ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

『名称未設定ファイル』読んだ。思いがけずSFも読めて嬉しい。

 

品田遊 著『名称未設定ファイル』(朝日文庫版)を読みました。インターネットを職業にしている人が書いた小説が読める貴重な一冊です。インターネットを本業にしている人なのだからインターネットの長所や輝かしい未来を描いてもよさそうなものですが、品田氏は描きません。むしろ、現代日本人のインターネットの使い方がいかに滑稽であるかを描いています。本書で面白いのは、インターネットやモバイル機器を題材にしたものだけでなく、SF短編も含まれていること。著者の反出生主義が垣間見える「過程の医学」、誰も不幸にならない世界が実現するまで世界をリセットし続けている「ピクニックの日」、惑星の時間が解凍される「クラムゲートの封は切られる」の3編は明らかにSF。「ピクニックの日」と「クラムゲートの封は切られる」は、翻訳ものだと錯覚しそうでした。予想外に海外SFを彷彿とさせる文体の作品が読めて嬉しい。こういう、帯のアオリ文やカバーのあらすじからは予想できないテイストの作品を読めたりするのも短編集の良いところ。私はやっぱり抒情性よりアイデア(題材)で勝負している作品が好きです。私が小説に求めているのは感動ではなく「そうきたか」という驚きだから。この視点からすると「猫を持ち上げるな」はありきたりというか、些細な問題をグロテスクに拡大する作風には既視感がありました。乱暴に言ってしまえば筒井康隆っぽい。初読の時は「自分でも書きそうな作風だし、わかりやすくて好き」だと思っていたんですが、収録作を全て読んだ後ではむしろ、わかりやすすぎて面白みに欠ける。本書の収録作でおすすめなのは、スマホを使ったトリックがサクッと読める「カスタマーサポート」と、著者の価値観がわかる「過程の医学」ですね。「過程の医学」は実在する書籍『家庭の医学』をもじったタイトルにしたかっただけで内容を表している題名とは思えませんでしたが、皮肉なオチは好きです。タイトルと内容のつながり度合でいうと「1日5分の操作で月収20万! 最強ブログ生成システムで稼いじゃおう」が一番かと。私は察しが悪いので初読ではタイトルと内容のつながりがわかりませんでしたが、2回ほど読めばわかるかと。「私は無意味に生成された」と言うブログ生成システムちゃん可哀そう。よく考えたらこの一編はSEO×反出生主義のハイブリッドなのかもしれない。個人的に応援したいのは「この商品を買っている人が買っている商品を買っている人は」の見えない支配者ですね。がんばれ!全人類を自在に(これは自己選択だと錯覚させたまま)操作して理想のジオラマ(世界)をつくるのだ支配者ちゃん! こういう、画一的でない支配という発想はなかったので新鮮でした。この支配者さんの理想がいつか実現しますように。私が祈るまでもなくすでに実現してるのかもしれないけど。

 

以上、とりとめのない内容になりましたが、『名称未設定ファイル』読んでみた感想でした。SFも読めるのでオススメ。