ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

【創作】☆7ブリガロンに勝った☆5オリーヴァ

私はポケモンのオリーヴァ。結晶洞窟で生まれたので、まだ外を見たことはありません。私はこの場で生み出されたポケモンだそうです。だからレベルは最初から75で、生まれてからレベルアップしたことは一度もなく、進化したこともないのだとか。これが私と野良ポケモンとのちがいだそうです。
「結晶洞窟は☆7まであるのに。なんで私は☆5なのかしら。☆7はレベル100のポケモンを生み出せるのに…私だってもっと強い子をつくりたいわ」
今しゃべったのは私の母体、☆5フェアリーの結晶洞窟さんです。今までの知識はすべて、この母なる結晶洞窟さんから教わりました。それにしても失礼ですね。私だって十分に強いのに。
「もちろんあなたも強いけど、近々お別れになる気がするの」
そうなんですか? 今まで、毒タイプだろうが鋼タイプだろうが、みんな「だいちのちから」でイチコロでしたけど。
「次はそうもいかないわ。きっと、あなたとお別れすることになる」
結晶洞窟さんの予感は的中しました。今、私と対峙している4匹のポケモンのうちの1匹は「でんじふゆう」したジバコイルです。「でんじふゆう」されてしまうと地面タイプの技は効きません。おまけに、このジバコイルのテラスタルタイプは鋼でした。他の3匹はなぜかテラスタルしないので受けるダメージは微々たるものですが、テラスタルしたラスターカノンの威力はずば抜けています。早々にバリヤーを破られ、もう手も足も出せません。今まで数々の毒・鋼タイプを退けてきた私ですが、ついに結晶洞窟さんとお別れする覚悟を決めました。
「さようなら、お母さん」
言い終えた直後に、最後のラスターカノンが直撃しました。私のHPは尽きてテラスタルの装甲は砕け散り、もう立っているのがやっとです。ふらつく私を見た挑戦者の一人がボールを構えました。
「やっぱり今日でお別れだったわね。さようなら。外の世界を楽しんで」
挑戦者がこちらにボールを投げつけました。私の体に、テラスタルしたボールが当たります。私は輝くボールに吸い込まれ、意識を失いました。
「やったー! オリーヴァ捕まえた! これでまた図鑑が進んだぞー!」
ボールの中で目覚めた私は、不思議なことに人間の言葉がわかるようになっていました。今まで、挑戦者の言葉が理解できたことはありません。このボールが翻訳してくれているのでしょうか。
「あ、ステータス確認するより回復が先か」
そうそう。早く回復させてください。私は「ひんし」でふらふらなんですから。
「最寄りのポケセンは、と。ここか。おーいタクシー!」
私をゲットした人間は空飛ぶ乗り物で私をポケモンセンターへ運び、私を回復させてくれました。それからずっと一緒にいます。残念ながら私はあまりボールから出されなかったので、空や海をゆっくり眺める機会はありませんでしたが「学校最強大会」とやらに何度も参戦し、地面や岩やドラゴンのポケモンたちを蹴散らしました。
「すごーい! やっぱり、☆5は頼りになる! 優秀!」
そうでしょうそうでしょう。争いは好みませんが、お役に立てるのは嬉しいです。
「これならきっと☆7でもゲットできる!」
そうですとも。きっと…☆7!? 
「よーし、待ってろよ☆7岩ブリガロン!」
どうやら我が主人は私を使って☆7のポケモンを捕まえるつもりのようです。最上級の結晶洞窟に会えるのは楽しみですが、はたしてうまくいくでしょうか。☆5で☆7を捕まえるなど、あまりに無謀では。
「そうと決まればテラスタルチェンジだな」
てらすたるちぇんじ? まさかご主人、私のテラスタイプを変えるつもりですか!?  母からいただいたフェアリータイプを!?  やだやだ! 絶対やだ!!
「ごねないで。相手は岩だから草のほうが有利なんだよ」
あれ?  ご主人に私の思考が伝わってる!?
「あ、ごめん言い忘れてた。あたし、サイキックなの」
さいきっくってなんですか?
「超能力を持った人のことだよ。あたしは相手の思考が読めるの」
それはすごい!  ご主人はエスパータイプなんですか? 
「うーん。そうかもしれない。普通の人がノーマルタイプだとしたら、あたしはエスパータイプなのかも。人間にもタイプがあるのかもね」
 なるほど。人間もテラスタルするんですね。
「ん? どうしてそう思ったの?」
人間はノーマルタイプなのに、ご主人はエスパータイプなんでしょう? 生まれつきのタイプとはちがうんですよね。ということは、テラスタルしてるわけでしょう。外見からはわかりませんけど。ノーマルからエスパーにテラスタルしているということは、格闘タイプ対策ですね?
「いや、あたしがサイキックなのは生まれつきだから、テラスタルしてるわけでは…まあいいや。とりあえず、君のテラスタイプは今日から草ね」
ぐう…しかたありません。名残惜しいですが、常にテラスタルしているご主人の言うことに従いましょう。ご主人はテラスタルの達人ですから、お考えに間違いはないはずです。それにしても人間のテラスタルは地味ですね。冠も装甲も、輝きさえないとは。
「人間のテラスタルは外見が変わらないから、タイプの変化がばれないんだよ。いいでしょ?」
それはいいですね! ポケモンのテラスタルは派手なのでタイプが丸ばれで、弱点を突かれやすくて。
