ワシらの天使だ」
「あたりまえでしょ。だって、パパのお誕生日、ホリデーとおんなじ日なんだもん。忘れるワケないよ」
「だからこそ、ワシはとてもうれしい。子供の頃からずっと、ワシの誕生日はホリデーと一緒くたにされていたのだ。プレゼントもケーキも、他の子より1回少なくて…いつも、悲しい思いをしていた」
「そうだったんだ…パパにも、コドモの時があったんだね」
「ああ。ワシだけではない。ママにも、他のオトナにも。みんな、子供時代がある。そして、シアワセな子供だけが、シアワセなオトナになれるんだ。だからワシは、エイミンにはシアワセでいてほしい」
「パパとママは?  今、シアワセじゃないの?」
「もちろんシアワセだとも。エイミンが元気でいてくれさえすれば」
「ここだけ見ていると、大臣氏の苦悩が続くとは思えないな…そうだ、ひとつききたいことがある」
「なんだろうか?」
「なぜ、誕生日プレゼントがライターなんだ?  アンタ、心臓が弱いくせにタバコを吸うのか?」
「そういえば、その設定を忘れていましたね…そうです。あのオトコは、タバコを吸うのです。しかし、私自身は吸いません。大臣が喫煙者なのは、あくまでも設定上のことです」
「なるほど…つまり、あの誕生日プレゼントがライターなのは、棚のヒモを燃やすためだということか」
「そういうことです。あの夜、エイミンがライターを買っていなければ、あの部屋にライターはなかった。ライターがなければ、エイミンはデンワをかけられなかった…」
「すべては、必然だということか」
「その通り。必然のみで構成されているのがフィクションというものです。つまり、この世界がハッピーエンドを迎えるのも、必然なのです…ワシが、大切な家族と仲直りすることも」
「大臣氏のカオのシワが減ったな…苦悩が軽減されたようだ。それでは、執務室に戻るとしようか」
「そう。それじゃあ、また後でね、アナタ」
「また後でね、パパ」
「ああ。また後でな。エイミンはママのそばにいなさい」
「はーい。それじゃあママ、行こっか」
「ええ。ママにしっかりついてきなさい。さすがのママも、迷子にはカンパイできないわ」
「うん。わかってるよ、ママ…シセルさんも、また後でね」
「ああ。また後で」

 

第14章  公園の死者と誘拐事件


「ここで執務室に戻ったわけだが。後は、リンネからの連絡を待つばかりだな」
「おかえりシセル。私は今、公園にいるわ。あのオルゴールを回収したかったんだけど…」
「ワレワレがアヤツル者について話しているうちに、公園の死者を発見したわけですね」
「ええ。でも…なぜか、オルゴールがみつからなくて。とりあえず、シセルにはこっちに来てもらわないと」
「そうだな…ちょうど、リンネからデンワがかかってきた。私は公園に移動しよう」
「では、私はいったん退出いたします。あの青年によろしく」
「はい。また後で」
「よし、公園に移動したぞ。コックとリンネをみつけたが…また、新たな死体だな」
「ヒトを死体呼ばわりしないでほしいですね! ワレの名はダビラです!」
「そして、ボクはミサイルです!(ワンワン!)」
「ミサイル、よく待ってたね。エライわ。ダビラも久しぶり。相変わらず薄着だけど、元気そうね」
「もちろん! ワレは元から寒さに強いのです。この時も冬でしたが、ワレはハダシです!」
「そういえば…半袖だとは思ってけど、よく見たらハダシね…寒くないの?」
「寒さなど問題になりません!  あの、ユーカイ事件に比べれば!」
「ああ…小さなレディがヒトチガイでさらわれた件だな」
「お待たせ! カノンだよ!」
「オレっち、ダンディーもいるゼ。お嬢ちゃんには悪いことしたナ」
「ボクは死んじゃいましたけど!(ワンワン!)」
「ああ…まさか、こんな気のいいイヌをひき殺してるとは思いもしなかったサ。悪かったナ」
「…ニンゲンも、ハンセイするんですね。ボク、知らなかったです」
「ニンゲンだってハンセイするサ。叱られなくてもナ。一度くらいバイクを止めるべきだったサ」
「エイミンをさらうために急いでいたんだろう。指定の時間を過ぎたら、公園で捕まえられないからな」
「そうサ。時間が迫ってて焦ってたからナ…変な感触はあったのに、止まるヒマがなかったのサ」
「それで、映画のミサイルは死んじゃったんだね…あれが映画でよかったね、ミサイル」
「ホントにそう思います!  ボク、今日もみなさんとご一緒できてうれしいです!(ワンワン!)」
「まさか、ミサイルがアヤツル者になるとは思いもしなかった。ましてや、協力することになるとはな」
「どうせなら、オレっちとお嬢ちゃんの位置をトリカエてほしかったサ」
「それでも、誘拐に失敗することには変わりないが…」
「お嬢ちゃんが死ぬよりはよかったはずサ。どうせオレっちは余剰人員だからナ…いなくなっても、どうってことないサ」
「相変わらずレディーファーストだな…しかし、カノンが死ななければ、ミサイルはがんばらなかっただろう」
「そうですね。ボク、リンネ様とカノン様いがいのヒトだと、あんまりがんばれないです(ワン!)」
「だったら、ワレのためにがんばってくれたのはキセキということですね!  そのご厚意、ありがたく受けましょうとも!」
「よくワカラナイですけど…自分のかわりに他のヒトが死んじゃったら、カノン様が悲しむと思って…」
「そっか…カノンのために、ダビラちゃんを助けてくれたんだね。ミサイル、ありがとう」
「どういたしまして! リンネ様とカノン様のためなら、いくらでも人助けします!(ワンワン!)」
「あ、カノンがトランクに押しこまれたわ。これで、ふたりは退場するわけだけど…せっかくだから、ダビラの救出劇でも見ていく?」
「確かに気になるナ。結局、オレっちがアヤツル者のチカラを見る機会はなかったからナ」
「カノンは、リンネお姉ちゃんのお部屋でちょっと見たけど…あれ、シセルちゃんのチカラだったんだね」
「ああ。あの時は、ドーナツを無駄にして悪かったな。ネズミ氏のエサにしてしまった」
「シセルちゃん、謝らなくていいよ。きっと、映画のネズミちゃんはお腹いっぱいになったから」
「そう言ってもらえるとありがたいな…では、ダビラの足止めを始めようか」
「アンタ、せっかく足が速いのに、なぜか遊具で回ってる時間が長いナ」
「回るモノを見れば回す…それがワレワレ、ニンゲンのサガではないでしょうか!」
「いわれてみればそうかも。私も、回せるモノは回してみたくなるから」
「キケンな習性だな…まあ、今回はその習性を利用したわけだが」
「ワレが景気よく回っていますね!」
「あ、ビラが飛んでシセルさんの足場になりましたよ!」
「ああ。これで木の上に行ける。あとは傘を開いてラグビーボールを乗せれば…」
「トリカエ成功です!(ワンワン!)」
「なるほどナ…アンタのチカラは、外だと意外と自然に見えるモノなんだナ」
「シセルちゃん、すごいね!」
「ホントにすごいわ。その場にあるモノだけで助けちゃうなんて…しかも、たった4分で」
「これ以上前には戻れないからな。限られた時間で最善を尽くしているだけだ」
「その最善が神のタッチダウンならば…甘んじてお受けしましょうとも!」
「あとは、ダビラからリンネにオルゴールを渡してもらって終わりだな」
「いいものを見せてもらったナ…それじゃ、オレっちはミサイルとカノンお嬢ちゃんを送っていくサ」
「よろしくね、ダンディーおじちゃん。ミサイル、おいで」
「はい!  ボク、どこまでもカノン様についていきますとも!(ワンワン!)」
「それじゃ、リンネお姉ちゃん、また後でね」
「うん。また後でね」
「さて。ワレはオルゴールをお渡ししたわけですが…まさか、あの時のお嬢さんに再会しようとは! これこそ、キセキというものでしょう!」
「ホントね。私も、まさかあの事件の目撃者がいるとは思わなかったわ」
「ダビラ氏、意外と重要なキャラクターだったな」
「そうですとも! ワレもビックリでした!」
「これで、この公園で10年前に何が起きたのかわかったが…問題は、ジョード刑事の家で5年前に起きた『殺人事件』のほうだな」
「ええ。このオルゴールに証拠品が入ってるわ。ダビラ、届けてくれてありがとう」
「いえいえ。ワレも、お嬢さんにまたお会いできてうれしかったですよ!」
「私は『会えてうれしい』とは言ってないんだけど…まあいいわ。これでジョードさんの無実を証明できるはずだから。シセル、先に戻ってて。執務室で合流しましょう」
「わかった。これで、あの大臣氏の気が変わればいいが…」
「もう! それをふたりでなんとかするんでしょ!」
「なりゆきで相棒あつかいされているな…」
「それでは! 名残おしいですが、ワレも失礼します! おふたりとも、ごきげんよう!」
「ああ。エンドロールでまた呼ぶから、忘れるなよ」
「そうでしたね! それではご両人、また後ほど!」
「ええ。また後でね」

 

