目次
前置き
みなさん、ゲーム「ポケットモンスター」本家シリーズにおいて「とくせい」という要素が実装されたのは第三世代のホウエン地方編からだったことは覚えていらっしゃるかと思います。これ以降のタイトルにはポケモンの「とくせい」があったわけですが、ポケットモンスターシリーズ最新作「ポケモン レジェンズ アルセウス」の舞台ヒスイ地方には「とくせい」がありません。これは「ポケモン レジェンズ アルセウス」が一部で「外伝」と呼ばれている理由のひとつでしょう。今までにも、ダブルバトルやローテーションバトルやメガシンカやZ技やダイマックスといった新要素が加わったり廃止されたりしてきましたが、「とくせい」が廃止されることはなかったと記憶しております。「とくせい」というのはそれほどまでに根本的な要素で、これが加わったことによりポケモンバトルはより複雑化して難易度が上がるとともに面白くなりました。新種をゲットするとまず、タイプと「とくせい」を確認したものです。「とくせい」を見ることはワクワクするのと同時に、人間にはマネできない特殊能力を印象づけ、ポケモンたちはやはりモンスター(怪物)なのだなと感じさせられました。
では、彼らはいったいいつ頃から「とくせい」を身に着け、モンスター化していったのでしょうか。「とくせい」が出現したのはルビー・サファイア版からですが、私はそのようなメタ的な分析がしたいのではありません。作中世界について少し真剣に考察したいのです。私は、ヒスイ地方は「ポケモンにとくせいがない次元のパラレルワールド」説を却下しました。そして、ヒスイ地方は単純に過去のシンオウ地方であり「ポケモンにとくせいがあるシンオウ地方と同じ世界線にある」説を採用しました。以下、私の考察をお話ししたいと思います。まずは、私が考えた「ポケモンがとくせいを身に着けたのは古代ホウエン地方である」という伝説をお聞きください。
とくせいについての伝説:流星の民より聞き取り調査報告
ハルカという少女がレックウザを従えて隕石を砕きホウエン地方を救った。後日、彼女はポケモン協会が開いた記者会見に出席し、マスコミの前で「ヒガナ」という少女について語った。ヒガナは「流星の民」という古い一族の末裔であるという。私はこの話に非常に興味を感じて「流星の民」について調査し、少女「ヒガナ」あるいは流星の民への接触を試みた。先日ついに流星の民との接触に成功し、本日は長老に面会して、ある伝説について聞き取りをする予定である。非常に楽しみだ。
以上、ホウエン地方民俗研究会所属博士の日記より抜粋
以下は、私が長老から聞き取った伝説の要約である。
・ヒワマキ、キナギ、ルネの住民と流星の民は、ホウエン先住民の子孫である。
・ホウエン先住民はポケモンを「獣」や「お隣さん」と呼んで隣人とみなし、誠実に接することを心がけていた。ポケモンたちは、限りある陸地を分かち合い、無限の海を共有する仲間であった。
・これに対して、本土からきた渡来人は野生ポケモンを資源とみなし、人に飼われているポケモンは個人の所有物とみなしていた。
・渡来人は、石と木の実でできた道具「ケモノ玉」をホウエン地方に持ち込んだ。これは、現代で言うモンスターボールである。
・渡来人は職人がモンスターボールを作り、若者が野生のポケモンを捕まえていた。
・渡来人はポケモンを捕獲する作業を「ゲット」と呼んでいた。
・渡来人の若者はゲットしたポケモンを使って野原や山林の野生ポケモンを追い払い、人間が占領する地域を着実に広げていった。
・「ゲット」を見た先住民の若者は感銘を受け、ポケモンは隣人ではなく下等な畜生だとみなすようになり、村の老人たちと対立した。
・先住民の若者は、畜生にすぎないポケモンたちを気遣う老人たちに反発し、渡来人からモンスターボールの製造法や、ポケモンの捕獲方法を学び、自らポケモンをゲットするようになった。・先住民の若者は自らの手でゲットしたポケモンを従えて村へ戻った。村でポケモンを働かせ、ポケモンは人間の命令に従うことを証明した。
・これによって先住民の若者たちは、ポケモンは低知能な畜生にすぎないことを示したが、村の老人たちは認めなかった。
・渡来人はポケモンの養殖にも成功しており、ポケモンの卵を生みの親からとりあげ、集落の子供たちに与えて孵化さていた。
・孵化したポケモンは、孵化させた子供の所有物になった。渡来人は幼い頃からポケモンを使役する方法を学ぶのだ。
・渡来人は、ポケモンの誕生から死までを間近で観察することがポケモンを理解する正しい手段であると信じていた。
・渡来人はポケモンを理解することでポケモンと「共存」できると思っていた。