「そこをフォローするのがトレーナーだよ。次のテラレイドもあたしに任せて。勝たせてあげる」
わかりました! よろしくお願いします!
「よし、それじゃ、チャンプルタウンの食堂に行こう」
なぜ食堂に? テラスタルチェンジするのでは?
「あそこの隠しメニューは、テラスタルチェンジ専用メニューなんだよ。あれを食べると、テラスタイプが変わるの」
料理を食べるとテラスタイプが変わる!? 不思議な食堂ですね…。
「まあまあ。あたしの言うことに間違いはないから。信じられないだろうけど、いっぺん食べてみてよ」
料理といえばサンドイッチしか知りませんでしたが、チャンプルタウンの食堂で出されたポケモン用メニューは、粉砕されたテラピースが混ざったお粥でした。料理人さんは歯の無い私でも食べられるようにテラピースを細かく砕いてくださったのですが、草タイプの生態はご存じないようです。草タイプの顔面についている口は発声したり攻撃したりするための器官なので、栄養を摂るのには使いません。なので、失礼ながら今回はお皿を床に置き、お粥に根を張って摂取しています。
「お味は…きくまでもないか。根に味覚はないよね」
はい。根に味覚はありません。でも、丁寧に砕いてくださったお気遣いは嬉しいですよ。料理でどうやってテラスタルチェンジするのかは疑問でしたが。まさか、テラピースを食べるだけとは。なんと単純な。
「あたしも驚いたよ。テラピースを一度に50個食べるとテラスタルチェンジできるなんて」
この事実を発見するまでに、料理人さんはどれほどの年月をかけられたのか…報いなければいけませんね。この発見にも、今回のお気遣いにも。
「まあまあ。そう気負わなくても。もうレベル100になったんだし、今のあたしたちに怖いものはないよ!」
ご主人は手持ちのポケモンがレベル99になると「学校最強大会」に出場します。ポケモンの経験値を一気に貯め、レベル100にさせるためです。ポケモンの世界において、これ以上のレベルはありません。ポケモンに最後のレベルアップをさせる大会をご主人は「引退試合」と呼んでいます。今日の「学校最強大会」は、私の「引退試合」でした。私も今回の大会でレベルアップして、無事にレベル100になりました。レベル100になって成長の止まったポケモンはボックスに押し込まれ、出番がなくなるのが普通です。現にうちのご主人はレベル100のポケモンを何匹もストックしており、初期の旅パーティはボックスに押し込めたきりなのだとか。
「いやあ、悪いとは思ってるんだけどね。だからこそ、最後のレベルアップは華々しく大会で、引退試合を…」
それで、今回の作戦は?
「あっ、はい。今回の作戦はですね…」
ご主人の作戦はえらく単純なものでした。1ターン目に「やどりぎのタネ」を植え付けた後は3ターン続けて「メガドレイン」を撃ってチャージを貯め、4ターン目でテラスタル。テラスタル後はひたすら「テラバースト」を撃ち、PPが尽きたら混乱するまで「はなびらのまい」を撃つ、という流れです。悠長な作戦なので最低でも14ターンはかかるうえに、一度の「はなびらのまい」で仕留められなかった場合、混乱への対策が必要です。
「キーの実を持ったら、きせきのタネが持てないから却下」
え、でも、もし混乱する前にトドメをさせなかったら…。
「大丈夫。私はバトル運が強いから、必ず勝てる。君が混乱するのは、はなびらのまい3撃目。その3撃目でトドメをさせるから、混乱対策は不要」
は!? もし2撃目で混乱したらどうする気なんですか!?
「癒しのエールで混乱を治して、もう一度はなびらのまいかな。でも、もしかしたらテラバーストだけで仕留められるかも。なんにせよ心配いらないよ」
そういうものですかね…まあ、しかたありません。最悪、混乱しながらでも「はなびらのまい」を撃ち続けるしかありませんね。
「うん。大変だろうけど、お願い」
わかりました。私も「最強の証」を持つポケモンに勝ちたいので、頑張ります!
「その意気や良し! それじゃ、ごちそうさま!」
食堂を出た私たちは空を飛ぶタクシーを呼び、結晶洞窟の近くに降り立ちました。今までも黒く輝く結晶洞窟は見てきましたが、やはり☆7結晶洞窟は☆6のものと佇まいがちがいます。近づくにつれて緊張してきましたが、ご主人の目には大してちがわないようです。
「なーんだ。見た目はただの黒い結晶だね」
そうですか? なんか、独特の圧を感じるんですが…。
「平気平気。それでは。いざゆかん、☆7テラレイドへ!」
結晶洞窟の中に入ってからは修羅場でした。私は結晶洞窟生まれのポケモンなので、この黒い結晶洞窟さんも少しはお話ししてくれると思っていたのですが、挨拶すら聞いてくれません。
「やあやあ! 私は☆5オリーヴァ! 今回は最強の名を…」
ブリガロンアームハンマー‼」
せっかく名乗ったのに、☆7結晶洞窟さんは無反応でした。挨拶は最後まで聞いてほしかったし、アームハンマーは痛いです。相手が格闘技を覚えてるなんて、聞いてません!
「ごめん、リサーチ不足だった。ブリガロンは草と格闘の複合タイプなんだね。効果抜群がタイプ一致でとんできたら痛いよね、ごめん!」
は!? 格闘がタイプ一致!? 降参! 降参しましょう!!
「でもメガドレインで回復できるから! とりあえずやどりぎのタネを撃って、3ターン耐えて!」
