ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ』は軽快なエッセイだった。

推しのブックカバー使いたさに文庫を買ったら、カバーの高さが余った。商品説明では文庫サイズと書いてあったけど実際には新書サイズじゃないか!(⇩)

文庫を入れると上が5mmほど余ります。なぜだ。

誰ですか実寸も測らずに「文庫サイズ」なんて表記した人は! これだからネット通販は無責任でいかん。

ということで今回ご紹介するのは、鳥類学者の川上和人 著『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ』です。鳥類の生態よりも著者の野外研究体験記や、個人的な見解が書かれた軽快なエッセイでした。章ごとに扉絵があり、挿絵もありと、本文を読む前からとっつきやすい印象です。挿絵があるとは思わなかったので嬉しい。私が読んだのは新潮文庫版なので、単行本よりも親しみやすくしたのでしょう。「畠山モグ」さんのイラストが良い味を出しています。絵本のように優し気な線で扉絵の人物を描いておきながら、本文中の動物画は写実的で博物画風。すばらしい。本当に画力のある人は画風を自在に変えられるんですね。エッセイに挿絵がつくと、より楽しい。

それでは本文について。といっても、初読が一番楽しい本なので、ここであまり詳しく述べるわけにもいきません。特に、本文中にちょいちょい挟まれるパロディやアニメ・マンガネタは初読が一番笑えるので、ここでは具体例を述べないでおきましょう。パロディは主題ではないことですし。やはり一番の読みどころは、無人島「南硫黄島」へ上陸調査した体験記でしょう。この島はどこも断崖絶壁で浜らしい浜がないのでボートですら上陸できず、荷物を背負って泳いで上陸。これだけでも大変なのに、さらにルート工作班は山頂に登ってロープを設置し、後発隊が登れるように準備。いつの間にか失われた眼鏡をサングラスで代用しながら夜の暗さを嘆く隊員。ヘッドランプをつければハエが口に飛び込んでくる状況で生きた鳥を捕まえて標本にする著者。海辺でヤシガニをみつけてはしゃぐ植物学者。ヘルメットとトランクスだけを身に着けて記録映像を撮る水棲動物学者。いかにも一般人が思い浮かべる「変人」のイメージそのままの人々が、23名も集まって小さな島を調査する。人によっては理想的な状況でしょう。こういう一行のメンバーになれたら、人生は楽しいに決まってる…と思いがちですが、バツイチの隊員も多いらしい。自分が変人として生きるのは楽しくても、変人の家族は大変なのかもしれません。家庭生活をあきらめないと変人道は極められないんだなあ。他にも赤裸々なことが書かれていて、クスッと笑えます。著者の英語力が低すぎて研究発表で質疑応答ができなかったかとか「共同研究とは苦手なことを他人に押しつけること」だとか「調査の何十倍もの時間をデスクワークに費やす」だとか。『バッタを倒しにアフリカへ』を読んだ時も思いましたが、生物系の研究者は野外調査が過酷で大変だし、そもそもプロ研究者は英語ができないといけないし。学者さんも、素人が思うほど気楽な商売じゃないんですね。好きなことを職業にすることはできるけど、楽しいことだけして生きることはさすがに不可能なんだと思いました。しかし、著者の文体に悲壮感はありません。この本は良くも悪くも、生物研究の楽しさを語っています。求人広告が人員募集の釣書ならば、この本は、未来の鳥類学者の釣書だと思えばいい。良いことばかり書くとミスマッチが起きかねませんが、まず良いことを書かなければ人が集まらず、後進が育ちません。だから著者さんにはこれからも、気兼ねなく楽しげな本を書いてほしいと思います。

 

以上、推しのブックカバー使いたさに買った文庫をご紹介してみました。生物学者になりたい方にオススメ。

 

 

追記:この記事の公開後に読者様が増えました! 登録ありがとうございます。☆をいただいたのは映画の記事でしたが、残念ながら映画鑑賞の頻度は少なめです。なんの専門性もないブログですが、末永くおつきあいいただければ幸いです。

 

※この記事は2023/8/3に画像を加えて改行しました。