・「獣たちと共存する」と言っておきながら獣たちを捕獲し追い払う渡来人たちを、先住民の老人たちは警戒した。矛盾した言動のように見え、信用に値しなかったからだ。
・しかし渡来人には渡来人なりの「共存」観があった。渡来人の言う共存は、豊かな土地に人間が、不毛な土地にポケモンが、それぞれ分かれて暮らすことを意味していた。小さなポケモンを捕獲するのも、大きなポケモンを追い払うのも、殺生を避けて穏便に共存するための手段である。
・これに対して先住民の言う「共存」は文字通り「共にある」ことを意味し、野生のポケモンと人間が隣り合って暮らすことはあたりまえだった。
・しかし、先住民の「共存」観は徐々に廃れていった。ポケモンを働かせれば楽に暮らせることを覚えた世代が増えたためである。
・先住民たちが渡来人に感化され、人間の利益のみを考えるようになるにつれて、ポケモンたちは危機感を募らせていった。
・この危機感はついにポケモンの胎児にまで伝わり、ある時、特殊能力を持つ個体が生まれた。これは、後に人間から「とくせい」と呼ばれる力である。・世界初の「とくせい」を持ったポケモンが初めて人間と戦った時、「とくせい」で圧倒し、勝つことができた。
・この勝利は瞬く間にポケモンたちに知れ渡り、新たに生まれる個体には「とくせい」を持つ者が増えていった。
・先住民流の「共存」観を持つ人間の最後の一人が息絶えた後には、「とくせい」を持たない無能なポケモンは生まれなくなった。この時より、ポケモンが「とくせい」を持つことはあたりまえになった。
・かくしてポケモンはホウエン地方で「とくせい」を獲得した。ポケモンの「とくせい」は人間とポケモンの対立が具現化したものである。
・したがって、ポケモンが「とくせい」を失った時、ポケモンと人間が再び「共存」する黄金時代が再来する。
私が流星の民の長老から聞いた伝説の大まかな内容は以上である。なお、この記録は、長の語りを録音した後で文字に書き起こし、私が要約したものである。
以上、ホウエン地方民俗研究会所属博士の調査報告書より抜粋
……とまあ、こんな経緯でポケモンの「とくせい」が発生したのではないかと。従って、ヒスイ地方はポケモンたちと先住民の信頼関係が続いており、まだ「とくせい」を獲得するに至っていないのではないか、と私は考えております。
なお、
・世界初の「とくせい」は何だったのかは、ポケモン学界で議論が続いている(という脳内設定)ので読者の想像にお任せする。
・上記の「伝説」は私が創作したものであり、公式ではなく、あくまでも想像の域を出ていない。
上記の2点をお断りしておきます。
以上、少々長くなってしまいましたが「ポケモンの『とくせい』は世代交代で徐々に広まった」説を提唱いたしました。ご清聴ありがとうございます。
実はこの聞き取り調査には続きがあるのですが、これはもう考察を超えて完全に2次創作なので、読みたい方だけお読みください。
伝説を語り終えた長老への質疑応答記録
以下は、伝説を語り終えた長老への質疑応答記録である。
Q1、先住民の伝説なのに、渡来人の言い分や価値観が含まれているのはなぜですか?
A1、流星の民は中立を守ったからだ。両方の言い分を聞き、両者の考えを後世に伝えることは使命のひとつであると考えた。
Q2、流星の民は、先住民流の共存観を持っていなかったのですか?
A2、流星の民は中立を守った。ポケモンたちは流星の民を信じてくれなかった。悲しいことだ。
Q3、流星の民の使命とは何ですか?
A3、この世界に生きる全ての者を等しく救うことである。より多くの価値観を共存させれば世界は進歩する。世界の進歩は世界の存続に役立つ。
Q4、ポケモンがとくせいを失えば黄金時代が来るとのことでしたが、あなたはそれを信じていますか?
A4、理想ではあるが望みは薄いだろう。現代のポケモンたちは自らの力に酔っている。力に溺れた者を正気に返し、救うことは困難だろう。
Q5、現代の「ポケモントレーナー」や、トレーナー文化に対してどう思いますか?
A5、流星の民はいかなる時も中立を守る。よって、どのような文化であれ、非難も擁護もしない。ただ記録し、後世に伝えるのみである。
Q6、質問は以上です。本日は伝説についてお話しいただき、どうもありがとうございました。
A6、新たに伝説を記録してくれたことに感謝する。私はこの記録がより多くの者に読まれることを望む。私の話が聞きたくなったら、また来ればよい。
以上、ホウエン地方民俗研究会所属博士が提出した聞き取りテープ文字起こしより抜粋
……こう見ると流星の民は使命を背負いすぎているような気がしますね。みんな、もう少し肩の力を抜いて生きよう。