ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

『植物はなぜ動かないのか』を読んだ。言われてみれば不思議。 

目次

 

今回ご紹介するのは、ちくまプリマー新書252『植物はなぜ動かないのか 弱くて強い植物のはなし』です。筑摩書房から2016年に出ています。

 

「装幀」はなんと、クラフトエヴィング商會! 新書の装丁までしていたとは知りませんでした。実はこの本、近所の図書館の蔵書にありまして。現役の司書さんが選んだ本なんだ。わかりやすくてためになるに違いない! ということで借りてみました。時にはこんなふうに本と出会うことも。読んでみたらおもしかった! 知らなかったことがたくさんありました。あまりにおもしろかったので、返却後に自分で買いました。たまにはご近所の図書館をのぞいてみてください。月一ぐらいの頻度で、新しい本が入っているはずです。意外と蔵書が入れ替えられてます。図書館にも新陳代謝があるのです! 

話がそれましたね。失礼しました。それでは以下、本書を解説させてもらいましょう。

なお、解説の順序と本書の章構成は一致していませんのであしからず。

 

植物はどうやって生まれたのか?

ある単細胞生物ミトコンドリアと先に共生をしていて、その後、一部の細胞が、さらに葉緑体となるバクテリアを取り込むことによって動物の祖先と袂を分かち、植物の祖先になったと考えられているのである。

 以上、同書P19 より。

 

人間にあるミトコンドリア。これは植物にもあります。ミトコンドリアは元々、別の生物で、共生を始めたことで今の形になったのは植物も同じです。植物の祖先は、ミトコンドリアのあと、葉緑体もとり込んで栄養分をわけてもらうことで、動かなくても生きられるようになったのです! 葉緑体バクテリア)は、光合成をしてつくった栄養分を分けてあげるかわりに、光合成ではつくれない栄養分を分けてもらい、お互いに得をしています。このへんは学生時代に習ったのかもしれませんが、私は覚えていませんでした。

 

植物の進化 草と木ではどちらが新しいか

幹を作り、枝葉を茂らせる木の方が、より複雑な進化をしているように思うかもしれないが、じつはより進化をしているのは草の方である。

 以上、同書P77 より。

 

これは知らなかった! 草の方が新しかったのですね。本書によると、草が生まれたのは白亜紀の終わりごろと言われているそうです。一つだった大陸が分裂し、さらに衝突して山ができ、山ができたことで気候が不安定になりました。こんな環境で、悠長に大木になっている場合ではありません。 不安定な気候に対応するため、短い間に成長して花を咲かせ、種子をつくって世代交代をする「草」が生まれたようです。よく考えてみれば草は、大木に比べて寿命が大きく減ってしまっています。では、わざわざ寿命を縮めるように進化したのはなぜでしょうか? それは、より早く環境の変化に適応するため。世代交代の速度を上げれば、それだけ早く環境の変化に適応できます。杉などは千年も生きられますが、千年もの期間、環境が変わらない保証はありません。環境が激変すれば、あっさりと枯れてしまうかもしれない。それならばいっそ、一年ごとに世代交代すればいい。「草」という植物は、思い切りがいい方々なのです。

 

おわりに。植物は人間を利用している?

種子をまき、水を与え、肥料を与え、害虫や雑草を取り除いて世話をしてくれている。栽培植物にとって、人間はこの上なく便利な存在なのである。

 以上。同書P119 より。

 

一見しただけでは、野菜は人間にいいように利用されています。キャベツなどは花を咲かせる前に、ピーマンは熟す前に収穫されて食べられてしまいます。とても野菜が人間を利用しているようには見えません。

しかし、植物が花を咲かせ、果実をつくる理由を思い出せば、見方が変わります。花を咲かせるのは、虫を呼び寄せて繁殖するためです。それならば、繁殖さえできれば花を咲かせなくてもいい、ということになります。花をつける前に食べられても、種全体としては問題はありません。

また、果実をつくるのは、遠くまで種子を運んでもらい、繁殖地を広げるためです。ならば、他の手段で繁殖地が広がれば、種子をつくらなくてもいい。品種改良の結果とはいえ、タネなしブドウが実現したのはこのためかも。

人間は、植物に頼まれたわけでもないのに、勝手に原産地から世界各地に植物を持ちだして、繁殖地を広げてくれています。つまり、人間に気に入られた植物(野菜・果物・穀物・園芸種)は、人間を利用して繁栄しているのでは。これは、言われてみればその通り。しかし、本書の指摘を読むまでは思いつかなかった、驚きの見方でした。植物って、意外と強かに生きているのですね。

 

以上。ちくまプリマー新書より、『植物はなぜ動かないのか』を

ご紹介しました。

 

※本記事は、2020年3月26日に修正しました。