第15章 悪の使者と管理人


「さて。私とリンネは執務室に戻ったわけだが」
「おふたりとも、おかえりなさい」
「あ、大臣さん。ジョードさんと、カバネラさんも。待っててくれたんですね」
「この章に出番があるのはわかってるからね」
「それでリンネ、証拠品は持ってきてくれたのかい?」
「もちろん! まさか、力ずくで開けるモノだとは思いませんでしたけど」
「そこは力ずくじゃなくて、力まかせだと思うケドね…ボクだって予想外だったよ、その証拠品がムダになるなんて」
「そろそろ、あのデンワがかかってくる時ですね」
「ああ…あれをかけた時は、気分が悪かったよ」
「かかってきた!  大臣さんがデンワをとったわ」
「…何度きいても、シャレにならない内容だな。オレが死刑囚じゃなかったら殴りに行ってるところだ。たとえ、相手が親友でもな」
「当然だね…自分の亡き後、遺された家族を守ってくれるはずのニンゲンから、こんなデンワがかかってきたら殴りたくもなるさ」
「しかし、むこうのアンタは殴られるまでもなくボロボロだったな」
「そうだね。報いを受けたってところかな…そろそろ、場面転換だね。ゴミ捨て場の管理人室だ」
「よし。それではここから、シセル役を交代しよう。シセル、入ってきてくれ」
「ニャー」
「ここのドア、猫用ドアもついてたんだ。知らなかったわ…ここからは黒猫ちゃんがシセル役なのね。声優さんは?」
「もちろん準備万端だ(ニャー) ヨミエルは?」
「ああ…オレも問題ない。やれやれ、やっと素の自分で話せるな」
「それはそれでヨミエル調じゃないかい?」
「アンタはずいぶん余裕だな。これから殺されるってのに」
「確かにね…でも、ミスタ・ゴーストが助けてくれるからね。頼んだよ」
「そのためには、一度死んでもらわないといけないのだが」

「死んだからこそ助けてもらえたんだ。文句は言わないよ。それに…ボクはタダでは死なない」
「殺す前にあんな反撃をされるとは思わなかった。まさか、あの弾が発信機だったとは。警察ごときの技術力で、よくあんなハイテクなモノが作れたな」
「弾に仕込んだ極小サイズの発信機は、軍の払い下げ品だよ。特別捜査班が使う保管庫の中身は、警察の装備品じゃない。必要なら、重火器でもなんでも使う。今回の反撃は、おとなしいほうだよ」
「そうか。それじゃあ、警部さんが豆鉄砲しか持っていなかったことに感謝しよう」
「ヨミエルが撃ったわ! まさか、あんな至近距離で…」
「銃には慣れてないが、さすがにこの距離なら絶対に当たる」
「ああ。その前提は覆らない。問題は、何が当たるかだ…しかし、これを止める前に、もう一人助けないとな」
「待たせたな。管理人だ。大臣は退出してくれ」
「わかりました。今夜は人が死にすぎる…見ているだけでも辛い。私はここで失礼しましょう」
「ああ。また後でな…私は地下室で助けを待つとしよう」
「またあのシカケね。今度は銃がないのに、それでも人が死ぬなんて」
「不自然に動いても人が死ぬし、自然に動いても人が死ぬ。本当に困った装置だ」
「5年前のは、アナタがカノンを操って改変したんでしょ!  今夜の爆発だってそうよ。アナタがバクダンなんか組み込まなければ、爆発しなかったのに!」
「それはそうだが…もう遅い。ほら、シカケがまわりだした。今回はこれが死因だ。さて、どうするシセル?」
「この回は、管理人氏をアンタから隠さないといけなかったからな。苦労したが…」
「ボクのトリカエのチカラがあれば、できないコトはありません!(ワン!)」
「ミサイル! よかった。カントクが連れてきてくれたのね」
「ああ。カノンから預かって、一緒にここまで来た。よく吠えたが、おとなしくついてきた」
「ボク、お散歩もダイスキですから!  ダレかと一緒に歩くのもスキです!(ワンワン!)」
「なるほど。このスタジオの長い廊下も、小さなイヌにとっては散歩道というわけだ。ミサイルのほうが人生を楽しんでいるな。ダレかさんとちがって」
「アンタに責められるスジアイはない! そもそも、オレの悲惨な半生を設定したのはアンタだろう!?」
「ヨミエル、あまり役に没入するとカントクを殴りかねないぞ。役に人格をのっとられないように気をつけろ。大事な相棒が本当にヒトゴロシになったら、私は悲しい」
「ああ…そうだな。もう大丈夫だ…シセル。続きを観ようじゃないか。おまえの活躍を」
「といっても、私は大して活躍しないぞ。今回はミサイルががんばったんだ」
「そうですとも! ボク、あのフタをトリカエたんです!」
「その前に、小さな階段をトリカエてネズミたちを集めた」
「そして、あのフタを踊らせたわけだ。あのネズミたちも、見慣れるとラヴリーだね」
「しかし、死んだ後でも踊りたい気分になるとは…アンタ、芯の強いキャラクターだな」
「いや、あのセリフはアドリブだよ…そうだったよね、カントク?」
「ああ。ミサイルのセリフはあったが、警部のセリフはなかった。ついでに言うと、その後のシセルのセリフもアドリブだ。アドリブは時に連鎖する」
「あの時は、本当にキケンな連中だと思ったんだ。私には無害だったが」
「あ、フタのトリカエに成功しましたよ!  これでカンリニンさんが落ちるんですね!」
「ああ。爆発の寸前に、下水道へ落ちた」
「そのおかげでアンタはオレの目の前から消えたわけだ…次は床下もカクニンするべきだな」
「いいや。次はない。もう知っているだろう?」
「ああ。そうだな…なくてよかった」
「それにしても。カバネラ警部がバクハツ後にこのポーズで固まっているのはスゴイな。これはどうなっているんだ?」
「まさか、合成だと思ってるのかい? 心外だね。このシーンだって自力だよ。ボクは体幹が強いから、こんなポーズでも静止していられるんだ。ラヴリーだろ?」
「いや、ラヴリーというよりコミカルだが…なぜこんなユカイなことに?」
「脚本の段階ではシリアスなポーズの予定だったが。それだと、管理人室での動作とかぶるのでな。地階はコミカルにいこうと決めた」
「まあ、これくらいコミカルにしておいたほうが、悲惨さが減っていいんじゃないかな」
「そうだな。なにせアンタはこの後、激痛に耐えながら階段を上ることになる」
「ああ…思い出したくないケドね。今でもときどき脇腹が痛むんだ」
「え。まさかあの爆発シーン、スタントマンを使わなかったんですか!?」
「そもそも、爆発はしていない。あのバクハツは合成だ。火薬は一切使っていない。それなのにキミは負傷したのか? カバネラ」
「だったら、あの衝撃は霊障ってやつかな。ときどき、装置が誤作動してたらしいよ。カントク、知ってたかい?」
「小道具の誤作動にはビューティーが対処したときいているが。まさか、あのシーンでカバネラが負傷していたとは知らなかった。なんなら今からでも…」
「いや、いいんだ。本業でもたくさん恨まれてるからね。この痛みは、ボクに捕まった連中の恨みとして、甘んじて受け取っておくよ」
「意外だな。アンタは神経の図太い人物だと思っていたが」
「それも、よく言われるケドね。ボクだって恨まれたいわけじゃない。でも…職業柄、どうしても恨まれるからね。それだけのことをしている自覚は持っていようと思ってる」
「えらく良心的な警部さんだな…今度は、アンタを助ける番だ」
「よかった。ようやく、ボクの番だね。ダレにも名前で呼んでもらえなかったのは悲しかったケド」
「名前よりも『お調子者』のほうが警部のキャラクターをよく表しているから、このシーンではそう呼んでいるだけだ。ふたりでアヤツル者の調査を始めてからは、たまに名前で呼んでいたが」
「ボク、あんまり頭がよくなくて…たくさんのヒトの名前は覚えられないんです。でも、リンネ様とカノン様の名前は死んでも忘れませんとも!」
「ミサイル、いい子ね! その調子で、がんばってカバネラさんを助けて!」
「はい! ボク、がんばります! それじゃあシセルさん、お願いします!」
「ああ。ヨミエルの視線をかいくぐって、キャスターを動かした。あとはニットキャップを調達して戻るだけだ」
「あの時、キャスターが動いていたのか。気づかなかったが…こうして見るとかなり不自然だな」
「ああ。モノが異常な動きをしているのを見せられれば、ダレでもアヤツル者の存在を信じるだろう。だから私はあの装置に『異常な動き』があったことを証明しようとしていたのだが」
「その研究をジャマされて、オレに消されたワケだ。アシタールなんか嗅ぎまわるからだ」
「嗅ぎまわったのはアシタールそのものではなく、アヤツル者のほうだが。結果的に、あの隕石にたどり着いた。あれこそがアヤツル者の…」
「シセルさん! あのヒト、またアレを使いましたよ! あの、バンッていうヤツを!」
「ああ。ここからが正念場だ。ミサイル、頼むぞ」
「はい! この小さなヤツと、ニットキャップをトリカエます!」
「よし! これで成功だ」
「確かに成功だが…カバネラがハデに後頭部を打つことには変わりないようだな」
「急に目の前にニットキャップが現れた身にもなってほしいね。とっさに避けようとしたらああなったんだよ。おかげで頭を打ったケド…一応は助かった」
「アンタが動かなくなったせいで、オレは『カバネラは死んだ』と錯覚したワケだ。我ながらマヌケだが…こればかりはしかたない。どうせ、このカラダでは感触がわからないんだ。脈があるか確かめることはできない」
「だから、あのまま立ち去ったのか。復讐にしては詰めが甘いと思ってたよ」
「うわ…この、立ち上がろうとするシーン。何度見ても、ホントに痛そう」
「実際に脇腹が痛かったからね。かばいながら立ち上がろうとしたら、ああなったんだ」
「道理で迫真の演技になったわけだな。おかげで良いものが撮れた」
「カントクさん、本音がもれてるわ。少しは申し訳なさそうにしないと…」
「そう言われてもな…霊感のない者に、霊障は防ぎようがない」
「もう。またそうやってユーレイのせいにして。もしもホントに装置が故障してたら、監督の責任なんですからね!」
「それはわかっている」
「ホントにわかってるのかしら…あ、私が入ってきたわ」
「いつの間にかカバネラ警部がイスに座っているな。よくあのキャスターつきのイスに座れたものだ」
「ああ…イスに座るだけで一苦労だったよ。おジイさんがイスを押さえてくれなかったら、まだ座れてなかっただろうね」
「あの部屋のイスはあれひとつしかない。他人を座らせることになるとは思っていなかったからな」
「いくら管理人室とはいえ、まったく来客を想定していないのもどうかと思うケドね。まあ、ボクはあの赤い折りたたみイスを持ち歩いてるから、問題ないケド」
「そういえば。地階でもあのイスに座ってましたよね。お気に入りなんですか?」
「あのイスはボクの私物だよ。カントクが用意してくれたイスもあったんだケドね。カントクにあの赤いイスを見せたら、そのまま小道具に採用されたんだよ」
「ああ。警部のイメージにピッタリだったからな」
「そういえば。あのイスはどうやって持ち歩いてるんだ? 大臣の前では、コートから取り出しているように見えたが」
「その点は、ボクもカントクに質問したんだよ。ラヴリーな警部さんはどうやって、あのイスを持ち歩いてるのかって。そうしたらカントクは…」
「その点は設定していない。とにかくコートから取り出しているように見えればいい、と答えた」
「なんともテキトーだな。設定を放棄するのは、脚本家の職務放棄じゃないのか?」
「映画は視覚効果が最優先だ。美しいものが美しく撮れればいい」
「…なんか、ごまかされた気がするな」
「まあまあ。その点は許そうじゃないか。カバネラはあのバクハツで、健康とイスを失ったんだ。もうあのイスが問題になることもない。そうだろう?」
「あ、ジョードさん。そういえば、ずっと一緒にいたんでしたね」
「ああ。出番になったからコメントしたんだ」
「幸い、現実のイスは無傷だケドね…キミはホントに、いつもおいしいところを持っていくなあ。さすが、やり手の刑事さんだ」
「死刑囚に皮肉を言う元気があるならダイジョウブだな、警部さん」
「ここでコートを着て、いよいよ潜水艦に乗り込むんですね」
「ああ。まさか、リンネと密航することになるとはな」
「言っておくが、オレはアンタらもあのクルーザーに乗っているのに気づいていた。だが、あえてそのまま沖に出たんだ」
「そうだったのか。なんのためか教えてくれるかい? ヨミエル」
「もちろん、アシタールを知る者を消すためさ。あの時点ではまだ、シスとの契約は有効だった。アンタらをヨノア号に連れて行けば、マヌケな殺し屋どもが逃したターゲットを探す手間が省ける」
「なるほどな…だから尾行を警戒していなかったのか。逃亡を企ててるわりには無防備だと思ったよ」
「むしろ、尾行してほしかったからな。ハデな赤いスーツは、いい目印だろう?」
「え。まさかそのスーツ、目印にするために着てたの!?」
「もちろんさ。警察がオレを見失わないように着てやっていたんだ。オレの趣味じゃない」
「おかしなことを言うなあ。10年前のキミも、その赤いスーツを着ていたぞ。キミの趣味だろう?」
「…まあ、それもある」
「あるんだ」
「それもあるが…作戦のために地味なスーツと無難な髪型に変えようとしたら、シスに止められた。その赤いスーツとトンガリ頭で、リンネとカバネラを誘い出せと」
「それで髪型も変えてなかったんだ。それなのに気づかなかったなんて…私、本当に心にフタをしていたのね」
「まったくだ。あのゴミ捨て場で会った時、オレが自己紹介するまで思い出さなかったんだからな。おまけに、あのハンニンと同じカオをしたオトコと協力するとは。図太いどころか無神経だ」
「そこまでくるともはや、無神経どころか記憶喪失だが…怖すぎて、ハンニンのカオは見ていなかったのかもしれないな」
「それにしても。自慢のスーツの色ぐらいは覚えていてほしかったが…まあいい。とにかくオレたちは今、潜水艦にいるわけだ」
「ああ。あとは、ジョード刑事のデンワを待つばかりだ」