わかりました、わかりましたよ! やればいいんでしょ!
「うん! がんばって!」
ポケモンの背後で指示を出すだけの人間は気楽なものですが、私は頑張りました。予定通り作戦を進めて4ターン目で無事にテラスタルし、草の単タイプになりました。これでノーマルタイプがはずれたので、もう弱点を突かれることはありません。結晶洞窟の中でテラスタルするといつも懐かしい気分になりますが、何度テラスタルしても、自分とテラバーストのタイプが変化するだけです。もう私のHPは増えず、状態異常やステータス低下を解除することもできません。母の中にいた頃と比べると心細いですが、これで戦うしかありません。さらに10ターンかけて草タイプのテラバーストを撃ち尽くし、なんとか相手のバリヤーを突破しました。バリヤーを砕かれたブリガロンが体勢を崩します。
「いいぞ! 予定通り! あとは、はなびらのまいでお終いだ!」
ご主人は簡単に言ってくれますが、ここから先は完全に運任せです。「はなびらのまい」でまともな意識を保てるのは1撃目のみ。2撃目以降は疲労がたまり、いつ混乱してもおかしくありませんが、イチかバチか「はなびらのまい」を放ちます。
「よし、効いてる! いけるいける、あと少し!」
私はなんとか3撃目まで意識を保ちましたが、とても疲れました。「はなびらのまい」を使うのは久しぶりですが、いまだかつて4撃目まで正気を保った者はいないというのも納得の疲労感です。私はもう、敵と味方の区別もつきません。
「問題ない!」
ラスタルの装甲が砕け散ったのか、あたりにテラピースが散乱する音がしました。どうやら私は「最強のブリガロン」を倒したようです。あとはご主人に任せます。
「まかせとけ! 絶対ゲットしてやる!」
私の意識は混乱しているのでよくわかりませんが、ご主人はボールを投げつけたようです。「最強のブリガロン」は輝くボールに吸い込まれ、私たちの前から姿を消しました。
「よし、ゲットした! けど、喜ぶのはまだ早い!」
ご主人は「最強のブリガロン」の入ったボールを拾い上げてリュックサックにしまいましたが、まだ気を引きしめています。ご主人も私も、☆7の結晶洞窟は今回が初めてです。私の混乱は収まりましたが、この結晶洞窟さんは私たちを外に出してくれるでしょうか。
「・・・お、お」
☆7結晶洞窟さんが震えています。他のトレーナーやポケモンたちも、警戒を緩めていません。この結晶洞窟さんは自分の敗北を認められないのでしょうか。まさか、このまま崩れて私たちを生き埋めにする気では…。
「お、おめでとう! 私に勝ったのは、君たちが初めてだ! 今回のホストは君だね? コングラッチュレーション! そのブリガロンは防御に特化した自信作だ! ご覧のように攻撃力はいまひとつだが、うまく使ってやってくれたまえ!」
どうやら☆7結晶洞窟さんは初めての敗北が嬉しすぎて震えていたようです。ようやく己の想像力を超える者が現れたからか、むしろ浮かれているのが伝わってきます。
「あれで攻撃力『いまひとつ』なんだ…」
基準値が高すぎますね…私、☆7の子に生まれなくてよかったです。
「そうだね…次の子が攻撃特化型だったら、やめとこうか…」
「そんな!? 次回はすばらしい攻撃力の個体をお見せする予定なのに‼」
「ムリムリ! 今のブリガロンで精いっぱいだったんだから! 絶対勝てないよ!」
私も遠慮します。
「何を言う! オリーヴァは耐久型だから、攻撃型との相性は良いはずだ! これにこりずまた挑戦してくれたまえ!」
ひえぇぇぇ。結晶洞窟さんはみんなバトル好きではありましたが、敗けてはしゃぐ方は初めてです。
「はっ。いかん。忘れていたぞ。君たちを外に出さねば。☆7チャレンジお疲れさま!」
「あ、はい。お疲れさまでーす…」
私たちは無事に☆7結晶洞窟さんの外へ出られました。振り向くと、黒い結晶が淡く輝いていて、今にも消えそうです。
「それではまた次回! アディオス!」
気さくなバトル狂の☆7結晶洞窟さんは楽しげに消えていきました。あの修羅場に立とうとする酔狂なトレーナーが再び現れるとは思えませんが。
「他のトレーナーとポケモンも疲れ果ててたもんね…次回はまず様子見だな」
そうしてください。今回は初敗北でむしろ浮かれてらっしゃいましたが、また敗ければ連敗になります。それでもまだ喜んでくださるかどうか…。
「それもあるし、☆7の基準で言う『自信作』はポケモンというよりバケモノだし。下手に手を出すと、冗談抜きで死ぬかもしれない」
ええ…今回は大変でした。生きて戻れて本当によかった。ご主人、ケガはありませんか? よければ私の実でも食べてください。
「いや、実はいらないけど…今日はありがとうね、オリーヴァ」
こちらこそ。約束通り、勝たせてくれてありがとうございます。やっぱり私、勝つのが好きです。
「えー。争いは好まないとか言っておいて、オリーヴァもバトル好きなんじゃん」
言われてみれば…で、そのブリガロンさんは回復させてあげなくていいんですか?
「あ、やばい。さっきバケモノって言っちゃったし、心も傷ついたかも…急ごう。ヘイ! タクシー!」
こうして私たちの冒険は幕を閉じました。私やブリガロンさんはたまに☆6のポケモンを倒しながら、今日もご主人のボックスで待機しています。次はどんなポケモンに出会えるでしょうか。外の暮らしもなかなか楽しいですよ、お母さん。 END

