ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

【ネタバレ注意】マンガ『ブランクスペース』は「クラフト系少女が透明な犬と戦う話」だけではない。

 

マンガ『ブランクスペース』はカバーイラストが白っぽくてすっきりとしたデザインだったので初見で気に入りました。おまけに全3冊で完結しており名作の予感がします。「3巻以内で完結してるマンガは名作」というのが私の持論なのです。この冊数なら気軽に読めることもあり、知らない作者さんの作品でしたが、アマゾンの書籍まとめ買いキャンペーンに参加するためにも注文してみました。『ブランクスペース』は帯のアオリ文やアマゾンのあらすじを読んでいると、不可視なアイテムを作れるクラフト系能力者少女が、うっかり生まれてしまった不可視な犬と戦う話のような印象を受けます。しかし、実際に読むとそれは広げた風呂敷をたたんで物語を収束させる手段としての展開であり、作者が真に描きたかったシーンではなさそうでした。これはあくまでも私の想像ですが、本作で作者さんが真に描きたかったシーンは、透明な物を使っている場面だと思います。なぜならば、作者さんが序盤で能力者少女スイちゃんにつくらせるのは風船やハサミやトースターという他愛ないものだから。見えない風船を割り破裂音をさせてカラスを驚かせてみたり、見えないハサミで紙を切ってみたり、見えないトースターで食パンを焼いてみたりします。座卓の上に浮かんだ丸見えの食パンが「チン!」という音とともに焼きあがる、この絵面が面白い。作者さんが描きたかったシーンはむしろこちらなのでは。これを表現したいがために「透明なものをつくれる女の子」というアイデアを思いつく➡その女の子、スイに何をつくらせれば面白いかを考える➡それをつくる動機を与える存在として友達のショーコを生み出す➡大団円にすると決めるも透明な犬の始末に困る➡終盤にたくさんの味方キャラを登場させて場を収めることにした、という流れで描かれたのかも。序盤はほのぼのとしたファンタジー系でしたが中盤はシリアスに展開し、うっすらとバッドエンドの予感さえ抱かせつつもそれはミスリード作者さんは主人公ショーコも能力者少女スイも救う気満々で、多少コメディタッチにしてでも大団円に持って行くと決意していたのでしょう。自分が生み出したキャラクターを演者とは思わず我が子のように愛し、最終的にはハッピーエンドを迎えさせてあげるタイプの作者さんなのかもしれません。昨今は愛らしい絵柄でえげつない内容の作風が流行っているようですが、少なくとも『ブランクスペース』はそういう作風ではありませんので安心してお読みください。絵柄から受ける印象そのままの、優しい物語です。スイちゃんがつくる透明な道具と意思のある「空白」たちとの関係がわからなかったり、誕生の経緯が説明されないまま急に登場する「空白」たちが終盤で公園に駆けつけたりとご都合主義も散見されますが、ハッピーエンドを読みたい方にはオススメ。ただし、中盤には能力者少女スイちゃんがいじめられている描写があるのでHSPの方にはあまりおすすめしません。いじめ描写としてはかなりマイルドではありますが、マイルドすぎて妙にリアリティがあるので困る。ホントにいじめる人って毎日あきずにいじめてくるので、手間のかからない単純な方法をとりがちで、加害者が女子の場合はあからさまな暴力は振るってこないものです。いじめというより嫌がらせぐらいの域で止まるのでケガはしないんですが、毎日降り積もると地味に嫌なんですよね。あ、話が逸れましたね失礼。『ブランクスペース』の話に戻りましょう。このマンガは読む人の年齢によって、登場人物の誰になりたいと思うかが変わると思います。10代ぐらいの子が読むとスイちゃんみたいな能力者になりたいと思うかもしれませんが、私はショーコちゃんになってスイちゃんの能力を眺めたり、スイちゃんの危機に駆けつけたりしたいと思います。大人になってくると、無難・平凡・健常など、いわゆる「フツウ」になりきれない人の苦しさがわかってくるので、スイちゃんみたいになりたいとは思いません。むしろスイちゃんの友達になり、スイちゃんが大人になっても能力を失うことなく生きられるように支えたい。初読では傍観者としてスイちゃんの能力を面白がってオチを楽しみにしているのですが、2回目からはショーコちゃんの気分でスイちゃんを助けてあげたくなる。『ブランクスペース』は読んだ人をいつの間にかショーコちゃんにしてしまう、恐るべき影響力のあるマンガです。あなたもショーコちゃんになって能力者少女を救いませんか?

 

以上、マンガ『ブランクスペース』は「クラフト系少女が透明な犬と戦う話」だけではないことをお伝えいたしました。