 

第16章 ヨノア号のリンネとカノン


「それじゃ、ボクはここで失礼…ッ」
「まだ痛むんですね…無理はしないでくださいね」
「その点はダイジョウブだよ、リンネ。ボクは自己愛が強いから、死ぬまでがんばったりしない。無理はしないコトも、ボクのルールのひとつだからね」
「リンネが心配するのも無理はない。どんな時でも余裕があるようにふるまうのも、カバネラのルールだからな…リンネは、おまえが痛みを隠して働いて、傷が悪化するんじゃないかと案じてるのさ。ついでに言うと、オレも心配だ」
「わかったよ…親友にまで心配されちゃ、シゴトを休むしかないね。久しぶりに休暇をもらうとしよう。それじゃ、また後でね」
「はい。また後で」
「あ、ついにデンワがかかってきましたよ! これで、リンネ様たちのところに行けますね!」
「そうだな。これでデンワ線がつながった。管理人氏、お別れだ。私はミサイルと一緒に行く」
「ああ。行ってくるがいい。ただし、気をつけろ…敵の拠点だからな」
「言われるまでもない…それじゃあ、また後で」
「場面転換だな。ここは潜水艦の…」
「諸君、ヨノア号にようこそ!」
「ここは指令室だ、ジョード刑事」
「シスさんと参謀さん!?  いつのまに…」
「ワシの小柄さを甘くみるでないワ。わずかな隙間からでも出入りできるのがワシの特技じゃ」
「私がロボットであることは、すでに教えたはずだ…物体であるロボットには、生命反応も気配もない」
「それだけで気づかないものかしら…もしかして参謀さん、バラバラになってたんじゃない?  この部屋のなかで、ひとりでに組みあがったとか…」
「残念ながら今のところ、そんな機能は搭載されていない」
「しかし、なかなか良いアイデアじゃな。エンジニアに提案してみるとしよう…おっと、早くも部屋が打ち上げられたのう。このシーンは何度見てもユカイじゃて」
「打ち上げられたほうはたまったものじゃないが…あの振動には驚いたな」
「あの部屋、ホントに揺れたんですか!?」
「ああ。さすがに打ち上げられたわけじゃないが、振動はあった。最初はハデに揺れたからな…危うく転ぶところだった。後でカントクに調整してもらったよ」
「相変わらず、装置の整備が甘い監督ね。ジョードさんにケガがなくてよかったわ」
「そしてここから、リンネのところに移動するわけだ」
「先に謝っておくわ。また死んでごめんなさい」
「かまわない。リンネは会うたびに死んでいるからな。生きて再会できた時のほうが少ない。私は今さら、驚きも怒りもしない」
「それもそれでどうかと思うけど…問題はカノンちゃんね」
「カノンがどうかしたのか?」
「ジョードさん…言いにくいんですけど、この時、カノンちゃんは…」
「みんな、お待たせ! カノンだよ!」
「よく来たな、カノン。オレの隣に座るといい」
「はーい」
「元気なカノンちゃんに会うと、ほっとするわ…あの世界はフィクションだとわかってても」
「あ、もうすぐカノンが暴れるシーンだね」
「カノンが暴れる!?  どういうことだ?  カノンはいつも優しいぞ」
「お忘れかな?  ジョード刑事。オレはニンゲンもアヤツルことができる。せっかくの人質を活用しない手はないだろう。カノンなら、ふたりとも手出しできない」
「まさか、それでカノンの体を使ったのか!?  子供を巻き込むな!」
「恨むんなら、人質をまちがえた、あのマヌケな二人組を恨むんだな。オレにとっては好都合だ」
「くそっ…リンネ、この状況からどうやって助かったんだ!?」
「えーと。ホントに言いにくいんですけど…」
「カノンたち助かってないよ、パパ」
「なんだって!?  シセルもいたのに、何をしてたんだ!?」
「カノン。誤解を与える言い方はやめてくれ。確かに一度は死んでいるが、後でちゃんと助けているだろう。これ以上、ジョード刑事を怒鳴らせないでくれ」
「うん、わかったよ。ごめんね、シセルちゃん」
「そうか…運命の更新だな。死因は何だったんだ?」
「もうすぐ着弾するが…ミサイルだ」
「ボクじゃないですよ!(ワン!)」
「それはわかるが…つまり、魚雷だな」
「まさに魚雷じゃ。シセルくんはこれを止めるためにワシらを追ってきたが、さて、どうなるか…」
「刑事ふたりと子供ひとりに魚雷とは…大人げないな」
「ワシは慎重な性格なんでの。多少の損害があっても、ジャマ者は残らず消すと決めておるんじゃ。これも戦じゃからの、悪く思わんでくれ」
「どんなチカラがあろうが、たかが隕石ひとつじゃないか。潜水艦以上の価値があるのか?」
「大いにあるとも! これを使えば、どんなに厳重な警備の施設にもスパイを送り込める。偵察も工作もしほうだいじゃ」
「そのオーラのなかで死なせないと、アヤツル者はつくれないが…」
「もちろん知っておる。死者は軍部が用意してくれるワ。忠誠心あふれる兵士の枕元に、アシタールを置いておくんじゃ。その状況で兵士が息をひきとれば、死後も生き続け、国のために働き続けられるという寸法じゃ。我ながらすばらしいワ!」
「まさか、傷病兵を使う気か? たとえ司令官の提案でも…そんなことが許されるのか?」
「それを判断するのはキミたちでも、ワシでもない。我が国の軍部じゃ。却下されたらそれまでのこと…自分のために使うだけじゃ」
「なるほどな。アンタは、自分のためにアシタールがほしかったわけだ。カラダが死んでも、意識は生き続けられるように」
「その通りじゃ。ワシほどの歳になると、己の死期が近いことを感じる…ワシがこの世から消えないためには、アシタールが必要じゃからの。このまま持ち逃げさせてもらうワ」
「シセル! ミサイルに対処して! 急いで!」
「そうだったな…ダイジョウブ、すでにミサイルの中にいる。この安全装置さえ作動させてしまえば、着弾してもバクハツはしない。今、作動させた」
「なんと!?  そんな方法で防がれるとは…驚きじゃのう。さすがはアヤツル者じゃ」
「真の問題はこの後だ…バクハツは防げても、着弾することは変わらない。結局、潜水艦には穴が開いてしまった」
「撃沈されることは変わらなかったわけじゃな。シセルくんのお手並み拝見といこうかの」
「まずは、現在のリンネに合流だ。合図を送ろう」
「懐中電灯がひとりでに点いたから、すぐにわかったわ。シセルが来てくれたんだって」
「この現象を見て、味方が来たと思うのもどうかと思うが…」
「もうすっかり慣れちゃったから。カイキ現象には。ユーレイと組んでるんだから、当然ね」
「まあ、そうか…通常空間で話せないのはフベンだが、運んでもらえるのは助かるな」
「それにしても…意外と人道的よね。あの司令官、乗組員はみんな連れて行ったわ」
「当然じゃ。いくらアシタールを奪うためとはいえ、さすがに人命は犠牲にできんでな。敵以外は」
諜報機関の長から敵に認定されるとは…私たちもずいぶん出世したな」
「無駄口をたたいていると船が沈むぞ。どうするんじゃ? シセルくん」
「ううう…まさか、船体の向きが変わるとは思わなかったわ」
「一応きいておくが…これは、縦向きの背景セットだよな?」
「ええ。さすがにセットごと回転しわけじゃないですよ。縦向きのセットもつくられたから、ここからはそっちで撮影してるんです」
「それを聞いて安心したよ。本当に回転したら危ないからな。カノン、ケガはしなかったか?」
「うん。ダイジョウブだよ、パパ。落ちた時は、リンネお姉ちゃんが下敷きになってくれたから」
「下にマットがしかれてたんだけど、それでも心配だったから。わざと下敷きになったの」
「本当にわざとなのか?」
「…そういうことにしておいて。インタビューとかでは、そう答えることにしてるから」
「わかった。そういうことにしておこう」
「ここからはボクが活躍するわけですね!(ワン!)」
