ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

モルカーは思考実験SFなのでディストピアにしてみた。

今週のお題「SFといえば」

 

「PUI PUI モルカー」は「もしも自動車が愛らしい生物だったら」という思考実験SFだと思うので、作中の世界でありえそうなディストピア化ルートを考えてみました。大まかな流れは「人々のモルカー愛護精神が過熱➡モルカーを害した人間に人権を認めなくなる」というものです。モルカーを愛護したいのならばモルカーの法律上の権利を強くし、モルカーの社会的な地位を向上させればよさそうなものですが、そうするとモルカーを家畜扱いして繁殖させたり売買したりできなくなり、関連産業が死滅して国内経済が大変なことになるので「モルカーの権利を強くする」のではなく「モルカーを害した人間を厳罰に処する」方向に舵を切りました。関連産業を守りつつも国民感情をくみ取ろうとして爆誕した悪法が、通称「無心者法」です。「モルカーを害するのは心無い人間」➡「心無い者は人間とは呼べない」➡「心無い者に人権を認める必要はない」という論理が展開されました。この論理のもと、モルカーを害した者の人権は認めないことを明文化したのが「無心者法」です。こうして考えてみると、悪法が生まれてしまうのにはそれなりの時代背景と諸事情があることがわかりますね。それでは、モルカー社会で起きた社会問題から、悪法が生まれた経緯を見てみましょう。できごとの時系列は上から順に古く、下にいくにつれて新しいできごとになっています。(注:この記事で書かれたモルカー社会問題はすべて私の創作です)

 

・モルカーの新しい毛色や柄が次々に開発されて珍しい色柄の個体が珍重され、取引価格が高騰する。

・「モルカーを買い換えてもよいのは老化・死亡または走行不能の車体障害がある場合のみ」と定められているが、モルカーを故意に死なせて買い替える者が続出した。

・モルカーの安楽死にはモルカー医師(略称:モル医)の免許が必要にも関わらず、無免許でモルカーの安楽死を請け負う業者(通称:モル廃業者)が現れる。

・事態を重く見た政府はモルカーの新たな毛色・柄(通称:モルフ)の作出を禁止する新法をつくり、違反したモルカー繁殖業者(通称:ブリーダー)は厳罰に処した。

・そもそもブリーダーの存在自体を違法化し、モルカー自身が公道上で行きずりの相手と交尾して「自然繁殖」することを推奨しようという案も出されたが却下された。

・モルカーが生涯で一度も道路上を走ることなく、狭い場所で飼育されることは虐待にあたるので、繁殖専用個体の飼育を禁止してはどうかという意見が出る。こちらは新法に採用され、以前からあったモルカー虐待禁止法の罰則が強化される。

・モルカー虐待禁止法の罰則強化にともない、罰する範囲を拡大。モルカー本体への暴力だけではなく、モルカーを罵倒して精神的な苦痛を与えることも禁じられたうえに、加害者が未成年でも刑事罰を受けると定められる。

・モルカー虐待禁止法の罰則を強化した内容には「モルカーを殺害した者は原則的に死刑とする」との文言も含まれていた。これにより、廃止されていた死刑制度が復活。

・政府が「モルカー虐待禁止法の罰則強化内容」を公表したところ、有識者からも国民からも「これでは手ぬるい」との不満が噴出した。

国民感情をくみ取った政府は「我が国ではモルカーを害した心無き者には人権を認めないこととする」と宣言。新法「心無き者の人権に関する法(俗称:無心者法)」をつくる。

・無心者法の成立は国際社会から猛烈に非難されたものの、政府は「法の内容に口出しするのは内政干渉にあたる」と反論して強引に施行。

・無心者法の施行後はモルカーを害した者の人権は認められなくなり、モルカー愛護連盟(通称:モル連)がモルカーを虐待したオーナー(俗にいう飼い主)を集団でリンチするようになる。

・新聞に「本日の処罰予定表」が掲載されるようになり、モルカー虐待者の集団リンチを見物することが流行する。

今ココ➡・モル連に抗議することはモルカー愛護精神に欠ける「無心者」であるとみなされ、モル連と対立するだけでリンチされるようになる。警察はこれを黙認し、市民はこれを娯楽として見ている。

 

…はい、私が創作した「モルカー社会問題」は以上です。我ながら順調にディストピア化していますね。ここまで読まれてお気づきの方もいると思いますが、一連のできごとのなかでモルカーの権利を強くする動きはなく、結局のところモルカーの社会的な地位は家畜のままでした。国民の応報感情によって、モルカー虐待者への罰則を強化する方向性でしたね。どさくさに紛れて死刑制度が復活したことを喜んで利用する人たちも出てくるかと思いますが、それはまた別のお話です。

実はさらに悪化した「モルカー愛護精神がある者にのみ人権を認める」というバージョンも考えていましたが、わかりにくいしドラマチックでもないので割愛しました。

私はこの記事を書いて気がつきました。ディストピアへの道はみんなの善意で舗装されてるのかもしれない、と。舗装された道のほうが歩きやすいから、みんなついそっちへ行っちゃうんでしょうね。

 

以上、モルカーは思考実験SFなのでディストピアにしてみました。

 

追記:この記事の公開後に読者様が増えました! 登録ありがとうございます! 特にSFに強いブログではありませんが、末永くおつきあいいただければ幸いです。最近読んでいるのはライトな学術書が多いです。