ロマンというほどでもない

日常以上、ロマン未満のモノを紹介するブログ。たまに私見も書きます。

『そして、すべては迷宮へ』 中野京子が絵画以外も語る。

中野京子著『そして、すべては迷宮へ』を読みました。本作は文春文庫オリジナルなので、元になった単行本はないようです(⇩)

books.bunshun.jp

中野京子氏(以下、中野氏)といえば西洋絵画の解説本が有名ですが、本作の内容は絵画の解説だけではありません。第一章は読み慣れた絵画解説ですが、第二章では有名人について述べたり、人生についてのエッセイがあったり。第三章では書評したりと、今までの絵画解説本とは少し毛色がちがいます。それもそのはず、この本は新聞や雑誌に掲載された中野氏の記事をまとめたものなのです。中野氏が書いた記事の寄せ集めなので、このようにとりとめのない内容になっているんですね。文庫オリジナルなのもうなずけます。大きな判型で読みたいほどの内容ではありませんし、この内容で千円以上払うのはちょっと…となる。でも、買ってみてよかったです。美術ファンからすると絵画の解説が少ないので物足りないかもしれませんが、中野京子ファンには嬉しい内容でしょう。中野氏の仕事の幅広さがうかがえます。本書のカバー袖によると中野氏の本業は「作家・ドイツ文学者」とのことなので、書評は難しくなかったでしょう。しかし、第二章は「身辺雑記」です。本書のあとがきによると中野氏は平凡な生活をしており、特にドラマティックなことは起こらないので、題材探しに苦労したとのこと。道理で第二章はウンチクというか、トリビア系の話が多いわけですね。私も物書き(といっても匿名ブロガーですが)なので、少しは中野氏の苦労がわかります。私生活でドラマティックなことはめったに起きないことに加え、個人情報が出ない記事を書こうとすると、何かの紹介・解説・感想といった内容になりがちなのです。逆に言えば、教養があったり読書量(インプット量)が多い人は、私的なことを書かなくても充分に面白い記事が書ける。個人情報を出さなくても文字数を稼ぎ、記事を仕上げることができるのです。私もこうありたい。結局、最後まで読んでも書名がなぜ『そして、すべては迷宮へ』になっているのかはわかりませんでしたが。本書の「迷宮」は人生を指しているのかもしれません。たとえ王侯貴族であっても戦死したり病死したり暗殺されたりして老衰まで生きられなかった人もざらにいる。我々現代日本人だって、いつ死ぬかわかったものではない。人生は出られない迷宮みたいなものだから、迷いや先の見えなさを楽しんだもの勝ちということか…まあ、書名をつけられた方がここまで考えていたかどうかはわかりませんが。人生は楽しんだもの勝ちなのは事実なので、まとめ買いした他の本も楽しませてもらいます。どうか積読になりませんように。

 

以上、中野京子著『そして、すべては迷宮へ』を読みました。中野京子ファンにはおすすめです。Amazonへのリンクはこちら(⇩)

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