「ああ。ミサイルがついてきてくれたおかげで、部品をトリカエできた。おかげでリンネたちを上に逃がせたが…」
「まさか、大きなアームにつかまるとは思わなったわ。しかも、ヨミエルが助けてくれるなんて」
「もう復讐しようがないからな…置き去りにされた者同士、つもる話もある」
「それだけではなかろうて。ついでに、自分の技能を見せつけたんじゃ。自分は、一度に複数のモノをアヤツルことができる。自分こそ、アヤツル者の頂点だとな。そうじゃろう? ヨミエルくん」
「それは…考えたことがなかったな。しかし、今思えばそうだったのかもしれない」
「だとすれば、ワシに劣らず性格が悪いのう」
「シス指令。そろそろ、退出する時間です」
「おお、そうか。それでは失礼しようかの。お嬢ちゃんたちの健闘をお祈りしよう」
「…役に入り込んでると、嫌味ね。シスさん、普段は気さくなヒトなのに」

 

第17章  思い出と追跡


「ここからは、『シセル』がふたりとも姿を失うわけね」
「ガラクタの姿で失礼。自分のカラダは、ジョード刑事とともに射出されてしまったのでね」
「私が姿を失ったのは、確信したからだ。このオトコと自分は別人だと。本人を目の前にすれば、そう思わざるをえない」
「オレとしてもそのほうがいいな。自分の姿をした別人と話すのは気分が悪い」
「それにしても、よく私の正体がわかったな」
「確信があったわけじゃないが…推理したんだ」
「あなたの姿を、自分の姿だとかんちがいしそうなのはダレなのか、考えたわけね」
「そうだ…シセルを撃ち殺してしまったと気がついた時は悲しかったが、トリヒキはやめられない。相棒を失った悲しみを抱えたまま、あの管理人室にいた」
「そこに現れたのが、私か」
「ああ。はじめは、ダレなのかわからなかったが…少し考えたら、すぐにわかった。オレの姿を自分の姿だとかんちがいしそうな奴は、他にいない。こいつはきっとシセルだと思った…まさか、記憶を失ってるとは思わなかったが」
「そこまでわかってたんだったら『また会えてうれしい』ぐらい言ってあげればよかったのに。シセルが自分のことをもっと早く思い出せば、協力してくれたんじゃない?  あなたの復讐に」
「その通り。実をいうとあの管理人室のシーンは、不自然なのさ。相棒を目の前にして『あとでゆっくり話そう』と言うでもなく、カバネラ警部を殺すことを優先して。『ついてこい』と言うでもなく立ち去って。オレに言わせれば、おかしなことだらけだ。しょせんはフィクションだな」
「しかし、結果的にはそれでよかった。ヨミエルがあそこで『おまえの正体は黒猫だ』とか『オレはおまえの相棒だ』などと言ったところで、私は信じなかっただろうからな」
「姿をまちがうと記憶が戻らないとは知らなかった…ついてきてくれるかと思ったのに、おまえはあの場に留まったな。あれは残念だった」
「死者の魂を無理やり連れていくことはできないでしょうけど…ヨミエルは、いやにあっさり立ち去ったわよね。何か考えがあったの?」
「もちろんさ。シセルは好奇心が強いんだ。『自分の死体』が歩きだしたのなら、必ず追ってくる。死体をアヤツっているのはダレなのか。なぜ『他人の姿』で人を殺すのか…ききたいことは山積みだろう。どんな手段を使おうが、必ず追ってくる」
「そこで、ジョードさんがデンワをつないだのね」
「ああ。まさか、シセルがあんな手段で移動しているとは思いもしなかったが…ヨノア号と連絡を取るのは面倒なんだ。奴らは、海底の電話線を勝手に拝借しているからな。毎度、連絡先の番号がちがうんだ。以前の番号は、まず使えない」
「それで、ジョードさんからのデンワを待つことになったわけね…そこまでは知らなかったわ」
「ちょうど、スクリーンのなかの話も終わったな…次は、追跡か」
「ええ。私は、悲しみに浸るような柄じゃないわ。自分が潜水艦から脱出できないのなら、あなたたちを送り出せばいいのよ!  目的地だってわかるんだから!」
「なんとも元気なお嬢さんだな。こんな状況なのに」
「こんな状況だからこそでしょ! 運命を更新してもらわないと、カノンちゃんが巻き添えになるんだから。私はともかく、10年前は生まれてもなかったカノンちゃんは、完全にヒガイシャよ。子供が死ぬのをゆるすなんて、刑事じゃないわ」
「それでか…あんなにやる気満々だったのは。カノンのためだったんだな」
「ボクだって! リンネ様とカノン様のためなら、いくらでもがんばりますとも!(ワンワン!)」
「その意気よ! ミサイル。あっちのミサイル…じゃなくて、魚雷に乗ってジョードさんのところに行って!」
「わかりました! さみしいけど…行ってきます!」
「イイコね! あっちにはジョードさんがいるから…合流できればきっと、なんとかなるわ!」
「なんの確証もなしに送り出したのか?  さすがに場当たり的すぎるのでは…」
「これだから悪役は困るわね。ヒトのアイデアにダメ出しばかりして。他の案がないなら、静かにしててほしいわ」
「わかった。こうなったらしかたない。あそこにはオレのカラダもあるからな。ついていってやろう」
「なんか、恩着せがましい言い方ね。取り残されるのはイヤだって、素直に言ったらいいのに。この時なんか、わざわざ気配を消してまでついていったでしょ」
「…他人に助けを求めることができる性格なら、とっくにそうしてる…5年も潜伏していない」
「そうよね…ごめんなさい」
「いくらチカラの変化に必要な時間だったとはいえ、なぜ5年も…自分で自分の無実を証明すればよかったんだ。そうすれば、半年も待つ必要は…」
「ヨミエル?」
「せめて、無実が証明された時点で名乗り出るべきだったんだ。そうすれば、今頃は…」
「ヨミエル、行くぞ。12秒後にあの部屋とすれちがう。この機を逃したら、もう自分のカラダを奪い返せないぞ」
「…ああ。そうだな、行こう」
「それじゃあリンネ様、カノン様。ボクたち、いってきます!(ワン!)」
「ええ。いってらっしゃい。昔の私によろしくね。それじゃあ、また後で」
「はい!」
「ここでようやく、ジョード刑事と合流だな」
「まさか、ここまで追いかけてきれてくれるとは思わなかったなあ。カノンが潜水艦に連れてこられているのも、予想外だった。おまけに、リンネと一緒に置き去りにされてるなんてな」
「さすがのダンディーでも、カノンを脱出ポッドに乗せる余裕はなかったようだな。置き去りにすれば死ぬとわかっていても、まわりに反対されたら連れていけない」
「おおかた、そんなところだろう。あの小男はあの組織の良心らしいが、いざとなったら自分のほうが大切に決まっているからな」
「しかし、死体になってから会うのはこれで2度めだな…師匠は弟子に似るものなのか?」
「オレだって、死にたくて死んだわけじゃない…まさか、参謀が使い捨てられるとは思わなかった」
「この時は驚いた、ジョード刑事。『アンタも帰れなくなるんだぞ』とは…刑事でありながら敵の身を案じるとは」
「この時のオレは、アンタもニンゲンだと思ってたんだ。それに…今のオレは、あの頃とはちがう。カノンが生まれて、ヒトのイノチの重さがわかるようになった」
「ヒトの親になった影響で、人道主義者になったということか…それでも警察官か?  恥を知れ」
「なんともシンラツだなあ…さすが、あの国の軍人サマだ」
「このマシンガンが止められなかったのは予想外だったな。機械はアヤツレないのだろうか」
「おまえたちには、自動で動くモノを止めるほどチカラはないのだろう。アヤツル者といえど万能ではない。出力の限界があるということだ」
「結果的によかったんじゃないか? あのマシンガンが止められなくて。オレを助けることにこだわっていたら、ヨミエルのナキガラにトリツクなんてこと、考えつかなかっただろう」

