ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

【集英社文庫】武田砂鉄『マチズモを削り取れ』読んでみた。削ったら痛いんじゃね?

集英社文庫でも夏フェアが始まったので、5月に文庫化された『マチズモを削り取れ』を買ってみました。NHK「100分で名著」に出演された武田砂鉄さんの著書として紹介されたのを見て読んでみたいと思っていたのですが、単行本だとちょっと高価。急いで読みたい内容でもなかったのでほしいものリストに入れたまま忘れていたのですが、集英社の公式サイトを見たら文庫のラインナップに入っているではありませんか!(⇩)

www.shueisha.co.jp

これはもう読むしかないのでは!?  と、喜んで買いに行きました。実を言うと一番ほしかったのは限定カバー版『きまぐれロボット』でしたが。2冊とも買えてよかった。『ボッコちゃん』以外をチョイスし、なおかつ新潮文庫とかぶっていないとは。今年の集英社は目の付け所が良い…と、星新一作品についてはこのへんにしておきましょう。本題は『マチズモを削り取れ』の感想です。

女性にも参政権が与えられたり男女雇用機会均等法ができたり「痴漢は犯罪」という認識が広がったり女性専用車ができたりしましたが、それより後、現代日本でわかりやすく進歩した部分はあったでしょうか。2000年代でもまだ高校生が電車内で痴漢にあう時代でしたが、この20年で少しは件数が減ったのでしょうか。まあこれは構造的な問題であり、朝の通勤ラッシュによる「満員電車」という状況そのものがなくならない限り、痴漢問題は解決されないと思いますが。男性のほうが大柄かつ筋肉質になりやすいという生物学的な差異がある以上は「威圧するな」「暴力を振るうな」といっても限度がある気がしますし。もしかしたら、電車通勤がなくてボディラインの見えない服(和服)を着ていた時代のほうが今よりもセクハラは少なかったのかもしれません。少なくとも、痴漢問題の半分は環境のせいです。同じ状況でも痴漢しない人もいるので、もう半分は自制心の弱さ(性欲の強さ)のせいでしょうが。思えば、現代では身体的な特徴(大柄で筋力が強い)を存分に活用して良いのは肉体労働およびスポーツの場だけで、それ以外のところで筋力に物を言わせると犯罪になりがちなんですよね。私も父に殴られたことあるし。「身体能力を発揮してもよい状況が限られてる現代社会が辛い」と思って居心地悪く感じてる人もいるんじゃなかろうか。私は、日本で女性の地位が向上してきたのは産業化が進んで頭脳労働の比率が高まり個人の筋力に頼ることが減ったからで、男性の意識が向上したからではないと思います。この本は、こういう根本的なことには言及していません。なぜかといえば、本書はウェブ連載された記事をまとめたものだからです。連載にはテーマがあるので、そのテーマに合った事例について調べたり取材したりして記事に仕上げるわけです。最初から問題提起のみが目的で、男女差別の解決策を提示する気はない。だってそれは連載のテーマに含まれてないから。これを前提にして読まないとがっかりします。現に私はちょっとがっかりしました。ひとつ救いだったのは

この本に解決策が並んでいるわけではない。

文庫版P328「おわりに」より

と著者が自ら書いてくださったことです。解決策が提示できていない自覚をお持ちでよかった。この一文がなければ「解決策が書かれていない」とレビューしてしまうところでした。解決策を提示するには専門知識が必要なので、漠然と「男女不平等な気がする」「このままだと良くないのでは」「なんか気持ち悪い」と思ってるだけの人には考案できません。だからこれはしかたない。ただちょっと残念なのは著者の武田氏に、他人に威張ることしかできない人の弱さについての理解がなさそうなことです。異性の事情について理解しうるためには心に余裕が必要ですし、社会が男女平等になっても困らないのは生活に余裕のある人だけです。真の問題点は男女とも心に余裕がないことなのでは?  対話ができないのはお互いに余裕がないからなのでは。正論でもってゴリゴリと差別意識を削り取ったら痛いんじゃないですかね、相手の心は。「削り取る」という表現で対決する姿勢を打ち出してしまったことが、そもそも問題なのでは。差別を軽減する第一歩は歩み寄りだと認識したしだいです。対決姿勢では何も解決しないことを教えてくれてありがとう武田氏。

 

以上、武田砂鉄『マチズモを削り取れ』読んでみた件でした。一読する価値はあったのでよし。