あの有名ゲームが映画化されたと知り、公開日を過ぎて最初の水曜日が来るのを待って観に行った劇場版『8番出口』。一言で言うとすばらしかったです。映画館に行ってよかった。閉鎖空間の恐怖は映画館でないと体験できません。自分が2、3時間捕まっている状況だからこそ、閉鎖空間を舞台にした作品に感情移入できるのです。本作を鑑賞なさりたいのであれば配信を待つのではなく映画館へ行かれることをおすすめします。
それでは。ここからはネタバレありで感想をお送りするので、ネタバレNG派の人はブラウザバックをお願いいたします。
映画『8番出口』感想
原作ゲームにはストーリーがない。プレイヤーは白い通路にいて、ルールに従って異変を探し、ひたすらに8番出口を目指す。ただそれだけだ。その簡素さがウリの作品を映画にすると、どうなるのか。これが知りたくて観に行った。ゲームは主観視点のうえに揺れが大きくて3D酔いしてしまい挫折したが映画は最後まで観られてよかった。簡素なゲームを映画として成立させるため、わずかながら説明の要素もあり、登場人物も増えている。しかし、過度な脚色だとは思わなかった。一番よかった点は、あの「通路」の正体について何も説明しないことだ。由来も構造も、監視者がいるのかいないのかも説明されない。通路自身に意識があるのかないのかも微妙なところだ。捕らえた人間の記憶をのぞきこみ、罪悪感・恐怖・嫌悪の元になっているものを探して「異変」の演出に使っていると思われるが、そこに通路自身の意思があるのかは不明である。そこがまた怖いのだ。もしも通路に意識があるのなら、悪意はないのかもしれない。あの通路はただ、次々と人間をサンプリングしたいだけなのだろう。本作においてもっとも心臓に悪かった演出はロッカーの異変だが、一番驚かされたのは「オジサン」こと「歩く男」にも意識があったことだ。脚本家が「いくら『説明しない』といっても通路の法則についてまったく説明しないのも味気ない」と考えたのかもしれない。あのオジサンは原作プレイヤーたちの想像通り、先に通路に迷い込んだ人間である。この通路は、捕らえた人間の精神が限界を迎えた頃を見計らって「8番出口」を見せる。しかしこれもまた歴とした異変である。なぜならば、番号がとんでいるからだ。作中では出口の番号がとんでいる(例:0の次に8が表示される)も異変であり、地上へ出られるように見える「8番出口」から出てしまうと通路の一部になるらしい。挑戦者に対して逆走しすれちがうキャラクターになり、通路のむかって右端を歩き続けるようになる。どうやらこの通路は、このキャラクターをたまに入れ替えたくなるようだ。「オジサン」の前は女子高生が歩き続けていた。少年がこの女子高生を指さしたのは、これから起こる異変を察知してのことだったのか。あるいは「前はこの人といっしょにいた」という意味だったのか。どちらにせよこの少女はもはや通路の一部と化しており、結局のところ会話は成立しない。「8番出口」には脱出口と罠の2種類があるというのは思いもよらない脚色だったが非常に良かった。思わず、主人公「迷う男」も通路の一部になるバッドエンドを期待してしまった。それこそが真のループものだろう…と。しかし本作はそんなルートをとらない。通路で少年を助けようした主人公は成長し、男に怒鳴られている母子を見過ごさない。時間が戻ったことを察したのかもしれない。主人公は涙ぐんでおり、悪く考えれば、今度は時間ループが始まったと捉えられなくもない。しかし、冒頭と同じ音楽が使われることで、観客の悪い想像は打ち消される。これはただの通路の性質であり、解放された人間は少し前の時間に降ろされるだけなのだろう。
物語の脚色だけでなく、異変の数々もすばらしかった。従業員出入口のドアノブの位置が変わるという地味なものから、通路の奥から波が押し寄せる派手なものまで様々である。天井照明が増えても主人公が気づかず「0」に戻されるシーンがあり、ホラー映画あるある「観客だけが異変に気づく」をやってくれた。主人公が初めて「0」に戻されたシーンでは観客の私でもどこに異変があったのかわからなかった。次は配信で確かめたい。
人間は無意識に、異常なものを警戒しながら歩いている。何も考えず無防備に歩いているのは幼児ぐらいなもので、たいていの人は進路上の異物(犬のフンや手袋やたばこの吸いがらなど)に注意しながら踏まないように歩いているし、前から来る人間に不審な点(よろめいている、包丁を持っている、虚空にむかって怒鳴っているなど)がないか警戒している。異変がないか確認しながら歩くのは日常的なことだ。主人公は異常に適応が早く、囚われても騒がず脱出できても大喜びしない。そのかわり正気を失うこともない。これは主人公がおとなしい性格なのもあるだろうが、何より、警戒しながら歩くことは都市の住人にとってあたりまえのことだからだろう。殺し合いなどの非日常的なことをさせると正気を失う者がいることを学習した「通路」が考案したのが、現在の脱出ゲームなのかもしれない。今日も異常のない自分の日常に感謝しつつ、脱出できて「迷わぬ男」になった主人公を祝福したい。
以上、映画『8番出口』観てきたらすばらしかった件でした。これは小説も読みたい。小説版のリンクはこちら(⇩)
※映画関連品を貼りたかったのですが転売品が多かったのであきらめました。