「まさか、あの死体を通じて過去へ逃げられるとは…ウカツだった。部屋ごと射出するなど生ぬるい。もしこれが現実ならば、慎重なるシス指令はヨミエルの死体を粉砕していただろう。心から感謝するがいい。シス指令が死体を損壊しなかったことと、これがフィクションであることに」
「死体の損壊シーンなんか撮影したら『ゴーストトリック』が暴力作品指定を受けて、視聴に年齢制限がかかる。監督はそれを嫌って、こういう形にしたんだろう」
「観客の暴力性を喚起する作品は、そもそも上映されるべきではない。この国の審査は実にぬるい。民間人が自由に映画をつくれるのも考え物だ」
「まあそういうな。自由なほうが楽しいさ。この映画に出演したことだって、いい経験だろう。アンタの人間性が深まってよかったんじゃないか?」
「所有者の生命を守るのに役立つことは学習するべきだが。この経験は、はたして役に立つだろうか」
「もちろんさ。ニンゲンへの理解が深まれば、敵の思考も読みやすくなるだろう。相手が非合理的な動きをしはじめたら、どんな感情で動いているのか考えてみればいい。非合理な動きをしているニンゲンは、たいてい感情的になってるからな」
「なるほど…よいことをきいたな。参考にしよう」
「それじゃあ、行くか。いざ、10年前のアシタール公園に!」

 

最終章1、隕石とアシタール公園


「幼リンネ役の子役はまだ待機しているのか?」
「いや、もうすぐ着くはずだ」
「こ、こんにちは。お待たせ、しちゃった?」
「いいや。いいタイミングだよ」
「よかった。あ、黒猫ちゃん。元気?」
「もちろん元気だ。そして、私の名前はシセルという。今日はぜひ覚えて帰ってほしい」
「名前、つけてもらえたんだね。よかったね」
「それでは、私はここで失礼しよう」
「ああ。エンドロールまで、控室で待機していてくれ」
「私の居場所はシス指令のそばだ。場所は関係ない」
「そうだったな…それじゃあ、また後でな」
「了解」
「あのヒト、いつ見てもおっきい…ロボットって、ホント?」
「ああ。あのヒトは本当にロボットだ」
「すごい…」
「そういえば、キミの名前をきいていなかったな。お名前はなんというだい? お嬢ちゃん」
「り、リンネ…」
「それは、キミが演じた役の名前だろう。キミ自身の名前は?」
「ほんとに、リンネだよ。カントクさん、リンネって名前の子をボシュウしたんだって」
「え。それじゃあ、あのオーディション会場にいたのは…」
「他の子も、みんな『リンネ』ちゃんだったよ」
「なるほど。つまりキミはあのオーディションで選ばれた、リンネのなかのリンネということだな」
「そう…なのかな。赤毛の子がいいって言ってたけど…」
「まあその、なんだ…そんなに縮こまらなくていい。とりあえず、映画の続きを観よう。そろそろ、アシタール公園のシーンだ」
「わたしがヤキイモ焼いてるけど…公園で焚火して、怒られないのかな?」
「そういえば…映画としては撮影許可を得ているが。作中世界では問題ないのだろうか。子供が一人で焚火しているのは」
「えーと…セッテイ集には…そうだ、お父さんと公園に来てて、お父さんが焚火のジュンビしたって書いてあったよ」
「なるほど。つまり、あの公園は保護者同伴なら焚火をしてもいいわけだ」
「お父さんは、リンネがヒトジチに取られても戻ってこなかったな…何をしていたんだ?」
「えーと…たしか、パン屋さんにランチを買いに行ったの。焚火でパンも焼こうとしてたみたい」
「焼きたての食べ物が好きなお父さんなんだな…ムスメから目をはなすぐらい」
「ジョード刑事。これはあくまでもフィクションだ。心底から怒らなくてもいい」
「わたしがひとりでいないと、まきこまれないから…お話だからしょうがないね」
「あ、ヨミエルさんが…リンネ様になんてことするんですか!(ワン!)」
「オレだって焼き芋は好きなのに。せっかくの焼き芋タイムをジャマしてしまうとは…すまなかった」
「まずは、ヒトジチにしたことを謝るべきではないのか?」
「いいんだよ。お話だから。あのヤキイモ、あとで食べたよ」
「そうか…冷めてなかったか?」
「ダイジョウブ。まだホカホカだったよ」
「それはよかった」
「ジョードさんもきましたね。ニラミあい…ボクだったら吠えてます!(ワンワン!)」
「ニンゲンにも吠えるヤツはいるが…そういうヤツは、臆病者に決まってる。ミサイルだって、吠えないほうが強そうに見えるぞ」
「え、そうですか?」
「ああ。その小さな口で吠えても、かわいく見えるだけだからな」
「かわいいならいいんです。ボクはいつも、元気いっぱいでかわいいって言われてますから!」
「そうか…だったら、これからも元気に吠えるといい。ただし、ヒトを噛んではいけないぞ」
「もちろんですとも! ボク、ダレも噛んだことありません!」
「そうか…だったら、この時この場にいたとしても、ヨミエルの足に噛みつくのはムリだな」
「ムリですね。ボク、初めて会うヒトもダイスキなので。ハジメマシテ!の気持ちで駆け寄ってると思います。遊んでほしいので…」
「第2章でも思ったが、やはりミサイルは番犬にむいていないな」
「あ、隕石…あれがアシタールだよね」
「オレはアレに当たって死んだワケだ。背後に注意できる状況ではなかったからな」
「あんなにキラキラしてキレイなのに…ヨミエルさん、しんじゃったんだ…」
「この時はな…だが、ここから逆転劇がはじまるんだ。4分前に戻って、まずリンネの耳を使えるようにしよう」
「ああ。あのヘッドホンには悪いが、噴水に落とそう」
「ヤキイモはなんともないね。よかった」
「よし、これでリンネの耳が使えるようになったな。今度は隠れ…られないか」
「うん。ごめんね。助けようとしてくれたんだよね。でも、ヨミエルさんに捕まっちゃった」
「いや、状況は改善している。少なくともキミは状況を理解しているし、オレの目に映っている。ヒトジチがいるのがわかっていれば、撃たないさ」
「あ、隕石が近づいてますよ! ドキドキしますね!」
「ここではミノくんに活躍してもらったな。あの大きさと固さを利用して、隕石を弾いたんだ」
「ボクも、大活躍でしたね!」
「ああ。トリカエのチカラがなければできなかったことだ。ありがとう、ミサイル」
「で、でもっ…隕石がおじさんの足に当たっちゃった! おじさんがケガしてたの、隕石のせいだったんだ…痛くなかった?」
「ダイジョウブだ。さすがにあのカントクでも、本当にケガしろとは言わないさ。足を引きずっているのは演技だから、心配しなくていい。しかし…あの隕石がオレの足を撃ち抜いた時はヒヤリとしたな。うっかり撃った銃弾が、ダレかに当たったんじゃないかと…」
「せっかく隕石から生き延びたのに、撃ち殺されたらたまったものじゃない。街灯に刺さる程度で済んでよかった」
「しかし、自分をアヤツルのが遅れていたら、今度はミノくんに潰されるところだったんだぞ。間に合ったのはキセキだな」
「いいや。キセキではない。経験のたまものだ。数秒あればあれぐらいの動作はできるとわかっていた。自分はともかく、リンネは救えると思った」
「思えば、こうなるところまでが運命だったんだろうな…この世界は10年かけて、ヨミエルの死を『なかったこと』にしたわけだ」
「ああ。おそらく他に方法がなかったんだろうな。アヤツル者の発生を止めるには」
「世界が『運命の更新』をくりかえしたのは、アヤツル者を消すためだと…?」
「オレはそう考えている。アヤツル者の存在は、一種のバグなんだろう。この事件全体が、ひとつのデバグ作業なんだ。だからこそ、オレはシセルが心配だ」
「どうして?」
「リンネ。きいてくれ。実は…この日、子猫のシセルは死んでしまったんだ。オレのかわりに隕石に当たって…」
「え。じゃあ、あの時、動かなかったのは…もう、しんじゃってたから…?」
「ああ。私はあの時、イノチを失った」
「そんな…ヨミエルさんもわたしも助かったのに…」
「かまわない。私にはヨミエルと過ごした10年の記憶がある。心は10才だ」
「シセルちゃん、10才だったんだ…じゃあ、わたしと同い年だね」
「そうか。キミも10才だったのか」
「うん。この日はお誕生日だったの。わたし、ケーキよりヤキイモが好きだから…お父さんにお願いしたの」
「だから公園でヤキイモを焼いていたのか…」
「リンネ。オレがシセルを心配する理由の説明を続けるから、きいてくれ」
「う、うん」
「もしもこの世界…いや、この星が隕石を異物と認識し、その産物であるアヤツル者をバグとみなしていた場合。最後に残ったアヤツル者、シセルを消そうとするかもしれない。オレやクネリやミサイルは消えたのに、シセルは残ってしまったからな」
「そういえば『新しい現在』では、オレとヨミエルとミサイルに記憶が残っていて、シセルにはチカラまで残ってるんだったな」
「ああ。記憶を持つだけなら見逃してもらえるかもしれないが、チカラを持つことは許されないかもしれない」
「よくわかんないけど…シセルちゃんだけ、アシタールが残ってるせいなの?」
「いや…シセルの体内からアシタールを取り出してもチカラは消えないだろう。どうすればアヤツル者のチカラを消せるのか、オレにもわからない」
「…でも、シセルちゃんならダイジョウブだよ。シセルちゃんは優しいから、そのチカラ、悪いことに使ったりしないもん」
「ああ。このチカラは、これからも人助けに使おう。大人になったリンネは『新しい現在』でも刑事になったからな。また、たくさん死ぬにちがいない」
「え…そう、かな…わたし、そんなオトナになるかな…?」
「ちょっと! シセルさん、なんてこと言うんですか!(ワン!)」
「ダイジョウブさ、リンネ。キミはそんな、そそっかしいオトナにはならない。きっと、素敵な女性になれる」
「そうだといいな…刑事さんからもらったバッジ、大事にするね」
「ああ。オトナになるまで持っててくれ。また会った時にわかるように」
「うん。それじゃあ、わたしはもう行くね。またあとでね」
「ああ。また後で」

