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インディゲーム「都市伝説解体センター」ファンのみなさん、こんばんは。しばらく「都市伝説解体センター」の記事が続いていたので読者さまが退屈なさらないよう間を空けてみたしだいですが、気がつけばパソコンのキーボードで「と」を打つと第一変換候補が「都市伝説解体センター」になっていました。これはもう手遅れだな。ブラウザの変換が優秀すぎる。Googleクロームの変換はオタクに優しくて感動しましたがそれは置いておいて。評判の良いノベライズ『断篇集』を会場で買ったので読んでみました。まさか物販コーナーにブックレット以外の書籍まで置かれているとは知らず。Amazonでほしいものがたまってから抱き合わせ注文するつもりだったのですが「ちょうど読みたかったしついでに買っていこう」と、他のグッズとともにお会計。これは嬉しい誤算。ということで読んでみた感想(長文版)をお送りいたします。
ノベライズ『断篇集』感想
装丁などについて
申し訳ないんですがまずは装丁などについて。せっかく紙の本を買ったのですから、中身以外のことも語りたいじゃないですか。ハードウェアのことも語らせてくれ。ということでまずは装画(カバーイラスト)について。
公式のドット絵でありがたい。公式供給ありがたや。おまけにこの装画がそのまんま、綴じこみステッカーになっています。表紙と同じ配置にしてカバーイラストを再現するもよし、別々の場所に貼って単独ステッカーのように使ってもよし。もちろんそのままとっておいてもよし。1400円ほどの本にしては豪華な付録です。おまけにこのカバー、なんと特殊印刷になっておりまして、黄色い題字はすこし凸っています。つまりですねこのカバーには手触りという概念があるんですよ。裏表紙の目のマークまで凸ってる。すごい。外見だけでなく感触にまで訴えかけてくる。これは紙の本ならではのお楽しみなのでぜひ紙の本をお求めください。なんと、カバー下は装画とは異なるイラストです。作中シーンとはいえ、わざわざ別イラストを印刷してくださるとは太っ腹! 廻屋の位置が絶妙なのでぜひご覧ください。カバー下という概念は物理本ならではです。
この他、印刷面の特徴は本文が三色刷りなこと。活字は黒・白、ページは白・赤が使い分けられています。赤地に白字のページは読みにくいからか少なめですが、不吉なシーンで使われており効果的。赤が印象的だった原作ゲームの雰囲気にならったのでしょうか。たまに現れるキャラクターのバストアップイラストも赤で印刷されています。ドット絵の挿絵は見たことがなかったので新鮮な気分になれました。地味にレアじゃないですかね、印刷されたドット絵を見るのって。
物語と登場人物について
お待たせしました。ここからようやく小説としての感想になります。ここだけ読みたい方がジャンプできるよう目次を設けておいたので、ここから読んでくれている人もいるかもしれませんね。長編ではなく全5話の短編集なので、各話ごとの感想をお送りしますが、その前に一言。やっぱりたまには本を読んだほうがいい。新聞の購読してなくて本も読まないと、日本語は縦書きもできることを忘れそうになるから。久しぶりに小説を読んで「そういえば日本語って縦書きもできたな」と思い出しました。ネットのニュースサイトやゲームのセリフなんかは横書きなので、電子媒体にしか接していないと日本語でも横書きの文章しか読めないんですよね。グローバルスタンダードに合わせて横書きにするのもいいけど、たまには縦書きのものが読みたい。ということで縦書きに感動しつつ読んだ各話の感想をお送りします(⇩)
第1話 点を繋ぐ者
とあるチキン専門店に関する疑惑を調査する話。「ミュータントチキン」の正体は実際に読んでもらうとして。憶測で発言することは、願望という「点」をつないで現実という「線」ができたとみなしてしまう行為だという指摘はその通り。ただし、現実ではネット上の憶測のほとんどは「こうだったら面白いのに」という願望のはずなので、実際にその物語(因果関係)を現実だと思っている輩はいないはず。監視カメラのメーカーがあの「ユーテックプライオリティ」で、何気なく「ああ、あの事件以前の話なんだな」と思わせてくれる演出がにくい。この時点ではまだ黒沢は立派なCEOで、高性能な機器を世に出している真面目な経営者なのだ。それにしても黒沢はいつの間にITや電子機器の知識を身に着けたのだろう。犬神大学には理工学部もあるのだろうか、などと本筋には関係のない疑問を抱いてしまった。
