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【井上真偽】『アリアドネの声』はドローン救出劇の傑作!

Amazonでまとめ買いしたうちの1冊、第5弾(第1弾は『奇譚  都市伝説解体センター』です)。といっても植物学の雑学本を追加注文したので近々また本のレビューを書くのですが。長編小説を読んだのは久しぶりなのでちょっと疲れました。今回は井上真偽『アリアドネの声』です(⇩)

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私が読んだのは文庫版。単行本よりも安価に流通させてくださったおかげでまとめ買いの候補に入りました。「三つの障害を持つ女性をドローンで誘導して避難させる」というあらすじを知った段階では抵抗感がありましたが、読んでみて良かったと思います。それでは一読した感想をお送りいたします。

 

抵抗感があったところ

まずはネガティブな感想から。私が抵抗を感じた点は、救助の難度を上げるため、救助される女性が「見えない・聞こえない・話せない」という三重障害に設定されていること。人の障害は現実にある問題なので、むやみにフィクションのネタにするのはどうかと思っています。ポリティカルコネクトネスの観点からするとアメコミ「X-MEN」のプロフェッサーX(あるいはゲーム「都市伝説解体センター」の廻屋渉)みたいに半身不随でもかっこいい人を登場させたほうがいいのはわかりますが。私は当事者ではありませんし親類縁者に感覚器の障害を持っている人がいるわけでもないので当事者の気持ちはわからないのですが、部外者ながら「感覚器の障害をネタにするのはどうなのか」と思います。「現実にある問題」をフィクションのネタにするのは当事者に失礼なのではないか、と思う人にはあまりおすすめできません。フィクションでは細かいことを気にしない人であればオススメ。ドローン救出劇の傑作であることは間違いありません。

 

良かったところ

・救助される女性には三つの障害があるが、無力な人ではない。

・災害救助ドローンが活躍する。

・ただの救出劇ではなく主人公の成長譚でもある。

まず、救助される女性「中川博美」さんについて。舞台となる地下都市「WANOKUNI」プロジェクトの発案者である知事の姪なので、バリアフリーをうたう地下都市に優先的に入居できたようです。地下都市「WANOKUNI」のお披露目会では「見えない」と「聞こえない」を兼ね備えた「盲ろう者」の当事者として演壇に立ちます。そこでのセリフが印象的でした。彼女は言います。「三重苦」と表現するのはやめてほしいと。確かに三つの障害を持っているけれど、これを「苦」だとは思っていないのだと。十年来の介助者が常に同行しているものの、彼女は努力家で、少しでもできることを増やそうとしている。中川博美さんは、ストーリーのうえでは救助される側ではあるものの、ただ受け身な人物ではありません。地下の駅にいた時に急な地震でなじみの介助者とはぐれてしまっても、天井近くの通路に避難しており、生きのびることをあきらめていません。懸命に生きる努力をしていることから、自己肯定感の高さがうかがえます。救助される側だからといって無力な人物として描かれていない点は好感が持てます。

次に、作中のドローンについて。主人公の高木春生(たかぎ・はるお)の勤め先であるベンチャー企業「タラリア」が開発した「アリアドネ」シリーズの一機「SVR-Ⅲ」は、春生の目となり耳となり、たらしたワイヤーを介して中川博美さんを誘導していきます。災害救助というとつい、瓦礫を撤去したり人を抱えて運んだりするところを想像してしまいます。しかし、それ以前に、助けが必要な人を発見しないといけません。要救助者の探査という、補助的なことに特化したドローン。エンタメ作品においては脇役になりそうなマシーンが主役として活躍するのは面白い。脇役にされがちなものにピンポイントで焦点を当てることもフィクションの醍醐味だと思います。ドローン好きの方は一読の価値あり。

最後に主人公の成長譚について。春生は海の事故で兄を亡くしており、兄の言葉「無理と思ったらそこが限界」に捕らわれていました。春生はこれを、無理と思わず限界を乗り越え続けることだと解釈していました。母親の面倒をみながら片道2時間かけて出勤し、兄亡き家を支えてきたのです。今回の救出劇でも懸命にドローンを操縦し「無理」だと思ってしまう状況にもひるむことなく立ち向かいます。しかしこの「無理と思ったらそこが限界」という言葉に新たな解釈がありえることを知った時、春生は兄の呪縛から脱し、冷静な判断ができるようになるのです。ただの救出劇だけではないのがすばらしい。

 

以下、少々ネタバレ注意

意外だったところ

・要救助者「中川博美」の障害に疑惑がもちあがる

中川博美さんは耳が聞こえないし目が見えない、はずでした。しかし、途中で疑惑がもちあがります。なぜ、彼女は壁のスイッチを操作して照明をつけたのか。どうやって、自走するフォークリフトを避けたのか。もしかして彼女は目が見えるのではないか。医師の診断を受け障害者手帳を持っているので先天的には三重障害だったのだろうが、後天的に視力が回復したのではないか。彼女が全盲だというのは事実か否か。この疑惑が本作の分類をミステリーたらしめています。真相はご自分の目でお確かめください。

 

以上、ドローン救出劇の傑作、井上真偽『アリアドネの声』レビューでした。Amazonへのリンクはこちら(⇩)

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