 

最終章2、新任刑事とヨミエルの出所


「これで、新しい現在に戻れるわけだ」
「ええ。そして、私は消滅することになります」
「あ、クネリさん。ずっと同じ部屋にいたんですね」
「そうですよ、2歳の私」
「ああ…そういえば、クネリの正体は12歳のミサイルだったな」
「ええ。脚本上は何度か正体が変更されましたが、この私は12歳のミサイル。老犬でございます」
「もう一度『今夜』が来るまで10年も待っていたとは、なんとも執念深いな」
「忠実、と言ってほしいですね。たとえ死んでも主人を想うのが、我々イヌというものです」
「その通りですっ(ワン!)」
「シセルが黒猫なことといい、どうやらあの監督は小動物が好きらしいな」
「いいじゃないか。この事件の発端からして、隕石なんだ。原因が宇宙から来てるんだから、ヒューマンドラマに収まらなくて当然だろう。動物が活躍してもフシギはないさ」
「クネリの正体をきいた時には驚いたが。もうひとつ驚いたのは、ヨミエルが同じミスをくりかえしていたことだな。クネリが経験した『10年前』でも、私たちが経験した『今夜』でも、ヨミエルは射出されていた」
「クネリとちがってオレには1回目のキオクがないからしかたないとはいえ、我ながら油断していたな。奴らはアシタールの正体には気づいていないと思っていた…しかし、2回目の『今夜』にしてやっと、アシタールとの縁が切れたわけだ。清々したな」
「ひとつ残念だったのは、ニンゲンのほうのシセルに会う機会がなかったことだ。10年も一緒にいたのに写真さえ見せてくれなかったじゃないか」
「文句ならカントクに言ってくれ。オレの婚約者について、設定集には『シセルという名の女性』としか書かれてなかった。職業どころか容姿の記述さえないんだ。ひょっとしたら…いや、そんなはずは…」
「ヨミエル? どうした?」
「…すまない。ちょっと考えてしまったんだ。ある可能性について」
「可能性?」
「ああ。もしかしたら、シセルなんて女性は、はじめからどこにもいなかったんじゃないかと…」
「そんなわけないさ、ヨミエル。キミはこれから出所して、彼女に会うんだ」
「そうだな…リンネの就任祝いが先だが」
「みんな、お待たせ! なんか、すごく久しぶりな気がするわ。昔の私は元気だった?」
「ある意味では『10年ぶり』だから、久しぶりと言ってもまちがいではないさ。昔のキミは、ずいぶんおとなしい子だったぞ。今とは大ちがいだ」
「うーん…言われてみればそうかも。あの日、ジョードさんに会わなかったら刑事は目指してなかっただろうし」
「目指す職業に合わせて性格を変えたということか?」
「そんなところね…ひっこみ思案で人見知りなんて、刑事らしくないと思って。映画とかで、刑事ドラマをたくさんみて。物おじしなくて強気で、猪突猛進! な性格になるって決めたの」
「決めただけで変われるものなのか?」
「ただ決めるだけじゃダメよ。『自分を変える』って決意するの。そのケツイが、ヒトを変えるのよ」
「なるほど…猫の私にはよくわからないが、ニンゲンはそういうものなんだな」
「そういうこと。ただちょっと残念なのは、シセルと組んでたキオクが残らなかったことね」
「え…しかし、このあとのセリフでは…」
「やあ、お待たせ! いやあ、大団円だね!」
「カバネラさん!」
「リンネが無事に刑事になってくれて、ボクもうれしいよ」
「ありがとうございます。私も、刑事になれてうれしいです」
「お祝いに花束を買ってきたよ」
「あ、どうも…カノンちゃんとアルマさんは?」
「ボクは知らないケド…ふたりはまだ来ていないのかい?」
「カノンはエンドロールで合流する。アルマは辞退したよ。コメントするほど重要な役じゃないってな」
「へえ。ミセス・アルマは意外とシャイなんだね…会えないのはザンネンだ。彼女に謝りたいコトがあったんだケド…ジョード、伝えてくれるかい?」
「内容にもよるが…おまえがアルマに謝りたいコトってのは、なんだ?」
「最後の『写真』について、ちょっとね…あれは、家族写真になるはずだった。なのにボクが割り込んでしまっただろう?」
「ああ。あの『写真』か…確かに。カバネラはいるのに、アルマは写っていないな。しかしこれは監督がそう設定したせいだろう。おまえのせいじゃないさ」
「それはそうなんだケドね…アルマは気を悪くしてなかったかい?」
「その点はダイジョウブだ。アルマはめったなことでは怒らない。カノンを叱ることもめったにないんだ。優しい性格なんだよ。だから他人に腹を立てたりしない。ダイジョウブだ」
「それならいいんだケドね…実は、あの写真の小道具名は『家族写真』なんだ。リンネとカノンが姉妹で、ボクとジョードがふたりの両親みたいだから、って」
「そりゃあ悪い冗談だな…まあ、そう見えないこともないが」
「リンネは、ジョードのムスメに生まれたかったかい?」
「うーん。それはどうでしょう。カノンちゃんはパパが大好きだから、ジョードさんは良いお父さんなんでしょうけど…私は、良いムスメにはなれそうもないから。部下で十分かも」
「良いムスメになれないのは、どうしてだい?」
「私ってよく無茶なことするから、とっても心配かけると思います。そしたらジョードさんの寿命が縮んじゃうから。やっぱり、私は部下のほうがいいと思います」
「なるほどね…おや、そろそろ刑務所のシーンだね」
「ああ。相変わらずボーズが踊っているが、オレが出所する日だ」
「『いつもの彼女が来ている』ということは…つまり、シセルという女性は実在するわけだ」
「ああ。看守にも認識されているのなら、彼女は実在する…やっと会えるんだ」
「それにしても、この絵は力作だね」
「シセルへの感謝を込めて描いたんだ。この十年で、我ながらずいぶん絵が上手くなった」
「あ、描かれたシセルが動きだしたわ!」
「シセルさん、すごいですね! 絵になっても動けるなんて…シセルさん?」
「フシャァァァァァッ」
「え、どうしたの!?  シセル、全身の毛が逆立ってるわ…怒ってるの!?」
「あの黒猫は私じゃないッ」
「え!?  あれ、シセルじゃないの!?」
「ヤツがこっちへ来るぞ!!」
「おちつけ。あれはキミじゃないとしても、こっちへ来れるわけが…」
「ジョードさん!!  あの黒猫、こっちを見てるわ!!」
「あの平面猫を捕まえるぞ!!  録音止めろ! 力を貸せ!  協力しろ!」
「ここは彼の言うことを信じたほうがよさそうだね…悪いケド、この収録はここまでだ」