 

※これは筆者の『バイオレット』版プレイ体験を元にした二次創作です。

 

結晶洞窟グレード別性格覚書

☆1・2:ポケモンを自力で生成できず野良ポケモンを加工して使うので、使用する個体は作品と認識している。ジム攻略旅中の挑戦者が多いので、即戦力を提供する慈善事業のつもりでバトルしている。敗けた作品はゲットされることが多い。強すぎるトレーナーには興味がないのでチャンピオンクラスの前には現れない。使う種にこだわりはないので初期形態でも平気で使う。

「今回も良作だったな。バイバイ。トレーナーの役に立つんだぞ!」

☆3・4:ポケモンを自力で生成できず野良ポケモンを加工して使うので、使用する個体は作品と認識している。チャンピオンクラスの前にも表れるが瞬殺されることが多い。逆に、ジム攻略旅中のトレーナーには圧勝してしまうことが多い。どちらにせよ作品がゲットされることは少なく、義務感でバトルしている。使う種にはこだわりがあり、進化形態/進化しない種のいずれかを使う。

「旅のトレーナーは弱くてつまらん。チャンピオンクラスは強すぎてつまらん。要するにバトルはつまらん」

☆5・6:ポケモンは自力で生成できるので野良ポケモンは使わない。生成した個体は我が子と認識している。強いトレーナーが好きなので積極的にチャンピオンクラスの前に現れ、バトルを楽しんでいる。ステータスが高く珍しい特性の子をつくってくれるので、即戦力を求めるチャンピオンクラスには好評。しかし☆6は強すぎて人間からクレームが入ったので、毎日1体ずつ出現すると決まった。

「勝つのも負けるのも、いつも接戦だから楽しいわ。チャンピオンクラスが好きよ」

☆7:こだわりが強いので自分が生成した個体しか使わない。パルデア地方には生息しない種を積極的に生成し、完全な娯楽でバトルする。気まぐれなのでめったに出現しない。弱いトレーナーには興味がないので、チャンピオンクラスにしか認識されないように表面を加工している。最強なので他の結晶洞窟を統率していると思われがちだが、結晶洞窟たちに指導者はいない。

「チャンピオンクラス以外は私に挑戦しないでくれたまえ。弱いトレーナーに興味はないのでね」

 

以上、サイキックのトレーナー、チャンピオンクラス:アオイの覚書より抜粋。

 

※上記の覚書は後日、追記したものです。