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今回、ご紹介するのは角川ソフィア文庫の『フランス料理の歴史』。
以下、リンクを兼ねた表紙の画像です。
本書は『プロのためのフランス料理の歴史』という本に加筆・修正したものらしいです。元になったこの本は(株)学習研究社から出ているようですが、なぜ他社から文庫版が出ることになったのか。いや、私は知らないですけども。ドラマがありそうですね。
角川ソフィア文庫の『フランス料理の歴史』のカバー袖に著者紹介があるのですが、お二人とも料理史研究家だと。料理人じゃない! この点はちょっと残念ですが、この本を買う人はレシピを読みたいわけではないでしょうから、問題ないですね。知りたいのはレシピじゃなくて歴史だし。
それでは以下、この本の内容を解説します。
角川ソフィア文庫『フランス料理の歴史』概要
この本は美食の歴史本です。中世~2000年代までのフランス料理の歴史を大まかに教えてくれます。つまり、この文庫一冊で約1000年間をフォローしている。冷静に考えれば1000年間を文庫一冊でなんて無茶です。本職の研究家からすれば大まかにもほどがあるのでしょうが、素人が読む分には分量・内容ともにちょうどいい。中世の宮廷料理からレストラン業の誕生・発展までをこの一冊で解説しています。
各章の終わりには、専門用語の説明(脚注)・重要人物の解説があります。加えて、料理名にまつわる由来小辞典+フランス美食史の重要ポイントつき。角川ソフィア文庫版(今、解説している版)ではさらに「フランス料理の現在(2005-2016)跋文にかえて」が書き足され、文庫にしては内容が充実しています。
読んだ感想(印象的だった章)
まず、私が目次を読んでワクワクした章のタイトルを。
・中世●君臨するタイユヴァン
・17世紀●グランド・キュイジーヌの誕生
・18世紀●宮廷のスペ(夜食)
・大革命期●レストラン業の誕生
以上です。特に上からふたつには専門用語が入っており、本文を読まないと意味がわからないあたり、まるでファンタジー小説みたいでワクワクしました。英語のカタカナ表記は見慣れていますが、フランス語だとなじみがないので新鮮! 以下、ここであげた章について感想などを。
タイユヴァンとは、本名ギョーム・ティレルという、ひとりの料理人のことです。この人が何をしたのかというと、当時、口伝に頼っていた料理の作り方を、初めて本に書きました。
料理を最初に本にした人タイユヴァンが働いていた当時(中世)の食卓はどんな感じだったのか。なんとこの時代の食卓には、個人の取り皿もフォークもナプキンもありませんでした。あったのはナイフとスプーンと大皿だけ。フォークはなかったので、指を使って食べていたようです。ナプキンもないので、テーブルクロスの端で指をふいていたとか。ふ、不衛生! 中世ヨーロッパ風ファンタジーでフォークとナプキンを登場させるとつっこまれるのは、こういう歴史があるからなんですね。勉強になりました。
「中世●君臨するタイユヴァン」で他に感動したことは、「高貴な食材」という項目ですね。一部を引用しますと、
貴族が狩りの獲物に目がないのは、それが、貴族としての地位にふさわしい食べ物であると考えたからであった。野生の動物は貴族と同様、生まれながらに自由である。この特権こそ野生の動物を、貴族が食するのにふさわしいものとするのだ。
以上 同書 P43 高貴な食材より
この一節はマジでファンタジーっぽいです。ここだけでも読む価値があるというか、それこそファンタジー系の創作に使えそうなネタです。
次に、「17世紀●グランド・キュイジーヌの誕生」。ここで印象的だったのは、初めてブルジョワという言葉が料理書のタイトルに使われたということと、「香辛料の使用が減る」という項目。
値段は下がり、どんなブルジョワ家庭の食卓にも香辛料が上がるようになった。贅沢品ではなくなった香辛料の価値は、貴族階級にとっては下がる一方である。
となると、料理人はエキゾティックな材料をこれ見よがしに使うことに興味を失い、かわりに調理技術を磨くことに力を注ぐ。
以上 同書 P68 香辛料の使用が減るより
こうして、料理人が先人から継いだ技術を洗練させる動機ができました。17世紀にフランス料理はますます発展していきます。ちなみにグランド・キュイジーヌとは、ルイ14世からフランス革命までの、宮廷、高級貴族の館で出された料理のことだそうです。本文中では、はっきりと「ここに誕生した」とは書かれておらず、いつこの言葉が生まれたのか、読んでもわかりませんでした。この点はちょっと不親切ですが、後世の人がこの時代の宮廷料理をグランド・キュイジーヌと名付けたのかもしれません。
次に、「18世紀●宮廷のスペ(夜食)」。肝心の夜食の詳細よりも、18世紀の料理人たちが錬金術的発想を持ち、
さらに、実験科学の誕生とともに、料理人たちは食べ物のおいしさの源と考えられていた物質の研究を始める。これがオスマゾームである。
以上 同書 P89~90 ムノン 錬金術的料理人の伝統より
という一節のほうが印象に残る章でした。ちなみに、オスマゾームとは具体的に何なのか、本文にも脚注にも書かれていません。もしかして、架空の物質? 科学的にこれと特定された物質ではないようです。
最後に「大革命期●レストラン業の誕生」。「18世紀●宮廷のスペ(夜食)」によると、最初のレストランが誕生したのは1765年頃のプーリ通りらしい。「大革命期●レストラン業の誕生」では、レストランという業界の発展を描いています。
貴族に仕えていた有名料理人たちは、革命のせいで過酷な二者択一に直面した。主人に従って亡命するか。それともフランスに留まって転職を計るか。
以上 同書 P121 偉大な料理長たちがレストランを開くより
へー。フランスでレストラン業が発展したのはフランス革命のおかげだったんですね。知りませんでした。意外な波及効果!
まとめ。おすすめのポイント
おすすめのポイントをまとめると、
・素人でも読める
・一冊でフォローされている期間が長い(約1000年間)
・ファンタジー系の創作に使えそう
・単純に教養としておもしろい
ということですね。文庫だと物理的に軽くて読みやすいし。
以上、角川ソフィア文庫の『フランス料理の歴史』をご紹介しました。
※本記事は2019年12月19日に修正・改題しました。