 

エンドロールと平面猫

「…おかしいな」
「何がですか? 監督」
「エンドロールだというのに遅刻している者がいる…あのお調子者が遅れるとは珍しい。マッコー、何かワケをきいているか?」
「そういえば、カバネラさんが時間に遅れるなんてめったにないですね。自分は何もきいてませんが」
「そろそろ、最終章の収録が終わるはずだが。収録を同日にしたのはまずかったか」
「イエエエエ!  待たせたな! オレはキセキのロックシンガー!  今日もピースフルなロックをお届けするぜ!  まずはこの曲から…」
「相変わらずの大音量だな…マッコー、聞こえるか?」
「は、はい!  なんとか…コイツ、つまみ出していいですか!?」
「そうしてくれ。エンドロールに使う曲の提供は依頼したが、コメントは頼んでいないからな」
「わかりました!  それじゃあ遠慮なく!」
「おっと!  まだ曲の途中だぜ!  サインなら待っててくれ!  今から2番を歌うぜぇぇぇ!」
「やかましい!  呼ばれてもないのに歌うな!」
「マッコー、ひとりでダイジョウブか?  なんなら警備員を呼ぶが…」
「ダイジョウブです! メメリに手伝わせますから!  メメリ、聞こえるか!?」
「はーい!  聞こえてます、手伝いますね!  ロックシンガーさん、暴れないで!」
「そういえば、メメリも刑事だったな。道理で腕っぷしが強い…頼りになるな」
「おやおや、ナニゴトですか?  カントク」
「ダビラか。今、ロックシンガーをつまみ出してもらったところだ。ヤツが歌っていると、うるさすぎて会話ができないからな」
「たしかに、あのヒトはウルサイですね。ワレには、カレのウタはさっぱりわかりませんが…ああいうのが、イマドキの流行りなのでしょうか?」
「いや、特に流行っているワケではない。しかし、いつの時代にも一定数のファンを獲得している類の歌ではある」
「それは、いわゆるロングセラーとかいうヤツでしょうか」
「まあ、そんなところだ。途絶えることなく続いている分野の音楽ではあるが、あまり一般むけではない。だから、良さがわからなくても気にしなくていい」
「なるほど。カレのウタはわからなくてよいモノだと思われているのですね…もしかして、ワレの主張もそう思われているのでしょうか。公園でビラ配りをしても、ダレにも受け取ってもらえないのは…」
「たぶん、そうだろう」
「ザンネンです。出演を機に有名になれば、ビラも受け取ってもらえるかと思ったのですが」
「現実はそう甘くなかったようだな」
「しかしワレはあきらめません! ウルサイ歌を歌い続けるカレのように、ワレもビラを配り続けます!  いつか、ダレかに受け取ってもらえることを信じて!」
「いいぞダビラ。その調子で、これからも公園の名物でいてくれ。あの公園が有名になれば、ついでにレストランも儲かるかもしれない」
「レストラン?  キッチンチキンのコトですか?」
「正確にはちがう。あの店ではロケができなかったからな。しかし、末永く営業していてほしい店だ。私も、ニクはチキン派だからな」
「おやおや。頭の上の青いハトさんがおびえていますよ。お言葉には注意されたほうがよろしいかと」
「なんと…すまない、相棒。どんなに飢えてもおまえは食べないと約束しよう。だから安心してくれ」
「キッチンチキンといえば、他の出演者の方々はどちらに?」
「そろそろ来る頃だと思うが。メメリはロックシンガーをつまみ出すのを手伝っているから、もう少し遅れるかもしれないな」
「はーい!  お呼びですか、カントクさん!」
「おお。意外と早かったな。あのロックシンガーはどうした?」
「スタジオの外でタクシーを呼んで、押し込んでおきました。マッコーさんも同乗してるので、戻ってこないと思います」
「それはよかったが…リンジューはどうした?」
「今つきました、カントク」
「リンジューは無事か。脚本中では死ぬ役だったから、少し心配していたのだが」
「エンギでもないこと言わないでくださいよ…あれから車の運転には注意してるんですから」
「ああ。それがいい」
ダンディーくんとビューティーさんは?」
「それが、フシギなことに血相を変えてどこかへ走り去ってしまった」
「え、2人とも?」
「いや、正確にはビューティーだけだ。ダンディーはビューティーのあとを追って行ってしまった」
「たしか、ビューティーさんには霊感があるとか。また霊でもみつけたんですかね。何か言ってませんでしたか?  ビューティーさんは」
「そうだな…たしか『黒猫がいる』と…」
「黒猫って…まさか、シセルを捕まえに?」
「いや、それはないだろう。シセルなら見慣れているはずだし、あのビューティーが生身の黒猫1匹に動揺するわけがない」
「走って行ったってことは、急を要するのかも…私、手伝いに行きましょうか?」
「いや、下手に手を出さないほうがいい。報告を待つとしよう。そろそろシスと参謀が来る頃だ」
「久しぶりじゃなカントク。クランクアップ以来かの?」
「そういえば、あれから会っていなかったな。久しぶりだ」
「シス指令。ビューティーダンディーの姿が見えません。2人とも遅刻しているようです。探しに行ってもよいでしょうか?」
「ビューティーが遅れているのは、何か異物をみつけたからじゃろう。『それ』への対処が終われば、ここに現れる。それまでは放っておけ。合流したら、遅刻した経緯を説明させよう」
ダンディー坊ちゃんは?  探さなくてよいのですか?」
「探さんでいい。どうせビューティーと一緒じゃろう」
「それなら、坊ちゃんがビューティーの足を引っ張っているのでは?  保護したほうが…」
「かまわん。危ない目にあわんと成長せんからの。ダンディーは確かにワシの息子じゃが、保護すべき年齢はとうに過ぎた。少しぐらい危険でも放っておけ」
「かしこまりました、指令」
「ビューティーなら、ダンディーと一緒でもうまくやるじゃろうテ。心配無用じゃ。ここで報告を待つとしよう。下手に手伝おうとすると叱られるからの」
「私もそう結論したところだ。ビューティーは『黒猫』を目指して走って行ったようだが、じきに報告があるだろう」
「そうか。迷い猫かもしれんな。相手が動物なら、報告の内容はせいぜい『殺した』か『捕まえた』ぐらいじゃろうテ」
「私のスタジオで動物は殺してほしくないのだが。様子を見に行ったほうがいいだろうか」
「それはいかん。ビューティーは作業のジャマをされるのが大嫌いなんじゃ。そっとしておけ」
「しかし…」
「いやあ、お待たせしたねカントク!」
「カバネラか…あの白いコートはどうした?」
「ああ。そういえばあれ、衣装だったっけ?  悪いけど返却はできなくなったから、買い取るよ」
「買い取ってくれるのはありがたいのだが。あのコートはどうなった?」
「それは彼女から説明してもらおう。見てもらったほうが早い。ビューティー、ボクのコートは持ってるかい?」
「ええ。もちろん持ってるわ。こんなモノ野放しにできないもの」
「なぜコートが網の中に?」
「ただの網じゃないわ。銀入りワイヤーで編まれてるトクベツ製の網よ。コートの裏地に黒猫を追い詰めたから、コートごと網で捕まえたの。これから燃やすわ」
「ビューティー、それはボクのコートだ。燃やすのは許さない。平面猫はボクが処分しておくから、コートは返してくれ」
「アナタは信用できないわ。これは飼いならせるようなモノじゃない。見てわからないの?」
「待ってくれ、そもそも平面猫というのは?」
「にゃー…」
「今、猫の鳴き声がしたが…参謀、音源はどこかわかるか?」
「はい、わかります。そのコートの中です。どうやら、猫はコートにくるまれているようです」
「そうよ。ちゃんと捕まえたわ。だから燃やすの」
「なんであれ、私のスタジオで動物を殺すことは許さない。ビューティー、カバネラにコートを返してやってくれ」
「黒猫も?」
「黒猫もだ。カバネラはコートと黒猫を引き取って面倒をみる。いいな?」
「ボクも、そう提案しようと思ってたところだよ。そのコートは気に入ってるし、平面猫は興味深い」
「この猫はアナタの手に余るわよ」
「ダイジョウブ。ボクは例の財団にもツテがあるんだ。その猫があんまり凶暴だったら、あの財団に引き渡すよ」
「そう…できる限り早く手放すのよ、いいわね?」
「わかってる。無理はしないよ」
「…しかたないわね。みんな、網を広げるから注意しなさい」
「…よし。やっぱりこのコートを着てないと『ラヴリーな警部さん』の気分にならないね。取り戻せてよかった。それじゃ、これからヨロシクね、平面猫くん」
