Amazonの本のまとめ買いキャンペーンで合計10冊買いまして。このうちの1冊が『大人の語彙力大全』という文庫なんですが。これがまあ、おもしろくない。語の意味の他に用例や誤用まで書かれているのはありがたくて勉強になるんですが。6章の「漱石語」コーナーは上品で素敵ですが、まとまった時間に通し読みしようとすると退屈。ビジネス用語の他に一般語彙までフォローしようとしたせいで『オトナ語の謎。』よりも収録語数が少なくなっています。他に『大人の語彙力大全』をつまらないと思ってしまう理由は、読者が想像できないこと。糸井重里監修の『オトナ語の謎。』は、これから社会人デビューする人にむけて書かれているのが明白でした。収録語は現役事務職が実際にオフィスで使っている言葉に絞られており「内定もらったけどオフィスでの会話についていけるか不安」という学生にむけて書かれているのは明らか。これに対して『大人の語彙力大全』はどんな人に読ませようとして書かれたのかわからない。ざっと読んだ印象では、大学生むけでしょうか。収録語には「顰蹙」がありまして、これが読めない人むけなんだろうなと。しかし「ライトノベル」も収録されているのが謎です。「顰蹙」が読めない若者でも「ライトノベル」は知ってるどころか「ラノベ」と略するぐらいに親しんでいます。若者むけの本を目指しているのであれば「ライトノベル」はいらない語でしょう。逆に「顰蹙」が易々と読める中高年を読者に想定しているのならば「ライトノベル」は収録するべきですが、そうすると1~3章の「一般語彙」コーナーはざっくり削り、若者と話す時に必要な語彙を多く収録したほうがよいのでは。それに「ライトノベルは主に書き言葉で使用し、話し言葉ではラノベと略されることが多い」という記述はほしかったですね。(後日確認したところ「ライトノベル」の説明文には「ラノベ」という表記がありました。)「ライトノベル」という語は省略形である「ラノベ」表記まで含まなければ意味を説明したことになりません。実際にはどのように発話される語なのかまで書かないと実用的でない。この点では、書き言葉と話し言葉の両方の用例を記載していたオタク用語辞典『大限界』のほうが丁寧でした。「リモートコントローラー」を「リモコン」にしたり「パーソナルコンピューター」を「パソコン」にしたりする。しかもそれで通じるのが日本語の特徴なのですから、その特徴に則った説明をしてほしかった。長ったらしい言葉を省略するのは下品でも怠惰でもなく、ただの特徴なんですよ、先生。そういう慣習なだけなんですって。もういっそ省略形を見出し語にして本文に正式名を書いたらどうでしょうか? 「リノベーション」は「リノベ」、「フレキシブル」は「フレキシ」と発話されることのほうが多いのでは。用例が書き言葉に偏っている気がしますし、解説も書き言葉を前提にしている気がします。教授といえば学者さんですから、書き言葉のほうに注目するのはしかたないのかなと思って著者紹介を読んだら、専門分野に「コミュニケーション論」とあって驚きました。著者が話し言葉に興味がないわけではなくて、ただ単に「語彙不足の読者に言葉を教えてやろう」という啓蒙的な考えが透けて見えるのが、本書をつまらなくしている原因だったのか。『オトナ語の謎。』は糸井さんが対面で「社会人なりたてでわかんない言葉も多いよね。よければぼくが説明しようか」と話してくれている感じなんですが『大人の語彙力大全』を読んでると授業を受けてる気分になるんですよね。実用性とおもしろさを両立させるのは難しいんだなあ。「つまらない」と思ってしまいましたが、齋藤先生、おつかれさまでした。
以上、『大人の語彙力大全』読んでみた件でした。ぶっちゃけ『オトナ語の謎。』のほうがおすすめ。
2024/1/31追記:後日また読んでみたら「ラノベ」という表記があったので本文を訂正・加筆しました。「ライトノベル」の説明文には「ラノベ」がありましたが「コンプライアンス」の説明文に「コンプラ」という表記はありません。「ラノベ」はあまりにもメジャーな表記なのでふれないわけにはいかなったのでしょう。追記するために索引を使ってみましたが、使いづらい。「持ち歩いてるけど愛着がわかない本」という、新たなパターンの経験です。