ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

『世界征服は可能か?』読んでみた。支配者になりたい人はこれを読め!

岡田斗司夫著『世界征服は可能か?』ちくまプリマ―新書061読んでみました。

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 前々から読んでみたいなと思っていた一冊。読んだ感想を一言でいうと「めちゃくちゃおもしろい!」です。フィクションでは断然悪役派。むしろ自分がボスになって世界を支配したいと思っている。そんな人にむけて書かれた本です。本書は主題は壮大なのにページ数は190ページしかありませんが、フィクションと現実の歴史を織り交ぜて語られるおもしろさと濃密さに飲まれていると、わずか190ページとは思えないほどの読後感が得られます。

 もうちょっと詳しく、この本をご紹介しましょう。まずは、著者自身による本書の概要。

 格差社会といわれる現代、希望すら持ちにくくなってしまっている現代社会。いっそのこと、一度全部破壊してやりなおせたらいいのに、と思ってしまったこと、ないですか?
 そこで、この本は「現実に世界征服してみたらどうなるか?」を具体的にシミュレーションしてみた本です。いったい「世界征服」って何なのか。本当に「世界征服」って可能なのか。自分が征服するつもりになって、一度まじめに考えてみた本です。

『世界征服は可能か?』P22より

 おわかりいただけたでしょうか。要するに、現代社会に不満を持ちつつ世界征服に憧れている人にむけて書かれた本なわけですね。しかし、漠然と「世界を征服したい」と思ったところで、素人には具体策どころか、大まかな手順さえわかりません。そこで著者が色々と教えてくださるわけです。まず、世界征服をたった一人で成し遂げるのはピッコロ大魔王ぐらいにしか不可能だから、まず仲間を集めなければならない。そのためには目的=理念が必要。あなたが世界を征服したいと思う理由を明確にして、それを主張して広める。共感してくれる人たちが現れたら仲間(手下)にする。仲間が集まったら資金調達する。資金調達したら武器を用意する。武器が用意できたら世界に戦いを挑む…といったことが書かれています。なるほど。「悪の組織」はこんな過程で設立されていたんですね!  まあ「現実的に考える」がコンセプトの本なので、逆にこれ以外の過程があるのかって話ですが、改めて考えるとかなりの時間と労力がかかっていることがうかがえます。こんなに苦労してつくった組織が、正義感に燃えてるだけの人や、超人的な力を持つ子供に潰されたりするんですから、構成員の人たちはやりきれないでしょう。本書を読むと、ボスだけではなく構成員の人たちにまで同情してしまいます。

 本書は世界征服の手順を解説しているだけでなく、悪のボス=支配者を分類して分析しています。本書では支配者を「魔王・独裁者・王様・黒幕」の4タイプに分類しており、自分がどんな支配者になりたいかを考える参考になるのと同時に、悪役好きの人には「自分はどんなタイプの支配者が好きか」を考える機会を与えてくれます。本書の分類に従うと、私は断然「独裁者」タイプが好きですね! 妙な思想を振り回すことなく、部下以上に働き、責任感が強い。加えて悲壮感があるとなおよしなんですが、これは私の性癖なのでおいといて。支配者タイプ別に、世界征服する際の注意点まで書かれているのですから親切ですね! 著者の「世界征服したい人の力になりたい」という思いが伝わってきます。勤勉な独裁者タイプの方は、過労死にご注意くださいね。

 さて。この記事も少しばかり長文になってきましたので、ここらで本書の結論をお伝えしましょう。本書の結論は「世界征服にうまみはないが、実現することはおそらく可能」というものです。以下、もう少し詳しく解説しますが、説明が不要な人は、ここで読み終えてもらってかまいません。

 まずは「うまみがない」という指摘について。無事に世界征服を成し遂げたら、あなたが人類の管理者になります。すると、すべての国際問題が全部あなたのせいにされてしまうので、割に合わないという。たとえば、宗教戦争や民族紛争や領土問題などなど。あらゆる国際問題に対して「おまえが解決しろ」「なんとかしろ」と言われてしまう。仲裁するにしても双方が納得する解決策を考えなくてはいけないので面倒くさい。だから割に合わない、と指摘されています。確かに面倒ですね。私のようにあらゆる責任から逃亡している人は「人類の管理者」には不向きです。ただ威張りたいだけの人もむいてない。こう考えると、世界征服の目的は人類の絶滅というほうが後腐れがなくて良い気がしてきますね。管理する手間もないし。

 次に「おそらく可能」という指摘について。今までのように帝国主義的な、暴力に訴える方法や一民族だけによる支配では、どうしても反発を招くのでうまくいきません。そこで著者は、もっと時代に合った「悪の組織」を考えます。それはボランティア団体みたいなもので「案外ハートウォーミングな合言葉で集まっている団体*1」ではないか。フェアトレードや対面での交流を推奨し、お年寄りを大切にして、ネットに頼らず目上の人の言うことに従う。こういった価値観の団体が、現代のグローバル社会に逆らう「悪の組織」なのではないか。自由経済やインターネット社会に逆らう団体が、今どきの「悪の組織」である、と。なるほど。これは確かに現代版「悪の組織」たりえますね。主張が道徳的なので糾弾しにくいから質が悪い。おまけに少し儒教的なので、アジア圏だと「悪」だと気づかれないかもしれません。なんて凶悪なんだ。「悪」の定義は時代によって変わることがわかっただけでも収穫でした。

 あまりにも長くなってしまったので、まとめます。

・『世界征服は可能か?』は、世界征服したい人への指南書である。

・アニメやマンガのボス、歴史上の人物など、先人たちの豊富な実例であなたを導く。

・支配者を分類。自分のタイプを知ってから、注意点を読もう。

・世界征服が終わったあとは、どうする?

・シミュレーションが終わったら、改めて「悪」の定義を考えよう。

・現代の価値観に「NO」を!

・どんな価値観なら、世界を征服できるか?

 

『世界征服は可能か?』はこんな本です。少しでも「世界征服」に興味を抱かれた方は、ぜひ、ご一読を。

 

以上、『世界征服は可能か?』読んでみました。ここまで読んでくれてありがとう。Amazonへのリンクはこちら(⇩)

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*1:本書P185より