「にゃー」
「うわ!?  コートの内側に猫が!?  そんな位置にポケットがあったんですか!?」
「いいや。こんな位置にポケットはないよ。この猫は平面だから、どこにでもいられるんだ」
「言ったでしょ。コートの裏地に追い詰めたって。聞いてなかったの?」
「聞いてましたけど、意味がわかってなくて。それにしてもすごいな…黒いから、ほとんど裏地と一体化してる…」
「金色の目が輝いてますね。かわいい!」
「それにしても、カントクもヒトが悪いなあ。この猫が移動するところ、撮ってたんだよね?  教えてほしかったな。初対面では驚いたよ」
「いや、私もその猫は知らない」
「え?」
「黒猫が絵から写真に飛び移るシーンはCGだ。その猫は知らない」
「ということは、まさか…この猫は、テープから発生した?」
「そんなこと…」
「しかし、現実にありえているではないか。ワシも長く生きてきたが、世界にはまだまだ未知のことがあるものじゃな。いくつになっても、人生は楽しいのう」
「それでカバネラ、他のメンバーは?」
「軽傷だよ。この平面猫くんを捕まえるのに一騒動あってね。録音室は狭いから、みんなうまく身動きできなくて大変だったよ」
「録音室が狭いのは防音上の利点があるからなのだが…他のメンバーは、ここに来るのか?」
「ああ。そろそろ顔を出すと思うんだケド…ジョードは足をひねったから、どうかな…」
「待たせたな。医務室に寄ったら遅くなった」
「ジョード、足の具合は?」
「足首が痛い。ドクターに見てもらったら、完全にネンザしてるそうだ。今、松葉杖を手配してくれてる。ダンディーが肩をかしてくれて助かったよ…ダンディー、ありがとう」
「どういたしましテ。オレっちはチビだけど、お役に立ててよかったサ…遅れて悪かったナ、親父」
「かまわん。どうせビューティーと一緒にいると思っとったからの…ジョードくんは座ったほうがよかろうテ」
「ああ。カバネラ、悪いがそこにあるイスを持ってきてくれないか」
「それよりこれを使いなよ。見た目より座り心地がいいからさ」
「申し出はありがたいんだが…その赤いイス、今、どこから取り出したんだ?」
「悪いケド、そのシツモンには答えられない…とりあえず座りなよ」
「…そうか。それじゃあお言葉に甘えよう」
「へえ。このイス、細っこい割にしっかりしてるナ。ジョードが座ってもびくともしないゼ」
「いいイスだろ?  ボクのお気に入りなんだ。老舗ブランドから発売された、モダンシリーズの最新作でね。その赤い塗料の成分は…」
「カバネラ、悪いがそのイスの講釈はまた今度にしてくれ。そろそろ法務大臣一家が来る頃だ」
「みなさん、お待たせしました」
「みんな、お待たせ…こら!  ミサイル、はしゃがないで!」
「ワン!  ワンワン!」
「リンネたちと合流してきたのか。にぎやかになったな」
「カントク、あたし、リンネちゃんと友達になったんだよ。ねー、リンネちゃん」
「うん。お友達が増えてうれしい。撮影は終わっちゃったけど…また会える?  エイミンちゃん」
「モチロン!  あたしは子役で忙しいから、いつでもってワケにはいかないけど…また遊ぼうね!」
「うん。楽しみにしてる」
「エイミンに新しいお友達ができて、私も嬉しいわ。これからもウチのエイミンと仲良くしてちょうだいね、リンネちゃん」
「う、うん」
「ちょっとママ! リンネちゃんは怖がりなんだから、あんまり圧かけないでよ!」
「あらあら。エイミンったら、お友達想いで優しい子ね。新しい友情にカンパイ…ね」
「もう…撮影は終わったんだから、いいかげんでその変な口調やめてほしいんだけど…ママが変な圧力かけてごめんね、リンネちゃん」
「ううん…いいんだよ。エイミンちゃんがすごく大事にされてるだけだから」
「…そうかな?」
「そうだよ。ちょっとウラヤマシイな…」
「え?」
「ううん、なんでもない…あれ、カノンちゃんとシセルちゃんは?」
「そういえば、まだ来てないね…どうしたんだろ?」
「おまたせー」
「あ、カノンちゃん! シセルちゃんも!」
「ニャー」
「パパ、遅れてごめんなさい。ちょっと迷っちゃって…」
「そうか…無事に着いてよかった。ボーズに案内してもらったんだな。ありがとう、ボーズ」
「いえいえ。エンドロールのコメンタリーには全員参加ときいていましたからね。スタジオに来たらたまたま、カノンさんをみつけただけですよ…カノンさん、迷子になっていたのですか?」
「うん…ビューティーお姉さんにも言われてたんだけど、案内板をよく読まないで来ちゃって…それで迷子になっちゃったの」
「そうだったんですね。みつけられてよかったです」
「うん。カノン、とっても助かったよ。ありがと、ボーズおじちゃん」
「どういたしまして。ここはまるで迷路ですから、次からはお気をつけて」
「はーい。それじゃ、いこっか。シセルちゃん…シセルちゃん?」
「フーッ」
「…何かをイカクしていますね。近づかないほうがいいですよ、カノンさん」
「すごい…猫ちゃんって、ホントに毛を逆立てるんだね。カノン、初めて見たかも」
「そうですか…ああいうふうになっている猫はキケンなので近づいてはいけませんよ。猫は、追い詰められるとああなるんです」
「シセルちゃん、ピンチなの?  そうは見えないけど…」
「本人的にはピンチなのかもしれませんね。なにか、とても怖いモノをみつけたのかも…」
「コワイもの?  シセルちゃん、何がコワイの?」
「私にコワイものなどない!  ただ、あの平面猫が気に食わないだけだ! なんでまだ燃やされてないんだ!?」
「ボクが引き取ったからだよ。これからはボクの相棒だ」
「だったら許してやるが…その平面猫から目を離すなよ」
「ビューティーと同じことを言うね…キミ、ホントに声優かい?」
「…」
「それで、ヨミエルは?」
「待たせたな。ジョードの足の具合はどうだ?」
「え、パパ、ケガしてたの!?」
「なに、ちょっと足首をひねっただけだ。すぐに治るさ」
「でも…」
「心配いらない。あとでドクターが松葉杖を持ってきてくれる。それまでパパはここに座ってるから、あっちでジュースでも飲んでおいで」
「うん…」
「ヨミエル、ジーゴとテンゴは?」
「ああ。『何か妙な物音がする』と、ふたりで確認しに行ったが。どうせ大したことは…ビューティー、どうした?」
「イヤな予感がするわ」
「そうか?  ふたりとも、プロのボディーガードだろう。何も心配することは…」
「もちろん、返り討ちになるほど弱くはないわ。でも、無傷というわけにもいかないでしょうね」
「待たせたな。負傷者の処置をしていたら遅くなった。ジョード、松葉杖を持ってきたぞ」
「それはありがたいんだが…ドクター、負傷者というのはダレのことだ?  オレはここにいるぞ」
ジーゴのことだ。『妙な音』の主を確認したら攻撃されたらしい」
「妙な音?」
「詳細は知らないが、ゴミ捨て場の屋内セットから物音がしたらしい」
「ふたりでも負傷するとは…テンゴの肩が治っていなかったせいかのう」
「それもありそうだが…」
「お待たせしました、ボス。遅れて申し訳ありません」
「おお。ふたりとも無事じゃの。ジーゴ、ケガの具合は?」
「手首をひねっただけです。軽傷ですのでご心配なく」
「そうか。利き手でなければ問題なさそうじゃの。それで、音の主はどうした?」
「ビューティーからもらった銀の弾丸で対処しました、ボス。すべて撃ち殺したはずです」
「それはよかった。いい仕事をしたのう。さすがじゃな」
「恐縮です」
「カントク、みんなそろったぞ。カンパイの音頭を取るんだろ?」
「ああ。そうだな。オーディオコメンタリーでまで負傷者が出たのは不本意だったが…このコメンタリーの収録も無事に終わりそうだ。スタッフにも出演者たちにも、心から感謝している。まずは、ここに集まってくれた諸君にお礼を言おう。みな、私の映画に出演してくれてありがとう」
「カントクが頭を下げるなんて珍しいな…」
「よし、飲み物はいきわたったな。カンパイに移ろう。みな、グラスを掲げてくれ…それでは。改めて、この映画の完成と、再会を祝して。乾杯!」
『乾杯!』

 

録音されたオーディオコメンタリーは以上であるが、残念ながら「エンドロール」のコメンタリーは不採用となり、DVDには収録されていない。

 

更新記録:2025/6/4  エンドロールをアップ。危うくエタるところでしたが、なんとか完走できました。もう誰も読んでないかもしれないけど満足。

*1:非公式な設定。私が勝手に名づけました。由来は見たまんま「彼岸」です。