第2話 疾駆する幽霊
タイトルに見慣れた「疾走」という語を使わずあえて「疾駆」としているところに作者のこだわりが感じられる。怪異「首なしライダー」と依頼者「杉山」の正体は読んでいただくとして。ラストで本当に幽霊の気配がするのが良い。これも原作ゲームにならった雰囲気だ。原作ゲームではジャスミンのドライブテクニックが活かされる場がなかったので、車とバイク両方の運転シーンがあって嬉しい。あとはこれをアニメか、せめてマンガで見られたら言うことないのだが。ドライブシーンでありながら小説なのがおしい。思うに小説はカーチェイスを描くのに不向きな媒体だ。
第3話 忌の杜、祟り石
ファンの間では「山ガスがメロい」と評判の一作。正直、この話を読みたさに買った。学生時代の山田が語り手。きのこと山中キャンプに行った話。描写から察するに「ファイブソサエティ」結成以前の話らしい。墓場文庫監修作品でこの時点の話を書くということは、この話は公認のふたりの過去なのだろう。きのことふたりで始めたチャンネルに残りの三人が乗り込んできて「ファイブソサエティ」ができてしまったのなら、山田は被害者と言えなくもない。少なくともあの事件後は、年上の三人のことを嫌っているだろう。山田の性格の悪さが少し描写されるものの、ファイブソサエティ中では一番軽症なのではないか。もしかしたらファイブソサエティは社交性の高さに比例してクズ度も高いのかもしれない。きのこの「いまのやりとり、案外のびそう」はまさにその通りで、書き手はファン心理をよくわかっている。
第4話 心霊フラメンコ
なんとガイドが主役の話。ガイドの一人称視点で語られる。こうすればガイドの本名がわからなくても小説にできる。本名がまったくわからない人物をどうやって主役にするのかという問いに対するすばらしき解決方法で初読時には「その手があったか」と膝を打った。思いがけずフラメンコの解説があり、意外と勉強になった。この調子でスペイン編とモロッコ編も書いてほしい。ガイド氏が主役の異国情緒あふれる話が読みたい。ひとつ残念なのはせっかく公式が監修しているのに結局ガイドの本名はわからずじまいだったこと。原作ゲーム公式サイトの登場人物紹介ページでもキャラ名は頑なに「ガイド」だったので、墓場文庫さまはガイド氏に「ガイド」以外の名を与える気はないのかもしれない。
第5話 止まり木に休息を
自分は誰かの止まり木でいるのが性に合う、というセリフには感動したものの、よく考えると真意がわかりづらい。野外に生えている木の枝ならば野鳥との出会いと別れをくりかえすことになる。鳥かごの中にある止まり木なら、一羽の鳥をずっと捕らえているものの一部である。出会いと別れとくりかえし、一人と深く関わらないのが性に合うのか。それとも、何かを捕えるものの一部であることを肯定しているのか。ジャスミンの性格からすると前者であるはずだが。あのセリフの真意は「誰かの一時的な居場所になるのは苦にならない」という意味だろうか。深入りしないかわりに突き放しもしないのがジャスミン先輩の良いところだ。
おわりに。メディアミックスには意義がある。
正直な話、以前の私はメディアミックスに否定的だった。ただ商業的な動機だけで生産されているもので、作品としてのクオリティは高くないと思い込んでいた。しかし、今回『断篇集』を読んでメディアミックスには大いに意義があることを知った。特に原作がゲームだと、メインシナリオは「プレイヤーにとって面白い」か、あるいは「ストーリー的に必要なもの」の描写だけになってしまい、その世界に住む個々の住民(登場人物)は掘り下げにくい。しかしこれが他の媒体ならどうか。ゲームのようにプレイされることを想定せず、純粋に「物語」で魅せる媒体ならば、登場人物に肉迫することができる。個々の人物に愛着を持ち、ゲーム本編の過去やその後を知りたいファンには大いに意義のある一冊だった。一次創作は苦労するものなのだから、せっかく生み出した世界をしゃぶりつくしたいのは創作者も消費者も同じだろう。どの媒体にも得手不得手はあるのだから、使い分けて表現していくのが正解なのだ。「都市伝説解体センター」というコンテンツを延命するためにも。
以上、ノベライズ『断篇集』でメディアミックスの意義を知った件でした。Amazonへのリンクはこちら(⇩)
蛇足:「トレーナー化してみた」記事に「都市伝説解体センター」の登場人物を追加しました(⇩)